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丸腰傭兵ユージ  作者: 沼 正平
13/26

出撃

〈アヤさん。アヤさん、敵が来ます〉

 彩は目を覚ました。頭を起こすと目の前に光の点が浮いていた。

「あたし寝てたんだ……」

 状況がピンと来ず、辺りを見まわす。ちょっと薄暗くなっている。この世界の“夜”だ。

〈敵が来ます。前方右斜め45メートル先です。逃げますか? それともユージさんを呼びますか?〉

 戦いたくはないのだが、逃げるのもしゃくである。第一、あんな戦闘力の無い生き物相手なら誰だって退治出来るのだ。おやぢに出来て自分に出来ないはずはない。彩は戦う覚悟を決めた。

「あんな奴ら、あたし一人だってやっつけられるんだから」

 彩は光が示した出現ポイントに向かって歩き出した。前方の空間に陽炎かげろうのような光の歪みが現れている。どうやら敵は彩を標的にしているわけではなく、たまたま彩のいるポイントに出現してしまったようだ。実体化はしたものの、いきなりの敵との対峙たいじに少々うろたえ気味のようだ。

 彩は辺りを見回し、手頃な丈の草を見つけた。

〈素手で引き抜くと手を切りますよ〉

「大丈夫、私だってそんなにバカじゃないんだから」

 彩はセーラー服のスカーフをはずして草に巻き付けた。巻き付けた部分を両手で握り、力任せに引き抜こうとした。が、

「あれ、何これ! ヤダ、抜けない! どうしよう」

 全力で引っ張っているのだが、草は容易に抜けなかった。手が切れるのを怖れて無意識に力をセーブしてしまっているようだ。

〈もう少し下を持って、足をしっかり踏ん張ってみましょう。力を入れるのは一瞬です〉

 アドバイスされたのは不満だったが、彩には言い返す余裕が無い。言われた通りに持つ位置を下げて足を踏ん張る。そして思いっ切り引っ張りあげる。と、草は根元から抜け、彩は勢いで尻餅をいた。その弾みでちょっと足を切ったようだ。赤く筋が浮き、わずかに血が流れた。

「痛ぁ~! もう最悪! 血ぃ出てるし」

 半ベソ状態ではあったが、なんとか武器は確保出来た。ここまで出来ればもう戦闘は半分終わってしまったようなものだ。

「畜生ぉ、よくもやりゃあがったな」

 敵はまだ何もしていないが、すでに彩の憎悪の対象となっていた。

〈敵の総数は30体前後です。どうやら偵察隊のようです〉

 前回の襲撃で優二がたおした数の十分の一。この位の数なら秒殺である。彩はあらためて草の先の方にスカーフを巻き付けて、ハンマーのように打ち降ろそうとした。ところが根株周りの土が多く付き過ぎてしまって上手く背負えない。仕方が無いので持った草を横にぎ払った。それだけでも効果は絶大であった。

 彩の一回の攻撃によって、5体の敵兵が一瞬にしてぎ倒された。


〈ユージさん、どうやら敵が侵入したようです。起きて下さい〉

 今度は普通に起こされた。目をこすりながら欠伸あくびを一つ。

「またここに追い込むのかい?」

〈いいえ、敵は少数で4箇所に出現しています。どうやら偵察目的のようです。その内の一隊はアヤさんのいるポイントに出現したようです〉

「何、彩さんが狙われたのか?」

 優二が気色ばむ。孤立したところを連れ去ろうと計画しているのかと思ったのだ。もしそうだとしたら厄介なことになる。何しろ孤立させる原因を作ったのは自分だと思っているのだ。

〈アヤさんのいるポイントに現れたのは全くの偶然だと思われます。どうやらアヤさんはユージさんに教えられた戦法で攻撃を試みようとしているようです。加勢しに行きますか?〉

 「うん。いや……」

 優二は考えた。少数の偵察隊であれば、ある程度の情報が手に入ればすぐに撤退するだろう。四隊全てを殲滅せんめつすることは出来ないかも知れない。少しでも数を減らすのならば彩とは別の隊を襲った方が良い。自分のやって見せた戦い方がそのまま出来れば、彩は決して負けることは無い。ここは一つ、彩の戦果を信じてあげた方が、彼女の自尊心も満足することだろう。

「彩さんのところの敵は任せよう。他の三つの隊の内、ここから一番近いところへ移動しよう。場所はどこだか分かるんだろう?」

 優二は今にも走り出そうとせんばかりに意気込んだ。取り逃がしてしまったら、彩に加勢しなかった理由がなくなってしまうのだ。

〈では一番近い隊のところへ跳びましょう〉

 いつの間にか優二の目の前に、ピンポン球くらいの黒い玉が浮んでいた。

「跳ぶって、もしかしてこれで移動出来るのかい?」

〈はい〉

「よし、じゃあ今すぐ出発だ」

〈木の棒は持って行かないのですか?〉

「偵察と分かっている奴らにわざわざ手の内を見せてやることもないだろう」

 本心から言えば、せっかく作った武器で試し切り(試し殴り?)してみたかったのだが、一応仮にも未知の世界で未知の敵と戦っている以上は、出来得る限り慎重であるべきだと思った。

〈では行きましょう〉

 光がそう言うと、黒玉は一瞬の間に膨張し、優二の体をすっぽりと覆った。次の瞬間、優二の目の前には今までとは違う風景が広がっていた。真正面、10メートルくらいの所に敵兵が実体化してくるのが見えた。こちらの敵兵も、突然の優二との接近遭遇にいささか取り乱し気味だ。

「さて、さっさと片付けるか。ところで彩さんの方は今どんな感じか分かるのかい?」

〈草を引き抜くのにかなり手古摺てこずっていたみたいですが、ようやく抜けたみたいです〉

「上等」

 そう言って優二は手近に生えている草を片手で引き抜いた。



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