受付嬢のお見送り
ここは冒険者の国アベン帝国、パーティの拠点であるパーティハウスのドアが激しく開く。
「おい!ウッドナス、ミーニャ、ベル!」
ドアを開けたのは、クエストの報酬を受け取りに冒険者ギルドへ行ったはずのパーティーリーダーであるサリオンだった。
「どうしたんだ。サリオン、そんなに慌てて」
落ち着いたような、あきれたような声でウッドナスが問いかける
「どうしたもこうしたものか!みんな、聞いてくれ!Sランク昇格試験を受けることができるようになった!」
「「「・・・」」」
「あれ...?ど、どうしたんだ...?」
3人が驚くと思っていたサリオンは、思わぬ反応に戸惑う。
「「「やったーーーーー!」」」
三人の声がそろう。
「やっと...やっと...私たちの悲願が叶う一歩前まで来たんですね...」
ミーリャが他3人に向けて言う。
「ええ、私たち5人の夢。やっと叶えられる。」
ベルがどこか懐かしそうに虚空を見つめる。
『故郷への道』は結成当時は5人パーティーであった。
タンクのウッドナス、アタッカーのサリオン、ヒーラーのミーリャ、魔術師のベル。
そして、もう一人のメンバーであるオールラウンダーのシン。
『故郷への道』は、一人一人がこの世界では極めて高い才能を持っている。
タンクであるウッドナスは、生まれつき体格がよく、2mはある体を武器に魔牛の突進ですら盾で正面から受けてしまう。
アタッカーのサリオンは、幼い頃から剣を握り修行をしてきた。その成長速度は剣を握り1年で村にやってきた野盗総勢23名を一人で伸してしまうほどであった。
ヒーラーであるミーミャは、高いレベルの治癒魔法を使うことのできるほかに、強力なバフ・デバフを使うことができる。
魔術師であるベルは、火・水・風・土・雷のうち雷以外の4属性を最上級一歩手前まで習得している。そのうえ中級魔法なら一日中でも撃っていることのできる魔力量を保有している。
最後に、オールラウンダーであるシン。すべての役職を一定のレベルで行うことができる。一般的に器用貧乏になりやすい役職ではあるが、シンはすべてを同じ水準で行うことができ、それも高い水準だった。
そんな高い才能が、自信が、彼らを殺した。5人いれば勝てないものなどいない。それが慢心だった。
ある日のギルドクエストで森の異変調査を行うことになった。当時の彼らはCランク、中堅冒険者であった。森の異変は竜によるものだった。竜はAランクパーティもしくはSランクが対処すべき相手。
現在Cランクである彼らは本来勝てる相手ではない。
だが、彼らは挑んだ。竜を殺せば、Bランク、Aランクに昇格も夢じゃない。夢を見るあまり、彼らは現実を見忘れてしまったのだ。
竜に出会ってすぐ勝てないと悟ったシンはメンバーに的確に指示を出す。
「ウッドナス。僕が指示したら盾を置いてベルとミーリャを運べ」
ウッドナスの顔が歪む。
「頼む。君はいつだって冷静だ。わかってくれ。」
「・・・」
ウッドナスは小さく頷く。
「サリオン。これからは君がリーダーだ!どうか、夢をあきらめないでくれ。君は少し急ぎすぎてしまう癖があるが、カリスマがある。みんなを連れて夢を追え。」
「おい、何言ってんだ。」
サリオンは竜の攻撃を躱し、額に剣戟を打ち込むも硬い鱗に弾かれてしまった。
「僕が、殿をする。その間に逃げろ。」
「お前を置いて逃げる?そんなことできるわけ・・・」
「するんだ!でなきゃみんな死ぬ。」
「クソッ・・・」
サリオンは唇を強く噛み血を流した。
「ミーリャとベルの説得は頼んだよ。リーダー。」
サリオンを見てほほ笑むシン。
「リーダー初の任務があの二人の説得かよ」
「行け!」
シンの合図でウッドナスは盾で攻撃を防ぎながら後退、盾を捨てて、ミーリャとベルを担いだ。
「「え?」」
何も知らされていない二人は、戸惑いの声を上げた。
「ウッドナス!何するのよ!」
「シンさん!嫌!嫌!」
離して!っと抵抗する二人にウッドナスは
「俺のことは恨んでいい。今はおとなしくしていてくれ。俺も自分の不甲斐なさに打ちひしがれている」
ひたすら走った。抱えられた二人は大粒の涙を流しながら、サリオンは涙を流しながらも周囲の警戒を怠ることはなかった。
城門にたどり着くとウッドナスとサリオンは眠るように倒れた。ベルは魔力切れで
後日、事情を聴いたギルドが、探査隊を送り出した。
そこには、ドラゴンの姿はなく、手足があらぬ方向に曲げられ、曲げられた部分からは白い骨が見える。腹からは臓物がはみ出して倒れている死体が一つあった。遺体は損壊が激しく見た目では、個人が特定できないほどであった。おそらく、死した後、周囲の魔物に遺体を荒らされたのだと推察された。辛うじて発見されたギルドカードで個人が特定できた。シンであった。
「今でも忘れない。あれから5年はたったのにな。死んだ人間の声から忘れるというが、案外そんなこともなかったな」
調理場にある冷却箱の中から冷えたエールを取り出し、それぞれの前に配る。
「忘れることなど一生ない。それが俺らに与えられた罰だからだ。」
「シンみたいになれなくても、シンを心配させないために私だって罠探知や索敵魔法を覚えたんだから」
「シンさん。私たちがSランクになったら喜んでくれるかな。」
「喜ぶどころか悔しがるぜ。先越された~ってな」
「Sランク昇格試験は、明後日に受けることにしたからそれまでに準備済ませておけよ!」
「ええ!ちょっと急すぎない!?」
ベルが机を揺らす。
「大丈夫だろ。常日頃から俺らはいつこの時が来てもいいようにしてきたんだ」
「まあ、そうなんだけど」
まあまあとウッドナスになだめられ、席に座りなおすベル。
「ちょっとベルさ~ん。エールが零れちゃいましたよ~」
調理場から布巾を持ってきて、零れたエールを拭くミーリャ
「さて、そろそろいつものやりますか!」
「じゃあ、Sランク昇格試験を受けれたことを祝いまして、乾杯!」
「「「乾杯!!!」」」
4人全員が冷えたエールを持ち一気に飲み込んだ。
「祝いまして~っていう理由付けで別に何もなくてもみんなで飲んでるけどね。」
「いいんだよベル。一日の終わりに乾杯したら、今日も生きてるって感じがするだろうが」
「そんなもんかね」
「そんなもんだ」
パーティハウスの明かりは日を跨ぎ、朝になってもついたままだった。
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「以上で今回のS級昇格試験の概要説明を終えるよ。やってくれるねアイリーン。」
大量の書類が積まれた机。そこに座るのはアベン帝国の冒険者を束ね、帝国貴族でもあるライグレイ・ダルベスター様。
私、一介の受付嬢である私、アイリーンは呼び出された。
「承知しました。ギルマス。彼ら、『故郷への道』のS級昇格試験必ず見届けます。」
S級昇格試験は隠密スキルで姿が消せ、遠視スキルで遠くから状況を把握できるものが本人たちに内緒で同行することが義務付けられ、そこで起きた内容を書類にまとめて国に提出しなければならない。過去に不正をして実力不足のままS級に上がり、国からの重要任務を了承だけしてトンズラを決め込んだアホどもがいたせいだ。
「君は、彼らとよく話す仲でパーティ結成時にも受付を担当していたそうじゃないか。今回の件では打って付けだ。しっかりと頼んだよ」
ギルマスは私を見て微笑む。その笑顔の下に隠れた感情を私は何となく感じ取っていた。私も同じ感情であったからだ。
~~~~~~~~~~数時間後~~~~~~~~~~
「アイリーンさん!S級昇格試験の件いいですか」
『故郷への道』がやってきた。私はこれから罪を背負う。
「はい!まず、試験の概要について説明させてください。」
『故郷への道』の面々が軽く頷くと私は試験内容を説明した。
「今回は、アスガルド山脈にいる4等級のドラゴンに挑んで討伐していただきます。それがS級になる条件になります。」
ドラゴンは強さの等級を5段階に分けられている。
1等級は神話の域に達しているといわれるレベル。御伽噺などで良く語られる暗黒龍バハムートや海底龍リヴァイアサン。誰もが子供のころに聞く話によく出てくるものばかりだ。姿が確認されたのも直近で200年前。そうそう見ることはない。
2等級は高いレベルの魔法を使用し、人語を介することのできるドラゴンだ。
3等級は高いレベルの魔法だけだ。ただし、長い時間を生きているため知能は高い。
4等級は魔法も使えず、ドラゴンのブレスが5等級より強力になっている程度。
5等級は弱めのブレスを吐く。弱めと言っても4等級以上と比べてだ。
5等級のブレスでさえ、耐熱、耐寒、あらゆる耐性を持ったギルドカードを炭にできてしまう火力を持っている。まともに食らえば死一直線だ。
現在の人類の限界は3級討伐。4級でもかなり危険だ。挑めばまず確実に勝つか負けるかの二択しかない。
「わかりました。これから向かおうと思います。」
落ち着いた表情で言うカリオン。
「アイリーンさん。これまでありがとうございました!おかげで楽しく冒険をすることができました!」
いつになくミーリャのテンションが高い。
「アイさん。私たちが帰ってこなくてもあまり気にしないでね。私たちは冒険者。冒険者はいつも死と隣り合わせなんだから。」
ベルが私を気遣う。
「そうだな。まあ、死ぬ気はしないし、その気もないがな」
自信満々に胸を張るウッドナスはいつもより大きく見えた。
「ええ、こんなことで死なれちゃ困るわ!帰ってきたら頭をなでてあげるから、気を付けていってらっしゃい!」
胸が痛む。彼らがここで受付するのは、今日で最後。最後なのだから。
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「皇帝陛下。例の件の報告書になります。」
宰相が『故郷への道のS級昇格試験 報告書』と書かれた報告書を皇帝の座る書斎の机に置いた。
「結果は?」
皇帝が忙しそうに書類を片付けながら言う
「『故郷への道』はドラゴン討伐に失敗し4人全員死亡いたしました。」
宰相は続けて言う
「報告書には、彼らの戦闘の記録と死因、遠視でわかる限りの遺体の状況が事細かに書かれていました。冒険者ギルドもおとなしく従ってくれて助かりましたな。」
「死因を教えろ」
「まだお疑いに?」
「普段、冒険者第一にとうるさいダルベスタ―がおとなしく言うことを聞くとでも?いいから死因を言え」
「おとなしく従っていなくても、帝国の保有している密偵部隊にドラゴンの巣に入る『故郷への道』を確認させていますし、あそこにいるのは、4級のドラゴンではなく3級のドラゴンなのですから、万に一つもございませんよ。」
宰相が落ち着いた雰囲気で物を言うなか、皇帝はそれでも納得していなかった。
宰相が軽くため息を吐きながら、それでは、と報告書を読み上げた。
「戦闘開始直後、4等級だと思い込んでいた彼らは、急に飛んできたドラゴンの魔法に対応できずに、回復役であるミーリャがマル焦げになり、死亡したようです。それを見たベルが取り乱し、高位魔法を連射するも、四肢を風の刃で切断され、出血死。残ったウッドナスとサリオンは、回復、バフのない状態で勝てるわけもなく、ウッドナスはフルメタルの装備が解け肉体に張り付き、盾を持っていた手は前腕から骨が飛び出していたそうです。最後に腹部を一突き。サリオンは頭がなくなっていました。ドラゴンの習性で戦闘後死体を燃やしたそうで遺体の確認ができませんでしたが、その後、ドラゴンは飛び立っていったようで、ギルドカードは回収したようです。こちらに。」
宰相はギルドカードを差し出した。
「承知した。ご苦労。」
宰相は報告を終え、書斎から出ていった。
「ダルベスタ―め、余を裏切りおって。」
にやりと笑う皇帝の顔がガラスに反射された。
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「ギルマス、本当に良かったのですか。国を裏切る形になってしまって」
「いいわけないよ、バレたら大ごとだ。でもね、冒険者ギルドが冒険者を裏切ってしまったら終わりなんだ。これだけは譲ることができないよ。」
「そうですね。彼ら、まさか3等級ドラゴンを討伐してくるとは思いませんでしたよ。私は余計なおせっかいをしたみたいです。」
実は戦闘が始まる少し前に今回のことを『故郷への道』に話した。話してしまった。
けれど彼らは、ドラゴンに挑むことを選んだ。そしてまさかの3等級を討伐してしまった。
無傷とまではいかなかったものの目立った外傷もなく帰ってきた。
「帝国は何を考えているんでしょうね。彼らのような戦力を潰そうとするなんて」
アイリーンが困り顔で言うとそれはねといいギルマスが答える。
「彼らの故郷は隣国にある村だからだよ」
「あっ」
簡単な話、S級の存在は国の力関係を変えてしまう。それを嫌がったのだろう。
「でも、彼らが、故郷に帰ることができてよかったです。夢もかなったようなものですし。」
「そうだね。彼らの望みを少しでもかなえられたのなら、冒険者ギルドの長として誇らしい限りだよ。」
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「こんなもんかね」
お墓周りの雑草を整える
「おっきいお墓にしたら、そんなおおきくなくていいよ~ってシンさんはいいますね」
クスクス笑いながらお墓の手入れをする。
「今日はあの日から7年経ったからな。あいつの好きだった饅頭を持ってきた」
「でかい体に似合わず可愛いもの好きだよね。ウッドナス」
「よく言われる。人を見た目で判断しないでもらいたい」
「おいおい、喧嘩か~シンの前でやめてくれよな~」
エールを右手に3杯、左手に2杯持ったサリオンが茶化しにやってくる。
はいはいと素早く全員にエールを配り、さてと腰を落ち着けると。
「我らの新たな門出にーーーーー」
「「「「「乾杯」」」」」
初めて書いた小説になりまずが、おそらく読みずらいものになっているかと思います。そんなものを最後まで読んでくださりありがとうございます。短編の仕様を知らなくて、続きを加筆しています。変なところで終わっていると感じた方はすいません。面白いと思ってくれる方が1人でもいらっしゃいましたら、この上ない幸せでございます。もっと作品をよくするために、何か改善点などありましたら遠慮なく教えていいただきたいです。




