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丸腰傭兵ユージ  作者: 沼 正平
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適者生存

 彩の大絶叫が草原に響き渡った。取り乱した彼女の獣じみた咆哮ほうこうはしばらくの間続いた。やがて自分が生きていることを確認し、なぜ生きているのか不思議に思った。確かに今、自分は潰されて死んだはずなのだ。だが、生きている。両の目からは涙が止めどなく溢れた。死の恐怖と、死を免れたことへの安堵、そして記憶の混乱からの過大なストレスを中和しようとするかのごとく、彩の口からはひたすら嗚咽おえつが溢れていた。

 目の前には5体、8本脚の生物が彩を見詰めていた。それはもう敵ではなかった。彼らは彩の同胞であった。懐かしい仲間であった。彩もその異形の生物達も、お互いに憎み合う存在ではなくなっていた。彼らは絶滅の危機を回避すべく、已む無くこの世界に侵入した難民なのだ。彼らには全く悪意はない。ただ、生き延びたいだけだ。その想いは完全に理解している。たった今まで、彼らと同じ生を経験していたのだから。

 彼らは先の戦いで優二の記憶を操作した。そのことによって、何故この二人の異邦人が自分達に対して敵対行動をとるのかを知った。優二も彩も全くの第三者であり、本来彼らと戦う理由のようなものは無いはずなのだった。傭兵として連れて来られた二人は、この地の先住者の言いなりで戦っていたに過ぎない。確かに戦いを拒否する選択肢もあったはずだし、戦闘の中に喜びを感じていたこともあったようだ。それに対しては嫌悪、憎悪の対象ではある。だが、出来ることなら戦わずに和解の道を模索出来ないかと思った。彼らが殺しあう必要は無いのだから。

 彼らにとって、この世界は理想的な世界であった。大型の捕食動物も見られないし、知性を持った生物もいない。肉体を持たない意識体が浮遊しているだけで、それらは彼ら実体を持つものに対して何らの危害も加えることは無かった。時々精神波のようなものを投げかけてくるので、その時だけシールドで防御すれば全く問題が無かった。ただ、この世界の意識体が空間を占拠しようとするので、彼らはそれを中和しなければならなかった。その作業により実体を持たない光る意識体の存在が失われてしまうことには、全く気付いていなかった。

 彼らに罪はない。彩は彼らの代弁者としてこの世界の先住者である光の意識体と話し合わなければならないことを悟った。彼らはただ生きたいだけなのだ。それ以外の多くを望んでいるわけではない。

「ねぇ、彼らは戦いたくないって。この世界に住まわせてくれるだけでいいって言ってる。彼らは難民なのよ。好戦的な種族に追い立てられてしょうがなしにこの世界に来たんだって。何とかここで一緒に住めないかなぁ」

〈それは不可能です。我々と彼らが共存することは百パーセント無理なことなのです。私達の高度な科学が出した結論です。こればかりはどうにもなりません〉

 光の意識体は昂然と言い切った。

「じゃあもし、私が戦いをやめて中立を守るとしたら、彼らに攻め込まれてあなた達は消えちゃうんじゃない」

〈それは脅しでしょうか? しかし、私達の進化は最終段階に入っています。彼らが侵攻してくる前に、我々の進化は完成することでしょう。そうなればこの世界は我々と全き合一を果し、いかなる侵入も許さなくなります。ここにいる皆さんも、このままこの地に留まれば消え去る運命にあります。それに、この世界は元々私達の世界です。彼らは我々にとって“侵略者”でしかありません。彼らは私達の世界に侵入し、私達を“無化”します。彼らの事情というものも理解出来ます。だからと言って、我々は彼らに滅ぼされなければならないのでしょうか? 私達もこの世界と、己の存在を守らなければなりません。そのためにお二人を呼んだのです〉

 確かに光の言うことが道理である。片や自分の世界を守る者。そして自分の世界から追い出されて、他人の世界を侵そうとする者。どちらがより正しいか、と問われれば、これはこの世界の先住者である光の意識体の主張の方が正しい。こうなってしまうともう妥協の余地も無く、彩は光の意識体の主張を全面的に認めざるを得なかった。

 〈彼らは自分達の変異体である大型の個体に攻撃を受けていると言います。そして今まさに、彼らは滅びようとしています。彼らにとっては重大なことかもしれませんが、彼らの世界は別の種族によって受け継がれていくのです。その世界により適したものが、その世界を譲り受けるのです。こんな言い方は酷に過ぎるかも知れませんが、“世界”にとっては住人が替わったところで何ら影響はありません。彼らが衰退、滅亡の道を歩むのだとしたら、それもまた世界の秩序に従ったものであるということです。もし彼らに生き続けなければならない“存在理由”があれば、きっと絶滅する前に新しい世界が見つけられることでしょう。ただ、我々にはそれを祈ること以外の手助けは出来ません〉

 光の意識体が言うことは難しくて良くわからない。彩は分からないなりにその内容を頭の中で整理し、更にそのイメージを異形の生物達が読み取っていた。彼らはこの世界への望みを断ち切らねばならなかった。この世界で生きることが不可能となった今、この世界がいかに彼らに適していようと、いつまでも恋々としているわけにはいかない。早々に見切りを付けて、一刻も早くまた新しい世界を探さなければいけない。それ以外に彼らの生き延びる道は無いのだ。彼らは多くの同胞の眠るこの地を、潔く諦める決意をした。

 彼らの意気消沈した感情が、彩の脳内に直接流れ込んでくる。非常に微弱な意識波であったが、彼らの落胆振りは生々しく彩の心を打った。願わくば彼らの楽園、彼らの新天地がはやく見つかりますようにと、普段意識もしていない神に向かって祈った。その感情は彼らにも伝わったようだ。彼ら5体の生物からは喜びと親愛の感情が伝わってきた。彩もそれに微笑で返した。彩と優二は彼らの同胞をたくさん殺してしまったが、今はそのわだかまりも薄れていくようだった。


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