聖剣
突然、頭の中に声が飛び込んできた。いや、声ではない、意思だ。まるで無防備なところをガツンと一発殴られたような感じだ。その後も頭の中に何やら不穏な想念がこだましているようで、頭がクラクラした。ハッとして目を覚ました。目を覚ましたことで、優二はいつの間にか自分が寝てしまっていたことに気が付いた。
あたりを見まわすと、まるで夕暮れのようであった。このまま夜になるのだろうか?
〈いいえ、今が“夜”です。これ以上暗くはなりません〉
光は優二の意識を直接読み取って、その疑問に答えていた。答えたことで、自分が誤って優二の脳に直接思念を送り込んでしまったことに気付いた。
〈申し訳ありませんユージさん。びっくりされましたか? 脳は大丈夫でしたか?〉
「ああ、驚いたけど大丈夫だ。それよりどうしたんだ、一体」
優二は頭を振りながら起き上がった。実際、かなりの衝撃があったのだ。
〈この木の枝はどうしたんですか?〉
光は優二の傍らにある二本の木の棒のことを言っているらしい。長さは80センチくらい、径は20πくらいである。
「ああ、これか。今度戦う時にこういう武器があれば便利かと思ってね。彼女にはこの方が抵抗無く使えるんじゃないかと」
蔦や籐の蔓みたいなものがあれば他にも色々と創作の余地もありそうだが、現状ではこのくらいが限界かもしれない。だが、無いよりはずっとマシだし、こんな棒っ切れでもあの敵兵相手には十分過ぎるほど威力がある。
優二は一本を手にとり、国定忠治ばりに垂直に立てて構えた。
「あいつらが相手だったらそんなに力は要らないし、思い切って二刀流でもいいかも知れない。同じのをあと一本。いや、折れた時の予備にあと何本か作っておこうと思うんだ」
〈いや、実は木の枝とかを折られてしまうと非常に困るんですよ〉
「え?」
〈我々が注意しなかったのがいけなかったのです。今回のことは我々の過失です〉
「どういうことだい。この木は御神木か何かだったのか」
知らぬことではあるが、どうも自分は良からぬ事をしてしまったらしい。光は自分達の非を認めて優二を非難する気はないようだが、あまり良い立場でないのも確かなようだ。とにかく、やってはいけないことをやってしまったらしいのだ。
〈先程のように、草を抜いて武器にするのは構わないんですよ。抜かれた草はそのまま枯れます。仮に抜かなくともいずれ近い内に枯れます。だけどこの木は、枝を折られても生き続けます。外界から来た者によって奪われ、欠損した状態でこの世界に有り続けなければいけないのです〉
優二にはそれのどこがいけないのか分からない。だが、そのような理解し難い法則によってこの世界が成り立っているのだとしたら、自分をその法則に合わせなければならない。それがトラブルを防ぐ一番の方法だろう、と思った。自分達人間にとって“木”は単なる植物であるが、実体を持たないこの世界の意識体が、植物とどのような共生関係にあるかなど、解りようもないことだ。人知をはるかに超えた“秩序”が、この世界を支えているのだ。
「分かった。何しろ木を折ってはいけないってことだ。その行為がこの世界の存続に関わるような大変なことに結びついているんだろ。俺みたいに他所から来た実体を持つ異邦人は、必要以上に干渉してはいけない、ってワケだ」
〈理解が早いので大変に助かります〉
実際は大して理解などしていない。しかし彼の常識、彼の思考能力でそれを理解するにはかなりの時間を要するに違いない。そして、そんな訳の分からない難しい話で時間を奪われるのは無駄なことだと思った。
優二は恨めしそうに自分の作った木の棒を眺めた。
「惜しいなぁ、これが使えれば随分楽なのにな」
〈造りだされてしまったモノはしょうがありません。そのままで無に還るまでご使用下さい。使用には問題はありません。創造されることに問題があるんです〉
「え、使ってもいいのかい?」
優二は喜びを隠せなかった。子供が一度取り上げられたおもちゃを返して貰った時のような気持ちだった。これさえあれば、先程の戦いとは比べ物にならないくらい有利な展開になるだろう。短時間で効率良く掃討することが出来るに違いない。彩も抵抗なく参戦出来るだろう。帰ってくれば、の話だが……。
「彩さんはどうしてる?」
〈泣きながら不貞寝しちゃいました〉
「結構」
所詮は子供の癇癪だ。一度寝て起きれば機嫌も直ることだろう。特別彩の身を心配することも無い。ここの住人である光が、彩のことに関してはすっかり落ち着き払っているのがその証拠だ。彼らが騒ぎださない限り、彩の安全は保証されていると思って良いだろう。
「彩さんのことは君達に任せるよ。俺はとりあえずもう少し寝ることにする」
〈あ、お休みのところ起こしてしまって申し訳ありませんでした〉
「いやいいんだ。この木を折ってしまったのは君達にとっては大変な事だったんだろうからね。それに……」
〈それに?〉
「彩さんの動向も分かったし、このエクスカリバーも問題なく使えることが分かって、かえって安心して休めるよ」
〈エクスカリバー?〉
「なーに、こっちの話さ。この棒っ切れの出来に満足してるんだよ」
〈はぁ……〉
優二は手にした棒を二度ほど振った。ビュッと鋭い音がして、手にした優二の心を踊らせた。




