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丸腰傭兵ユージ  作者: 沼 正平
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弱点

 直径2メートルほどに膨張した黒玉は瞬時に収縮し、その場所には優二が立っていた。

「何よあんた、今頃来て」

 優二は辺りを見渡した。敵兵の死骸が比較的広範囲に散らばっている。それだけ始末するのに手間取ったということだ。思いのほか大変な戦いだったに違いない。

「こっちが必死で戦ってた時に、どこで何やってたのよ」

 優二は彩の詰問に応えず、彩が武器にしていたらしい草を拾いあげた。

「これじゃ大変だったろう。もっと根株の土を落としてやるんだ。そうすると力が弱くても振り上げられる」

「はじめっからあんたがやれば良かったでしょ。今まで何やってたの?」

 彩は疲労と苛立ちから、優二に不満をぶちまけた。

「他の場所の敵を片付けていたんだよ。敵は四ヶ所に現れたって。ここの敵は彩さん一人でたおせると信じてたから、えて違う場所の敵を相手にしてたんだ。俺の思った通り、こいつらは彩さん一人で十分だったしね」

 やはり分かっていて助けに来なかったのか、という怒りもある。しかし、自分のことを信じて任せた、と言われてしまうと、ちょっと怒りようがない。文句を言えば、自分が信用するに値しない実力しか持ちあわせていないことを自ら認めてしまうことになるからだ。

「そりゃそうよ、この程度の数、私一人で十分だったわ」

 口振りは相変わらす不機嫌そうであったが、自分が期待に応えて一人でやりおおせた誇らしさと、助けに来ずに大変な思いをしたのも自分を信じてくれたからだということを知り、努力が実ったような充実感を感じていた。自分はやれば出来るんだ、という自信が身体に漲った。

「おや、その足はどうしたんだ」

 彩は草を持つ時に巻いていたスカーフで、怪我した右のふくらはぎを縛っていた。

「怪我したのか、見せてみろ」

「バカ、来るな、触るな!」

「破傷風にでもなったら大変だぞ」

 この世界に破傷風があるかどうかは分からなかったが、とりあえず薬がないのは分かっている。小さな怪我でも心配は心配だ。抗生物質など、この世界では望むべくもない。

〈代謝は私達が調整出来ます。もう血も止まって傷口もふさがり始めているはずです。治り掛けはちょっとかゆみがあるかも知れませんが、傷口から細菌やウイルスが入ることはありません。安心して下さい〉

「凄いな、そんなことまで出来るのか」

 優二はこの世界の精神文明の技術に感嘆した。と同時に侵入者との力関係のアンバランスさに違和感を覚えずにはいられなかった。意識の翻訳、振動化による意思伝達にしても、黒玉を使った空間移動にしても、その技術は優二の住んでいた世界のものとは全く異質の、自分達の理解を遙かに超えたものであった。にもかかわらず、彼らはほとんど無抵抗で戦闘力が皆無とも思われる下等生物に翻弄ほんろうされている。彼の見立てでは、この世界の住人達は侵入者に対してほぼ無力である。圧勝したと思われた優二にとっての初戦でさえ、彼らは犠牲を払ったという。ところ変れば、と言うが、この世界でのパワーバランスは全く理解出来ない。それは彼らが精神世界の住人だからなのだろう。

 とりあえず戦闘は終わった。侵入者は情報を得たうえで自分達のテリトリーに退却してしまった。一つの戦闘としては勝利を収めたが、敵が始めから情報収集を目的とした行動をとったのだとしたら、結果的には目的を完遂した彼ら侵入者の勝利と言うことが出来よう。つまり優二達は負けたのだ。残念だがそれは認めざるを得ない。更に言えば、こちらは戦力としては圧倒的ではあっても、戦略として考えた時に戦力を二つまでしか分散し得ないのだ。今後どのような戦局の変化を見せるのかは想像がつかないが、場合によってはかなり不利な条件ではある。今回の戦闘は優二達の弱点を浮き彫りにするものとなった。

「あの丘に戻ろうか。あの場所が見通しも良いし、拠点としては最良だろう。第一ここは臭い」

 おそらくここの住人である光達にとって、敵の死骸が発する異臭は全く気にはならないのだろう。おそらく嗅覚などないのだろうから。それに対して生身の二人にとっては、この独特の生臭い臭いは長時間は耐えられない。あまり長く嗅いでいると吐き気がしてくる。

「そうそう、彩さんに見せたいものがあるんだよ」

「見せたいもの? 私に?」

「何かは見てからのお楽しみだけどね」

 優二が彩に見せたいのはただの棒っ切れである。こんな風に期待を持たせるような言い方をしてしまって果して良かったのだろうか、と反省しなくもない。

〈では戻りましょう〉

 黒玉が現れた。優二は勝手知った調子で膨らんだ黒玉の中に身を投じた。彩も何の疑問も違和感も感じずにその後に続く。自分がどうしてこの場所まで一人で歩いてきたのか、もうそんなことはどうでもよくなってしまっているようだ。二人は次々と元いた丘の上に出現した。

「見せたいものって?」

 彩が早速優二にせがむ。結構気になっているらしい。優二は丘の上の木に立て掛けておいた二本の棒を持って、彩に示した。

「どうだ、新兵器だ。これだったらさっきの草なんかよりよっぽど使い易いぞ」

「ただの棒じゃない」

「聖剣だ、エクスカリバーだ。俺が一所懸命作ったんだぞ」

 先ほどの戦闘で予想外の苦戦を強いられた彩にとって、その棒が武器として非常に有用であることは見れば分かる。分かるが、だからと言って棒如きを有り難がる彩でもない。

「エクスカリバー?」

「そう、昔っから聖剣はエクスカリバーって決まってるんだ。カッコイイだろ」

「なんか安っぽくてセンス無くない? だったら“ノートゥング”にしようよ。それだったらイイ」

「何だそれ? まぁ名前なんか何でもいいんだけどさ」

 とりあえず棒っ切れのネーミングは“ノートゥング”に変更されたようだ。


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