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丸腰傭兵ユージ  作者: 沼 正平
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進化

 偵察隊と応戦した後は全く敵の動きがなくなった。しばらく平穏な日々が続いている。二人とも特にやることがない。次の戦闘に向けて英気を養う、なんていう必要性も感じないし、武器を創ることも禁じられてしまっている。

 次の攻撃があった時、それは敵にいくらかでも勝算が生じた時であろう。今も着々と作戦を進めているのかも知れない。だとすればこちらも何らかの対抗策をたてておきたい。仮に今、敵が突然攻め込んできた時に彼らのとり得る行動といったら、二人して棒っ切れで叩きまくるだけなのだ。何かもう少しカタチになる作戦をたてたい。

「スコップでもあれば穴掘って生埋めにしてやるんだがなぁ~」

 それは以前から考えていたことであった。一々一体ずつを相手にするよりも、まとめて穴に落として上から土を掛けてしまった方が手っとり早い。効率から考えれば最善の策だと思われるのだが、何しろ穴を掘る道具がない。地面は固くて小石も多く、とても手で掘る気にはならない。パワーショベルがあれば小一時間で済む作業が何日も掛かる。穴を掘っている間に敵が侵入したら苦労が水の泡だ。

 結果、何もしない。何も出来ない。自分達は圧倒的に強い。それは自信でなく現実なわけだが、何も出来ないでいることに酷く焦燥があった。何か事態を打開するような行動を起こしたい。ほんのわずかでも自分達が有利になることをしたい。

〈焦ることはありません。今は少しでも時間を稼ぎたい時です〉

 いつの間にか近くに光の点が浮遊していた。

「彩さんはどうした」

〈木の棒を持って出掛けました〉

「そうか」

 ノートゥングと名付けたあの聖剣があれば、突然敵と対峙したとしても心配はないだろう。

「時間を稼ぐってのはどういうことだ? 一刻も早く奴らを殲滅したいんだろう?」

〈いいえ、彼らを根絶やしにする必要はないんです。私達の進化は加速しています。相互融合によって意識が凝集されているのです。私達が完全に一つになった時、この世界とも全き統一を得ることが出来ます。その時は最早もはや彼らはこの世界に足を踏み入れることは出来ません。この世界となった私達は彼らを排除することが出来ます。その時が戦いの終りです。だからこのまま平穏に時が流れて、私達の時間に至るまで戦闘を回避出来ればそれにこしたことはないのです〉

「そうか、じゃあ奴らの殲滅は君らにとって絶対必要条件ではない、ってことになるんだな」

〈そうです。ただ、この世界に侵入した彼らは我々を消去しようとします。侵入者は排除しなければなりません〉

だとしたら、このまま敵が攻め寄せる前に彼らが進化を完了してしまえば戦いを回避することが出来るわけだ。結論から言えばそれが一番望ましい。優二も彩も戦わなくて済むし、あの八本足の敵も死なずに済む。いくら下等な生物とはいえ、必要もなく無闇に殺すのは気が進まない。とりあえず彼らが攻めて来ないことを祈るしかない。

「奴らにこの世界を侵略しないように説得することは出来ないものかね。もっとも、あの調子じゃ意思の疎通なんか出来そうにないけどな」

 それは優二の独り言のようであったので、光はえて答えようとはしなかった。

「俺もちょっと出掛けてこよう。少しは身体を動かさないといざって時に動かないからな」

 優二はもう一本残っている木の棒を持ち、丘を下り始めた。光もその後をついて来る。何かあった時には彼らの黒玉で移動する必要がある。単独行動をする時には必ず随行してもらうようにしていた。

 彩も優二も、気が向くとそこらへんを散歩している。何しろ他にやることが見つからないのだ。酷く無駄な時間を過ごしてしまっている自覚はある。だがどうしようもない。ここの住人である光の意識体にとっては、この時間の経過は非常に重要なものであることが分かった。今、やることもなく草原を歩いているこの時にも、彼らは進化を続けているのだ。彼らの進化が止まれば、戦いは終わる。そして彩と優二の、この世界での存在意義も失われる。それは二人が元の世界に還る時でもある。元の世界に戻ったら、まず仕事を探さなければならないだろう。今のところアパートの家賃は滞納してないので、今も留守扱いにはなっているだろうが、こちらでの滞在が長引けば、それもどうなるか分からない。

 ここでの生活は今のところ安定している。だが、戻った途端に彼は社会の波に呑み込まれてしまう。それは今から覚悟しておかなければならないことだ。いつまでも非日常の世界で夢を見ているわけにはいかないのだ。

 その点、彩はまだ救われている。未成年だから親が保護してくれる。或る意味ここでの生活と還ってからでは、優二ほどは大きなギャップがない。行方不明になっていた期間については根掘り葉掘り訊かれることになるだろうが。

「この世界はどこまで行ってもこんな感じなのかね?」

〈そうですね。ここには大型の動物はいません。植物と虫と微生物などが主に生息しています〉

「君らが実体を持っていた頃の名残なごりとか、建築物とかは?」

〈私達は実体を持っていた頃から精神を飛躍的に進化させていました。物質的な建造物などは必要としていなかったのです。あなた方と違って、進化の源流にある素材が既に高度だったのです〉

 光の意識体は幾分いくぶん誇らしげに言う。

「何だ、聞き捨てならないぞ。それじゃ俺達が程度の低い生物みたいじゃないか」

〈失礼しました。そんなつもりではなかったのですが。ただ、我々から見れば、やはりあなたがたはあまり高等な生物とは思えないんですよ。獲物を見つけるための聴覚・視覚の器官が頭部から張り出し、栄養分吸収のための口には噛み砕くための歯を持っている。更に言えば生殖器と排泄器官が同位置に設置されている。これは私達の価値観からすると、知性が生じる生命体としてはあまりにも醜悪なのではないかと……〉

「俺の世界では、動物は大抵そんなだぞ」

〈ですから、進化の源流にある素材に問題があったのではないかと……。ただそれは偶然そうなってしまったのであって、ユージさんには何の責任もないことで〉

「やめてくれ、自分が情なくなる。そうか、俺達はそんなに下等か」

 気分を害したわけではない。自分の世界しか知らなければ、自分達の進化を他と比べる術も無い。ただこうやって異なる世界の住人から、己が低次元の生物であることを突き付けられると、なんだかむなしくなってくるのだ。元いた世界では、人間は自分達のことを“霊長”と呼んでいた。その世界の中で、一番高度で、進化の頂点に立つ生き物だった。

「けっ、何が霊長だ」

 どうやら人間は、この世界の知性体のように進化する権利は持っていないようである。優二は急速に八本足の侵略者に親近感を覚えるようになった。


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