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丸腰傭兵ユージ  作者: 沼 正平
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終わらない物語

 また普通の生活が始まってしまった。ここでは腹も空くし家賃も払わなくちゃいけない。金を稼がなくてはいけない。まずは仕事をすること。それが生きるために必要だった。それは異次元世界での生活よりも遙かに過酷のように思えた。この世界に棲息する敵の方が遙かに強大で凶悪だ。

 優二がこの世界に戻ってきた時、世の中はたったの二日間しか進んでいなかった。そして、優二が二日間消えていたことに、特に誰も気が付かなかったようだ。

 一方、彩の場合はちょっとした騒ぎになった。新宿の事故で突然蒸発してしまったものが、三日後にひょっこり自宅に現れたのだ。新聞やテレビで特集され“空白の三日間”の見出しが踊った。が、彩は記憶喪失とされ、三日間どこで何をやっていたのか、全く足取りを掴むことは出来なかった。新宿駅前から自宅まで、あらゆる防犯カメラを解析しても彼女の移動する姿は捉えられていなかった。事件は何の変化も進展も見せず、騒ぎの初期の段階で関心が薄くなり、次第に話題とされなくなっていった。

 優二はがっかりした。別に楽しい想い出でもないが、有り得ないような特殊な経験を共有した仲間のように思っていた彩が、あの異空間での自分との行動の記憶を失っていることに軽い失望感を感じた。誰にも話せなくとも、彩だけが知っていればイイと思っていた。それが、結局この世界では自分だけの記憶になってしまった。

 優二はそんな寂しさを紛らわそうとしてか、娘の麗香に会いたいと思った。別れて暮らしてはいるが、父親思いの優しい子である。理由を付けずとも会おうと言えば会ってくれる。が、用も無いのにただ会いたいと言うのも気が引ける。服でも買ってやって、何か美味しい物でも食べさせてやろう。痛い出費だが止むを得ない。場合によってはあの異空間から戻れなかったかも知れない身だ。愛しい娘と無事再会出来るだけでも宝のようなものではないか。優二は麗香にメールを送り、週末に会う約束を取り付けた。

 そして今日は、待ちに待った週末であった。新宿アルタ前で待ち合わせることにした。彩の物語はここから始まったのだな、という思いでその場所を選んだのだ。

「お父さん元気?」

「うん、元気は元気だよ。何とかやってる」

 麗香と優二は並んで新宿通りを三丁目方面に歩きだす。伊勢丹でちょっと買い物して、来た道を戻って紀伊国屋書店に寄り、更に麗香の希望でヤマダ電機でデジカメを見て、今度は靖国通りを渡って西武新宿方面へ。

「ちょっと休もうよ」

 麗香はそう言ってマックを指差した。電機屋に寄ろうと言った時は既にマックへ行くつもりだったらしい。

「何だ、親に気ぃ使うなよ」

 そう言いながらも、優二は娘の気遣いが嬉しかった。確かに豪華な食事をさせてやる余裕が無かった。


 彩は明日香と美咲と三人で新宿の街をブラブラと歩いていた。事故現場に行けば何か思い出せるのではないか、という美咲の意見でその時の状態を再現しようというのだ。彩は全く乗り気ではなかったが、二人があまりにも強攻に勧めるので、どちらかというと彩が付き合っているような感じであった。

 東口の信号で三人は立ち止まった。

「ここで車に轢かれたんだよ、覚えてる?」

 美咲が道の中程を指差して言う。

「轢かれてないし。ちゃんと生きてんじゃん」

「どこまで覚えてるの」

「なーんも覚えてない。みんなきれいさっぱり忘れちゃった」

 明日香がちょっとムッとする。

「何よぉ、彩のためにやってるんだから真面目に思い出してよ」

「だからぁ、思い出さなくてもイイって言ってるし」

 明日香も美咲も、結局は興味本意なのだ。空白の三日間に彩がどこで何をしていたのか? ただそれを純粋に知りたいだけだった。それは別に、彩のためでもなんでもない。彩にはそんな二人の気持ちが手にとるように感じられた。 

「もういいからさぁ、何か食べようよ。腹減った」

 三人は新宿通りを横断し、靖国通りへ向かった。

「何食べる? ケンタ近いけど」

「チキン食べる気分じゃないなぁ~。マック行こうよ」

「マック潰れちゃったじゃん」

「歌舞伎町のでしょ。西武のは今月までやってるはず」

 もう二人の興味も彩のことから離れたらしく、どうでもいい話しをしながら西武新宿方面へ歩き出した。

 店の前まで来た時、親娘連れが二階席へ上がっていくのが見えた。

「あ、いた!」

 彩はその親娘連れを指差して嬉しそうに笑った。明日香も美咲も、今まで見たことも無いような彩の笑顔であった。

「何、知り合い? 中学生みたいだったけど」

 彩はそれには応えずさっさと注文を済ませて二階へ上がった。二人も合点がいかないまま、首を傾げつつそれに従った。

 目的の二人はすぐに見つかった。二人席で向かい合って座っている。彩は偶然あいていた隣の席を移動して、そのまま優二の隣に座る。

「おい、元気か!」

 麗香は彩と優二を交互に見てきょとんとしている。

「お父さん、この人誰?」

 明日香と美咲も目が点になっていた。女子中学生の方が知り合いだと思い込んでいたのだ。

「おやぢぃ? どういう知り合いよ」

 明日香が小声で美咲にささやく。何よりも、こんなしょぼくれた中年相手に、彩が嬉しそうに話し掛けてるのが意外だった。彩はいつも無気力そうでどこか投げやりだった。いつもどこか冷たく醒めていた。こんな彩を見たのは初めてのことだ。

「彩さん、どうしてここに……。ってか、お前、記憶が…」

 優二は慌てふためきしどろもどろになった。こんなタイミングで再会するとは思ってもいなかったし、第一、彼女は失踪時の一切の記憶を失っているとメディアが報道していた。もうお互いが分かることも無いと諦めていたのだ。

「色々訊かれるの面倒めんどぃからさぁ、思い切って記憶が無いことにしちゃった」

 全くそのテキトウさは向うにいた頃と変っていなかった。

 立ち尽していた明日香と美咲は、とりあえず別の席を見つけて座った。興味はあったが、さすがに遠慮した方が良さそうだと感じたのだ。麗香は相変わらずいぶかしげに二人を見比べていた。

「あ、えーと、彼女は友達というか知り合いというか……」

「あたしねぇ、お父さんの戦友なの」

「センユウ?」

「ねぇねぇ、優二の娘さんでしょ、名前なんてーの?」

「麗香です」

「あたし立花彩、よろしく。良かったねぇ~お父さんに似ないで」

「良く言われます」

 麗香は微笑しながら答えた。彩は腹を抱えて笑い出した。初対面の二人が、不思議なほど打ち解けている様子であった。別席でその様子を見守っていた明日香と美咲はそのやりとりを見て呆気にとられていた。

「こんなお父さん持って苦労するよねぇ。でもイイおやぢだよ、大切にしてあげてな」

 彩は優しい笑顔でそう言った。からかっているわけではなく、本当にそう思っていることがその表情から感じられた。

「親子水入らずのところ邪魔したね。じゃ!」

 彩は手を振って席を立った。優二も慌てて立ち上がった。

「おい、携帯の番号教えろったら!」

 彩と優二の物語は、まだ終わらない。


 この物語を読んでくだすった方々に、心よりお礼を申し上げます。

 最初は短い話のつもりで、簡単に設定だけ決めて書き始めました。大体1話を2時間くらい考えて書き上げ、軽く読み返してすぐ投稿という形をとりました。そのために練れていないところも多かったかも知れません。

 コンセプトとしては“肩透かし”です。サブタイトルはそれらしく、しかし内容に派手さは無く、大仰な名前の武器もただの木の棒、みたいに。

 敵生物のディティールなども、わざと曖昧なままにしました。8本脚の下等な生物。きっと読者の皆さんそれぞれのイメージでこの物語を飾ってくれたことと思います。

 今回は初投稿ということで短期間で仕上げましたが、次回はもう少しゆっくりと、内容のある物語を書いてみたいと思っています。

 その時はまたお読みいただけると嬉しいです。

 また、感想をいただけると創り甲斐があります。誤字や脱字のご指摘でも結構です。ご面倒かと思われますが、是非とも宜しくお願い致します。

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