【30秒で読める怪談】通学路の怪
高校生のとき、私は自転車通学でした。
いくら寝ても寝たりない高校時代ですから、毎朝、遅刻ギリギリまで寝て、母にたたきおこされるのがいつものパターン。
ねぼけまなこで朝食をかきこみ、急いで自転車に乗ったものです。
そして学校が終わると、部活をしていなかった私は、沈みかけた夕日に照らされながら、自転車をこいで自宅へ帰りました。
家から学校までは、だいたい30分ほど。
いつも決まった道です。
その道の途中に、あるおうちがありました。
高さ2メートルほどのブロック塀に囲まれた一軒家。
割と古いおうちで、元はクリーム色だったろう壁は、すっかりくすんでいます。
小さな庭もついているようでした。
「ようでした」と言ったのは、塀の高さが2メートルもありましたから、はっきりと中を見たことはないのです。
ただ、玄関前に門があり、その鉄格子の隙間からチラッとお庭が見えたのです。
芝生の敷かれた庭でした。
それだけならどうということもないのですが、気になることが一つ。
その小さな庭には、ベンチがおかれていました。
そのベンチに、いつもおじいさんが座っているのです。
年は80歳くらいでしょうか。
茶色のチョッキを着て、下はグレーのスラックス。
ぼんやりと夕日を見ているような感じでした。
そのおうちの前を自転車で通りすぎる際に、門の隙間からチラッと目に入るだけですから、私もはっきり見たわけではありません。
でも、私の下校時には、いつもそのベンチに座っていらっしゃいました。
おそらくほぼ毎日だったと思います。
当時は、そのおじいさんの日課なんだろうな、と思い、特に深く考えたりはしませんでした。
やがて私は高校を卒業し、東京の大学へ行きます。
さらに十数年がたち、先日の土曜日に高校時代の同窓会がありました。
私も含め東京から参加した者も多く、最終的に100名近くが出席。
思い出話や現在の仕事の話で盛り上がり、本当にいい会だったと思います。
翌日の日曜日。
何人かの同級生と、卒業した高校へ遊びにいくことになっていました。
ちょうどその日が高校の文化祭だったので、日曜日でも恩師の先生方が学校にいらしたのです。
実家に泊まっていた私は約束の15時に合わせ、家を出ました。
移動手段は、あえて当時と同じく自転車。
途中、あのおうちがある道を通りました。
高校時代から数えて、十数年がたっています。
あの家自体がなくなっているかもしれません。
正直にいうと、完全に忘れていました。
でも、あの家の近くに差しかかった途端に、思い出したのです。
あの家はまだあるでしょうか?
ドキドキしながら角を曲がりました。
なんと、あの家はまだありました。
古びた感じも、くすんだ壁も当時のままでした。
あのおじいさんはいるでしょうか?
いるはずがない。
もう十数年たってますから、亡くなっていても不思議はないのです。
自転車で門の前を通りすぎる際に、私は鉄格子の隙間から庭へ目をやりました。
すると……
あのおじいさんはまだいました。
あのときと同じ格好で、あのときと同じ姿勢で、ベンチに座っているのが見えました。
私は30メートルほど進んだところで、引き返しました。
高校生の頃の私なら絶対にできなかったでしょうが、私はあのおうちの前へ戻ったのです。
そして門の隙間から中をのぞきました。
懐かしい思いと同時に、真相を追求したい感情が込み上げてきたのです。
でも、おじいさんはいませんでした。
ベンチは元の場所にありました。
しかし、おじいさんは座っていなかったのです。
芝生の上に、空のベンチが一脚あるだけ。
私は狐につままれたような気持ちでした。
私が高校の3年間、ほぼ毎日見かけていたあのおじいさんはなんだったのか?
見間違いとは思えません。
幻だったのでしょうか。
頭をひねりながら顔を上げた瞬間、私の目の前にあのおじいさんが立っていました。
完全に不審者を見る目で、私をにらんでいました。
急いで逃げ出したのは、言うまでもありません……




