表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/42

告白騒動と放課後ココア

 火曜日の昼休み。

 教室が、まるで祭りの前のようなざわざわした空気に包まれていた。


「見た!? ウラトモのトップ投稿!」


「え、マジで告白? 誰宛て!?」


「てか、これ本気だよね!? 嘘じゃないよね!?」


 その声を聞きながら、俺・相沢悠真は、イヤな予感に頭を抱えていた。


「またかよ……」


 スマホを開くと、“ウラトモ”の通知が爆発的に増えている。

 アクセス数も跳ね上がり、サーバーが一瞬フリーズしかけたほどだ。


 そして、問題の投稿が、画面中央にでかでかと表示されていた。


 匿名さん:

「好きです。

 名前も言えない、顔も見せられないけど、

 毎日、あなたを見てます。

 本当に好きになってしまいました。

 この気持ち、ここでしか言えません。」


 投稿に付いた「♡いいね」の数は、既に300オーバー。


 コメント欄も荒れている。


 匿名さん:

「これ誰? 学校内っぽいけど!」


 匿名さん:

「C組の男子っぽいって噂」


 匿名さん:

「まさか、白石さん宛じゃ……?」


(うわ、出たよ。名前出すなよ……)


 “名前は書いてない”はずの投稿が、“誰宛か”をめぐって学校中の注目を集め始めた。


 それだけならまだしも、最悪の事態が起きる。


 匿名さん:

「たぶんこの投稿相沢くんだと思う。白石さんのこと目で追ってるの、見たことあるし」


 匿名さん:

「相沢って誰?」


 匿名さん:

「2年C組の陰キャ」


「……はい?」


 思わず、声が漏れた。


(ちょっと待て、なんで俺!?)


 俺がこのアプリの管理者だなんて、誰にも知られていないはずなのに。


 どうしてピンポイントで俺の名前が出てくる!?


「おい相沢。お前、なんかやったか?」


 横から黒川凛が囁いてくる。


「やってねぇよ! この投稿だって俺じゃないし!」


「にしては、動揺してんなぁ?」


「そりゃするだろ!」



           ***



 昼休みの後半。

 ついに教師陣が動き出す。


 放送が鳴る。


「2年C組の相沢悠真くん、至急職員室まで来なさい」


(うわ、マジかよ……!)


 何人かのクラスメイトが「え、ガチで?」「本当にアイツなの?」と騒ぐ中、俺はひとり立ち上がって、重い足取りで教室を出た。


 職員室。

 そこにいたのは、いつものように不機嫌そうな顔をした、藤堂先生。


「おう、相沢。来たか」


「……あの、俺、ほんとに何も」


「知ってるよ。お前じゃないだろ、あの投稿」


「え?」


 意外な言葉に、思わず拍子抜けする。

 藤堂先生は腕を組んで、目を細めた。


「お前が“本当に”やらかすなら、もうちょっと手が込んでるはずだ。てか、サーバーの反応速度見てりゃ、管理者側がバグってないのも分かる」


「……あの、先生。もしかして……」


「まぁ、気づいてるよ。前からな」


(うわあああああああ!!)


(バレてたあああああ!!!)


「ま、俺は責める気はない。むしろ……面白いから続けろ。だがな」


 藤堂先生は指を突きつけた。


「炎上させるな。それだけは守れ。これは“言葉”の場所なんだろ?」


「……はい」


「じゃあ、どうこの状況を収めるか、ちゃんと考えろ。期待してるぞ、天才陰キャくん」


 ニヤリと笑って、藤堂先生はコーヒーをすする。


 俺は、少しだけ安心した。


 けれど、同時に、とんでもない重圧を感じていた。



          ***



 放課後。

 まだ騒然とする校舎の中で、俺はひとり中庭のベンチに座っていた。


(あの告白投稿……誰なんだ?)


 俺じゃない。

 でも、“俺だと思われている”。


 これ以上広がれば、ウラトモの信頼も、俺の身も危うい。

 そのとき。


「……相沢くん?」


 振り返ると、そこには白石夏音が立っていた。


「少し、いい?」


 ベンチの隣に座った夏音は、静かに言った。


「ねえ、相沢くん。あの投稿、見た?」


「……うん。見たよ。俺じゃないけど」


「うん、知ってる。相沢くんじゃない」


「……え?」


「だって、相沢くんは、匿名で誰かの気持ちを守ってる人だもん。自分の想いを、あんな風に投げない」


 夏音の言葉に、息が止まった。


(……なんだよ、それ。なんでそんなに、俺のこと分かってるんだよ)


「でもね、少し、うらやましかった」


「え?」


「誰かに『好き』って言える人。顔を隠してても、自分の想いを伝えられる人って、すごいと思う」


「……白石さんは、誰かに言いたい人がいるの?」


 彼女は少し間を置いて、


「うん。でも、まだ言えない。名前を出したら、全部が壊れそうで」


 その横顔は、どこか切なくて、でも綺麗だった。


「……だったら、またウラトモに書けばいいじゃん」


 俺は、ふと口にしていた。


「そこでなら……白石さんは、自分でいられるんだろ?」


 夏音は、驚いたように俺を見つめた。

 そして、小さく笑った。


「そうだね。そうかも。ありがとう、相沢くん」


「……なにが?」


「今日、こうして話してくれたこと。ちゃんと、聞いてくれたこと」


 彼女は立ち上がり、最後に言った。


「私、また投稿するね。“あのアカウント”で」


 それは、“また読んでね”という意味だったのかもしれない。



          ***



 その夜。

 スマホに通知が来た。


 @nanonanonano:

「私は、まだ言えない。でも、もう少し近づけたら、言えるかもしれない」


 @nanonanonano:

「ありがとう。“あなた”」


(……こっちこそ、ありがとう)


 俺は、またそっと「いいね」を押した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ