ウラトモ、学校侵略開始
「おい相沢、マジでどうすんだよコレ……」
放課後のコンビニ前。
黒川凛が苦い顔でスマホ画面を突き出してきた。
画面には“ウラトモ”のユーザー数がリアルタイムで表示されていた。
《本日登録者数:384人》
「いや多すぎだろ……これ、学校の半分以上じゃねえか!」
「やべぇな……俺の想定、五十人くらいだったんだけど……」
正直、ここまで爆発的に広まるとは思ってなかった。
むしろ、誰にも気づかれずにひっそり終わると思ってたくらいだ。
「しかも、お前見たか? 昼の“ランキング機能”」
「え、ランキング? 入れた覚えないけど」
「それ、誰かが勝手に改造して追加したんだよ! “今アツい投稿者TOP10”みたいなやつ!」
「ええぇぇ!? 俺のコード改ざんされたの!? 嘘だろ……」
「匿名アカの“裏の顔”が話題になってんの! このままじゃ学校中“裏”で本音ダダ漏れだぞ!?」
……これはまずい。マジで、やばい。
凛がスマホを操作しながら、渋い顔をする。
「ほら、これ。“白石夏音の裏アカっぽい”ってアカウントが、いきなりランクインしてんのかあ
そこには『@nanonanonano』という、語呂が明らかに怪しいアカウントが表示されていた。
投稿内容は
@nanonanonano:
「今日、前から好きだった人に“おはよう”って言えた。自分でも奇跡」
@nanonanonano:
「でも、私が笑うとみんなが安心するって言われると、泣きたくなるんだよね」
あの夏音が、こんなことを……?
いや、確信はない。けど、タイミングと文章の癖からして、十中八九、彼女だ。
「でもさ、これって……なんていうか」
「……なんだよ?」
「裏の自分、ってやつに救われてる人もいるんじゃね?」
「は?」
「俺ら、学校でしゃべれる相手って限られてるだろ。でも“ウラトモ”だと誰とでもつながれる。たとえ、嘘でも本音でも」
凛の言葉に、少しだけ胸がざわついた。
……そうだ。
これは“暴露アプリ”なんかじゃない。
“心のセーフティネット”であってほしかったんだ。
「……でもよ、問題もある。」
「……なに?」
凛がスマホの画面を見せてくる。
匿名さん:
「2年C組の佐倉と藤井、実は付き合ってるらしい」
匿名さん:
「1年の担任、夜コンビニでエロ本立ち読みしてたってマジ?」
匿名さん:
「このアプリの開発者、誰かマジで突き止めようぜ」
完全に“炎上系”の投稿も増え始めていた。
「やばいな。これ以上放置したら、学校で問題になるぞ」
「だな。投稿の監視体制、強化しないと」
俺はその晩、急遽コードを書き直した。
通報機能を強化。信頼度の低い投稿を自動フィルタリング。
さらに、投稿トレンドから“個人特定に繋がる危険な内容”は自動削除に。
でも、深夜、通知が来た。
@nanonanonano:
「ウラトモがなかったら、きっと私は誰にも言えなかった」
@nanonanonano:
「誰か、私の気持ちをちゃんと読んでくれてたら嬉しいな。たとえば、“あの人”とか」
……ドキッとした。
まさか、俺のことじゃないよな?
***
翌日。
学校はもはや“ウラトモ”一色だった。
朝のホームルーム中、教壇の藤堂先生が机にスマホを叩きつける勢いで叫んだ。
「誰だ! このアプリ作ったやつは!! 先生、昨日だけで七件も保護者対応に追われたぞ!!」
教室中がざわめく。
「え? ウラトモって先生も見てるの?」
「ヤバ、バレてるやんww」
「でもさぁ、あれ便利じゃね? 本音ぶちまけられてスッキリするし」
「逆に、あんたも書かれてるかもよ?」
ざわざわした空気の中、俺はできるだけ目立たないように縮こまっていた。
「このままいくと、学校として問題にせざるを得ない。アプリの削除を要請するか、開発者を特定するぞ!」
(……やばい。本気で潰しに来てる)
そのとき、白石夏音がスッと手を挙げた。
「先生。それって、“自由な表現”を奪うことにもなりませんか?」
「白石? 何を言って……」
「確かに悪い投稿もあるかもしれません。でも、私……あのアプリでちょっとだけ救われました。」
教室がシンと静まりかえる。
俺も、思わず彼女を見つめてしまった。
「誰かが、私の“本当の声”を聞いてくれてる。そんな気がしたんです……そういう場所って、大事だと思いませんか?」
先生は苦い顔をしながらも、それ以上は追及しなかった。
……夏音。
お前、まさか……
俺が作ったアプリに、そんな風に感じてくれてたのか?
***
昼休み。
校舎裏で凛と合流した俺は、早速言われた。
「おい、ヤバい。白石夏音、マジで“ウラトモの中の人”を探す気だぞ」
「は?」
「ほら、これ見ろよ。アカウント“@nanonanonano”が、さっき投稿してた。」
@nanonanonano:
「ウラトモの開発者に会ってみたい。もし、あなたが“読んでる”なら、ヒントをちょうだい」
「……」
「なあ、相沢。もう、名乗っちゃえば?」
「バカ言え。今名乗ったら吊るし上げだろ。先生も親も、最悪ニュース沙汰だぞ!」
「でもさ……あの投稿、“お前に向けた”ように見えたけどな」
凛の言葉に、また心臓が跳ねる。
バレたら終わり。
でも、もう始まってしまった。
彼女は、俺の存在に“気づき始めている”。
ーーどうする、俺。




