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短編集 詰め合わせ

クツシタ

作者: 忍者の佐藤

単刀直入に言うと俺の靴下がクサい。

具体的にどんな臭いかというと、アンモニアの原液にたい焼きと干し草を入れてミキサーにかけてそれを嗅いだ後に頑張って出したウンコのような臭いがする。

もしくは3日間洗っていない汗まみれのTシャツに納豆をたらして揉んだものを嗅いだ後に踏ん張って出したウンコのような臭いがする。


何故こんな事になったのかを説明する。俺は今日晴れてニートを卒業し、工場勤務をすることになった。それは良かったのだが、ずっと立ちっぱなしで足の感覚が無くなり、12時間労働による極度の疲労、同じ作業を繰り返す事によって常に襲ってくるドウシテボクハココニイルノ感で、もう家に帰る気力もないほど衰弱していた。

そんな中なんとか家に帰ってきて、残りの体力を振り絞りながら靴を脱いでいると

心配して駆け寄ってきた母親が

「ウオオオ」

と吠えて廊下の奥の方に走って行った。威嚇行動か?

ん?と思った。次の瞬間、前述したよううな形容しがたい強烈なにおいが俺の鼻を貫いた。

「クサァ!!」

俺は上着で鼻を塞いだ。なんだこの臭いは?


「あんた、靴下クサいわよ!さっさと脱ぎなさい」

ガスマスクを装着した母親が戻ってきた。

そうか靴下の臭いか。俺は靴下を強引に脱ぐと玄関先に放り投げた。俺は自分の体力はとっくに尽きていたものだと思っていたが、臭いを嗅いだ瞬間から意識は鮮明に、行動は俊敏になっていた。これが火事場の馬鹿力というやつか。もしこの後クラブのDJとして呼ばれたて行けば、夜通し靴下をディスっていられる自信があった。

「これ」

母親はそう言うと手に持っていたトング(ゴミをつかむ道具)とビニール袋を俺に手渡した。

「ビニール袋に入れて、捨ててきなさい」

ガスマスクにより籠った声で言う母親を背に、俺は改めて脱ぎ捨てた靴下を見た。

よく見ると靴下から陽炎のようなものが立ちあがっているのだからタダ事ではない。

俺は左手で鼻を防御しながらゆっくりと靴下の方へ進む。防御していても防ぎきれない。僅かなスキをついて入ってきた臭いが容赦なく鼻を痛めつける。どうしてこんな臭いになった?俺は悪魔と契約を交わしたのか?

「フハハ。良かろう、お前の月収を30万円にしてやるが代りに靴下をウンコスメルにしてやる」

って言ってたりしてな。

うん、win-win。


俺は震える手でトングを靴下に伸ばす。陽炎で揺れる靴下に、触れる。

ジュっという音が聞こえたような気がした。闇の契約説が現実味を帯びる。


俺は恐る恐るそれを摘み上げ、ビニールに入れて素早く結んだ。ビニール袋が破れるんじゃないかと思うほどにキツく。

俺はトングを母親に返そうと思ったが、

「そいつはもうダメだ。捨ててこい」

とガスマスクを着けたまま言われた。無慈悲である。


翌日、俺は筋肉痛と残留疲労を全身に感じながら、なんとか起き上った。昨日は本当に初体験の連続だった。初めて働いた。初めて体の限界を感じた。臭いで死を覚悟したのも初めてだ。


俺は支度を終えると家を出た。歩いていると、昨日靴下を捨てたゴミステーションに差し掛かった。俺は出来る限りゴミステーションから離れて歩いたが、それでも悪魔の刺激臭は俺に襲い掛かる。臭いを感じた瞬間、立ちくらみと眩暈がした。だが同時に体の痛みが消えていることに気づく。体も軽くなっている。

俺の頭の中をRPGのアイテム表示画面が映った。

使用済み靴下:嗅ぐと体力を全回復する。



……さあ、今日も元気に働こう。


ご閲覧いただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 身近な物の凶悪な一面にスポットを当てつつ、笑いに昇華してて見事です! 笑った後、同様の行為をすると哀しくなるので、速やかに靴下を脱ぎ足を洗いました。
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