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人はいっそのこと哀れな方が好い

小夜子の不幸を聞いた喜美子。

急いで羽生へと向かう




「サヨちゃん〜」


「キミちゃん!」



河原で二人の幼い声が聞こえる


子どもの無邪気な笑い声


10年間この村の宝物であり続けた






中嶋喜美子 彼女は元からこの村の住人ではなかった。何処にでも誰にでもありそうな話で彼女は親の都合でこの村に来た。

世の中は何をやってもうまく事が進むと各地で建設工事が行われ多くの人が夜の町へと娯楽へと繰り出して行った時代

喜美子の父もまたそんな世間の皆様よろしく一攫千金の金山を掘り当てんばかりに自分で店を興しチェーン展開した。

しかし、当然の事ながらただの夢物語だった。喜美子の父が九州地方に進出しようかどうかというときに日本は堕ちた。

銀行は立て続けに潰れテーマパークやクラブも成りを潜めていった。

喜美子の父も例外ではなかった。しかし喜美子の母芳恵よしえは羽生に実家を持ちその実家は羽生では有名な地主の家だった。


私の父は元々農家の人間だったらしい。直ぐに地域の人達と打ち解けた。そして東京になんとか店を残せたらしい。


ここらで問題があったとすれば母の弟貴好たかよし叔父さんのことだけだった。



「芳恵姉ぇ」

お茶の間でニュースを見ていたら不意に声をかけられた。

「家引っ越さないの?」

最近はこれしか聞かない。流石に私も返事が億劫に成っていた。

「…無視かよ」

そういって舌打ちをすると貴好は自分の部屋に戻って行った。

「ふぅ」

最近は貴好が居るだけで息が詰まる。

何故って?だって、殺気がビンビン伝わってくるのだもの。


理由は分からない訳ではない。


私の実家羽生家はこの村の名前にも成っているほどの大地主。

母は私が小学生の頃に他界した。理由は結局父が棺桶まで持って行ってしまった。

私の父は豪快な人だった。しかし、煙草は吸わないし酒は下戸だった。


しかし、父は正月に必ず酒を呑んだ。そして呑むと必ず母の話をしてくれた。それはまるで童話のお姫様のようでジュリエットのような儚い物語だった。父は例える所「美女と野獣」の野獣を敵視する村一番のハンサム的な人だったらしい。しかし結婚は両者の親同意の元行われたらしい。


父の自慢は三尺先の山まで自分の物だということだった。

これも酔っ払うと良く語っていた。

父はこれといって仕事をしていた訳ではないが財は沢山あった。



貴好はこの財産がすべて欲しいから今でも実家に寄生している。

今風に言うならばニートに近いフリーターと言ったところだろう。


遺産はすべて欲しかったはずだ。しかしそれを言わないのは父があまりにも偉大だったからだろう。



父は市長をしていた。父はとても人望があり面倒見がいいのだ。しかし今ではそれが祟ってだいぶやつれてしまった。

父が私達を受け入れてくれたのは自分の体の事もあったからだろう。


父は98歳の時朝食を食べながら逝った。医者によれば老衰らしい。


なんとも父らしからぬ逝き方だ。


遺産はすべて弟に託すとあった。私は遺産は別に欲しかった訳ではないから構わなかったが、遺書に走り書きで私には実家の母家を残すと書いてあった。私はそんな小さな気配りが嬉しく父は偉大だったと改めて思わされた。



私が母家を出ればたちまち貴好は母家を売り飛ばし遊ぶ金にしていまうだろう。


だから私は父の遺産を守るために家から離れるわけには行かない。



そして、私の娘が高校生に成るまでは生きていなければ成らない。


夫は貴好には頭があがらない。この家で今一番強いのは私なのだ。


今私がここで居なくなったら夫と喜美子は肩身が狭く成ってしまう。私がしっかりとしなければ。



しかし世の中はあまりにも無情だった。私の妻芳恵は喜美子が8歳の時に他界した。羽生に越してから3年間たった夏の事だった。庭の井戸から水を汲もうとして井戸に落ちたらしい。私がそれを聞き警察についた頃にはもう芳恵は死の香りしか漂わせていなかった。


昼から17時まで誰にも気づかれずにいたらしい。

苦しかっただろうに。私は毎日毎日仏壇に手を合わせ拝んだ。


あれから6年たったある夏の日私は倒れた。原因は過労と栄養失調らしい。

今喜美子は15歳だ。そろそろひとりで何でも出来るように成る歳だ。


私は妻が守った羽生のうちを出て喜美子と東京の病院の近くに越した。


喜美子は小夜子ちゃんと離れ離れに成るのが寂しいとなかなか了承してくれなかったが。村の人達の後押しもあってか納得してくれた。


これから娘と二人での闘病生活が始まる…





私とお父さんが東京に引っ越すとき叔父さんはとっても嬉しそうだった。私は叔父さんのことあまり好きじゃなかった。私がお風呂から出るとニヤニヤしながら見てくるし、お父さんにいっつもなんかしら文句を言っていたから私は叔父さんが嫌いだった。


引っ越すって聞いたとき最初は嬉しかったんだよ。でもね小夜ちゃんと離れるのは嫌だった。だって小夜ちゃんは私の半身みたいなものだったから。


でも小夜ちゃんがお父さんが元気になったらまた戻っておいでって言ったから私は小夜ちゃんとバイバイできた。


早く小夜ちゃんに会いたいなぁ。





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