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丸腰傭兵ユージ  作者: 沼 正平
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怨嗟

 濃い緑色に変色しはじめた敵兵の死骸が草原に散乱していた。その数およそ30体。彼らが命を奪われるのに3分と掛からなかった。辺りには独特の臭いが漂いだしている。

「他の二箇所の敵はどうなってる?」

〈もう撤退してしまったようです。おそらくユージさんやアヤさんとの戦いのデータを受信して、それを持ち還ったことでしょう〉

「そうか、直接対決でなくとも君らみたいに情報を共有出来るってことなんだな。やっぱりエクスカリバーを持ってこなくて正解だった。それにしても、あんな戦いで何かしらの対策を講じられるものかな?」

〈さあ。考えられるのは精神攻撃だけだと思いますが……〉

 この世界の住人にも見当はつき兼ねるようだった。敵が道具らしいものを使用出来ないことは分かっている。何か対策をたてるとすれば精神攻撃以外に考えられないのだが、どんなことをするつもりなのかは分からない。

「それより彩さんの方はどうなってる? もう終わったかい」

〈まだ交戦中です。残る敵兵は6体。加勢しますか?〉

「いや、やめておこう。彼女も一人で始末したとなれば自信がつくだろうし。全て始末し終わって一息ついているタイミングで移動しよう」

〈分かりました〉

 精神攻撃。それがどのようなものかちょっと想像がつかなかった。確かに初戦において、優二は軽い頭痛に襲われた。しかしそれは攻撃されたと感じるようなものではなかった。戦いの最中に頭痛がした、という程度のものであって、彼の戦闘力を鈍らせるほどの効果は無かった。300体の敵兵相手にその程度である。その頭痛を超えるような破壊力のある攻撃が奴らに可能だとは到底思えないのだ。もし仮に、数え切れないほどの数で大挙して押し寄せても、新兵器“エクスカリバー”があれば何ほどのこともない。優二はこの戦争において終始楽観的であった。初戦であれだけの圧勝を飾れば、むしろそう思うのが当然だろう。

〈アヤさんが敵兵を全滅させたようです〉

「そうか。じゃあ一呼吸おいて移動するとしよう」


「ヤダ、もう疲れた…」

 彩はハァハァと肩で息をしながら、引き抜いた草を引きずるように構えていた。

「頭痛いし最悪なんですけど……」

 彩は優二を呪った。自分が敵と戦っていることはきっと分かっているはずだ。何で助けに来ないのか。自分より後輩のくせに、何で先輩の危機を救おうと思わないのか。どこかで隠れて自分の醜態を笑っているのかも知れない。段々と被害妄想が膨らんできて、一層優二を憎く思う。

〈頑張って下さい、あと3体です。ちゃんと狙わないから無駄な体力を消耗するんです〉

「うるさい!」

 敵の動きは鈍いのだ。言われる通りしっかり狙いをつけて振り下ろせば敵兵はたちどころに粉砕されるはずなのだ。ただ、彩は疲労からそのコントロールが甘くなってしまっている。数が減ったので余計ヒットしなくなってきているのだ。

「畜生、こいつっ!」

 振り下ろした草の根で一体が潰された。それを右にぎ払った弾みで、偶然にもう一体仕留めることが出来た。残りはあと一体。だが、もう振りかぶる体力が残っていなかった。敵兵の近くまで寄っていって、頭上から落下させれば敵兵は潰される。だが、体液が飛び散って靴や足を汚すのは分かっていた。それはやはり生理的に受け付けない。やはり今持っている草丈くらいの距離は欲しい。

「ええい、もう!」

 彩は敵兵に近付き右足を上げ、敵の頭の上に置いた。潰れないように徐々に圧を掛けていく。八本の足をばたつかせてもがき苦しんでいた敵兵は、やがてグッタリと動かなくなった。彩は敵兵の圧殺に成功した。

「ああーもうヤダ! キモチワリぃー!」

 彩は靴底を地面にこすり付けた。おぞましくて寒気がするようだった。

「だからイヤだって言ったのに!」

 彩は悪態をつきながら近くの石に腰掛けた。まだ息が荒い。深く息を吸い込むたびに敵兵の死体から発する独特の臭いが鼻を突いたが、今はこの場を動くことよりも体を休める方が先決であった。

 それにしても優二のヤツ、最後まで来なかった。一体どういうつもりなんだろう。ヒトが大変な思いをしているのを楽しんでいるのか。それとも自分の戦闘のセンスを自慢するために、私にこんな思いをさせているのか。どう考えたってこれは嫌がらせだ。わざとやっているとしか思えない。さっきののしってやったことを根に持っているに違いない。所詮その程度のおやぢなんだ。別に始めっから何の期待もしてなかったけど……。

 呼吸が落ち着いてくる中、彩の頭の中に繰り返されるのは優二への恨み節だった。

 確かに、本来の非は自分にある。だけどそれを素直に認めることは彩には出来ない。だから悪いのは優二でなければならなかった。そう、優二は自分が困った時でも助けに来ようともしない薄情なヤツなのだ。そう思うことで、彩は自分の非を認めなくて済み、自分を否定せずに済む。それは問題のすり替えによる自己保身だったが、彼女自身はそれを意識していなかった。

「あーもう! みんなあいつのせいだ! どうして私が……」

 そこまで声に出して、彩はうつむいた。自分の不甲斐ふがい無さを、なんとなく他人ひとのせいにしている自分に気付いたからだ。

 昔からそうだった。こんな自分になったのは、親が悪いと思っていた。成績が下がったのも、良からぬ仲間とつるみだしたのも、みんなまわりの大人のせいにしてきた。ホントにそうだったんだろうか? 自分は悪くなくて、悪いのは全て大人だったのだろうか?

「また同じコトしてる…」

 これではいけないんではないか、という漠然とした気持ちが胸に涌いてきた。

〈アヤさん、ユージさんが来ます〉

 顔をあげると、ちょっと離れたところに黒い玉が浮いていた。次の瞬間、黒玉は見る間に膨張した。


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