出版済「おはなしでてこい」その3 人形劇団『ぴえろ』
さあ、ゆかいなおはなしの はじまりはじまり~
人形劇団ぴえろ
風そよぐ、気持ちのいい5月のある日。
ひまわり保育園の園舎内で、子供たちが先生のオルガンを伴奏に楽しそうに歌っています。
一方、同じ敷地の中、反対側の通称『お遊戯室』と呼ばれている集会用の建物に、なにやらアヤシイ人々が・・・
それは全身黒づくめ。全身タイツじゃありませんよ。
それぞれ黒い半そでシャツやポロシャツで下は黒いズボンという格好。
お遊戯室の窓という窓に、これまたまっ黒の暗幕を張って。
えっ、これって、【夜逃げ屋】さん?園長先生、まさか・・・。
いえいえ、冗談がすぎました。
改めて紹介しましょう。彼らは、『人形劇団 ぴえろ』のメンバー。
上演準備のまっ最中でした。
手前で人形のチェックをしてるのが、かずみさん。
奥で音響の配線を引いているのがよしえさん。
かずみさんは、少々せっかちさん。よしえさんは、のんびりさん。
かずみさんは、はやりのドラマが大好き。よしえさんは時代劇好き。
見た目はとても似ているけど性格はちょっと違う二人なのです。
まあ、そうこうしているうちに、準備は着々と進み、やがて先生がやってきて、
「入場させてもよろしいでしょうか?」
と、尋ねます。
「はい、そろそろご入場ください。」
そう答えたのは、この班のリーダー吉田拓君です。
のんきな口ぶりでしゃべりますが、動きは素早く器用です。
オカリナを吹くのが得意です。
「それでは。」
と、先生は、子供達を呼びに行きました。
お遊戯室に劇団が用意したテンポの良いBGMが流れる中、小さなお客さんたち、園児たちがホールに集まってきました。
ホールには陽気な音楽が流れています。劇団のテーマ曲です。
劇が始まるまでの間、お客様に聞いて頂く曲。
ざわざわと園児が席についていきます。
「ハイハイ、たかしくん、そんなところにいないの。こっちにいらっしゃい。」
「はぁーい」
「のぶゆきくん、たかしくんのお迎えは要らないから、静かに座っていてね。」
「わかった」
ガヤガヤ、ワイワイ、ぎゃー、えーんえん、…
などなど声がしていたのですが、次第に静かになってきます。
園長先生が挨拶しようと、ステージの前に立つと、音楽は止まりました。
「みなさんおはようございます。」
「おはよ~ございまぁす!!」
園児達が挨拶を返します。
「まぁ!上手にあいさつできましたね。素敵です。今日は、ぴえろという人形劇団のみな様が、楽しい人形劇を見せてくださいますよ。」
「わーい」
「なんのおはなし~?」
「やったー!」
園児達が、又ざわざわしだします。
「それじゃあ、人形劇のお兄さん、お姉さんたちに、『もういいかーい?』って聞いてみましょうか?せーのっ!」
園長先生がうながすと、園児たちは声をそろえて
「もういいかーい?」
と幕の閉まったステージに向けて声をかけます。すると、
「もういいよー!」
劇団員たちも声を合わせて答えました。と同時に、部屋の明かりがゆっくり消え、ステージの照明がパッと点きました。
『12番街のラグ』という曲が流れます。
手拍子が聞こえてきて、照明がチカチカと点いたり消えたりしています。
お客さんたちは大喜びです。
幕前に軽快な足取りで出てきた『お兄さん』登場。
にっこりと両手を振り振り、ご挨拶です。
「はぁい、皆さぁん、こんにちはーっ!」
「こんにちは~!!」
園児たち、つまりお客さん達も挨拶を返します。
「わぁ!元気いっぱいだねーっ。きょうは僕たち人形劇団ぴえろをお招きくださってどうもありがとう。
楽しい人形劇を持ってきたよ。今日の人形劇は、『おむすびころりんのお話』だよ。
さあ皆さん、いよいよ始まりまーす!!皆さんのパチパチパチ~の拍手でこの幕が開きますよ。さあ、元気よくパチパチパチ~!!!」
そう言うと、自身も大きな拍手をしながらにこやかに幕の向こう側にに去ってしまいました。お客様たちは期待に胸膨らませながら、大きな拍手をしています。
幕が上がると、子供たちの目の輝き、そして歓声に応えるため、4人の劇団員は必死に人形を操り、また台詞を言います。
のどかな朝を思わせる音楽と雀のさえずりで幕開けです。
おじいさんが家から出てきます。あたりを見回して、
『おお、今日もいい天気だねえ』
おじいさんの人形を持った吉田君がセリフを言います。
『おじいさん、おいしいおむすびを作りましたよ』
とおばあさんの人形を持ったよしえさんが言います。
二人とも70センチくらいの大きさの人形を、頭の上まで持ち上げて、しゃがんだ姿勢で動きます。人形にはいろいろな棒がついていてその棒を動かすと人形が動く仕組みです。
『はい、これですよ』
『おお、ありがとう。おばあさんの作ったおむすびはおいしいからね。頑張ってたくさんたきぎを取ってくるよ。』
と、おばあさんがおじいさんに手渡しているおむすび。よしえさんのおばあさんが吉田君のおじいさんに直接手渡しているように見えますが、じつは見えない所でこっそり田中君が手助けしているのです。
田中君は、欲張りなとなりのおじいさん役なのですが、今ここでは人形に小道具持をたせる係なのです。
今は主役の吉田君とよしえさんが舞台に出ています、それ以外のかずみさん田中君は人形の出番がないので効果音、照明、大道具(舞台転換)小道具(登場人物の持ち物の世話)をやります。
じっと出番を待っているということはまずありません。人形を動かしてセリフを言ってるか、裏方の仕事をしているかどちらかなのです。
『行ってらっしゃーい。』
場面が変わり、山の中の景色になります。おじいさんの歩きに合わせてBGMがなって、景色が横に動きます。ここでのBGM係りは田中君。景色を変えるのはかずみさん。
『さてさて、よっこらしょ。』
よしえさんが切り株と枯れ木の林を違和感なく置いてゆきます。
おじいさんの動きが止まると景色とBGMがとまります。
おじいさんが切り株におむすびと背負子を下ろし、ナタを持ちます。これも田中君のお手伝い付き。
『さて、始めるか。そーれ、よいしょ!よいしょ!よいしょ!っと!』
ナタで枯れ枝を切り落としてゆきます。
カコーン、カコーン、カコーンと小気味よい音がします。
田中君が動きに合わせて、効果音を出しているのです。
お日様が東側から、南の高い所へ。これはよしえさんの仕事。
『おや、もうこんな時間かい。そろそろお昼にしょうかの。』
おじいさん、ナタをおき、腰を下ろします。おにぎりをひろげます。もちろん田中君のお手伝い付きです。
『おいしそうなおむすびだこと。どれどれ、あーん、』
おむすび一つをてにとり、食べようとします
すると、おむすびはおじいさんの手から転げ落ちていきます。
『おおーい、おむすびやーい、待っておくれよー』
転がるおむすびの役はよしえさんです。ちなみに、どうやったら面白く転がるのか、日々研究しているのだとか。
ポトリ、コロコロ・・・ヒューーストン!!と穴に落ちてゆきます。
効果音出しは田中君。
『あれあれ!これはもったいない!』
おじいさんは穴をのぞき込みます。と、その時、
『おむすびころりんすっとんとん、チュー!おいしいおむすび、すっとんとん、チュー!!』
ねずみ役のかずみさんが歌います。楽し気な伴奏つき。音のスイッチ入をれるのはよしえさん。
おじいさん、歌に合わせて踊っていると、歌はすぐにとまります。すると、
『ありゃりゃ、もうおしまいかい?もっと聞きたいのう』
と、穴にむかってさけぶおじいさん。
『おおーい、もっと聞かせてくださいよぉー!』
と、耳を澄ましてみるけど、何も聞こえません。
『・・・聞こえませんねぇ・・・』
おじいさん、おむすびを両手に取り少し見つめてから、うなずくと、
『よぉーし、えーい。』
と、おむすびを穴へ落とします。
おむすびの落ちる音、歌の伴奏のスイッチはこんどもよしえさん。
『おむすびころりんすっとんとん、チュー!もひとつおまけにすっとんとん、チュー!』
ねずみの歌声はかずみさん。
穴から歌声が聞こえてくると、おじいさんはノリノリで踊ります。
おじいさん、途中足を上げたり下ろしたりしますが、吉田君は、頭、胴体と手を持っていて、足を動かすことができないので、田中君が足を持っていかにも一人で踊っているように動かします。
因みに、熟練の人形使いにもなると、一人で踊れるらしいです。見てみたいです。
『いやあ、たのしいなあ。ほれ、もひとつほいっ!!』
と次々と、おむすびを穴へおとしていきます。
『おむすびころりんすっとんとん、チュー!またまた来たよ、すっとんとん、チュー!』
そして、また、ぴたりと歌が止まってしまいました。
おじいさんは、おむすびをもう一ついれようとします。すると、
『あれ?もうない・・・。おーい、おむすびはもう、一個もありませんよぉー!!」
穴に向かって叫びます。とその時、足をずるりと滑らせ穴の中へ落っこちてしまいました。
『わぁ!助けてくれぇー!!』
おじいさんが落ちる音がヒュゥーとします。
効果音はよしえさん。
照明が暗くなります。
そのスイッチは田中君。
景色が地上から穴の中へと変わっていきます。
かずみさんが穴の景色の幕(『書割』といいます)をロールカーテン式に上から下へ引いて地下の景色にしながら、ねずみのうたをうたいます。
『じいさんころりんすっとんとん、チュー!おむすびじいさんすっとんとんチュー!』
ヒューコロコロと音がする中おじいさんは暗い穴をずんずん落ちてゆきます。
そして、ドスン!と音がして、穴の底に到着。
ヒューコロコロと鳴る笛を吹きながらドスン音のスイッチを押すのははよしえさん。
『あいたたたたっ!おや、いったい、ここはどこじゃろう?』
おじいさん、あたりをきょろきょろしていると、周りがほのかにあかるくなります。
照明スイッチは田中君。
すると、たくさんのねずみたちがおじいさんを出迎えます。
10センチくらいの小さいねずみ、20センチくらいの中くらいのねずみ、大勢のねずみをよしえさんと、田中君が担当します。
『チューチュー!おじいさんよくおいで下さいました。おれいにごちそういたしましょう。』
といっているのは、おおきいねずみ。ねずみの長。かずみさんの役です。
『さあ、こちらへどうぞ。チュー』
と、おじいさんを立派な部屋へ案内します。
田中君がねずみの群れをちょっと舞台裏にある仕掛けに置いて(そうすると、ねずみたちが舞台上でその間だけ直立不動になります。)立派なへやのセットを横から引っ張り出してきます。
そうしておじいさんは、立派な部屋の立派な席に案内されました。
おじいさんは、もの珍しさにキョロキョロ。
ちなみにおじいさんを操ってる吉田君は、しっかりおじいさんを見つめていますよ。
『チューチュー!これからおもしろい餅つきをご覧に入れます。』
と、ねずみの長が言うと、ねずみたちが臼と杵を持って来て、餅つきを始めます。
つまり、よしえさんと田中君が、ねずみと一緒に移動しながら臼と杵を持ってきてねずみに餅つきをさせているということです。
『おいしいお餅だ、ぺったんこ。チュー!
ねずみはお餅がだーいすき。チュー!
だーけど、ねーこは、だいきらい。チュー!
にゃぁにゃぁ鳴き声、やめとくれ。
ぺったんぺったん、ぺったんこ。チュー!』
ねずみは、餅つきしながら、うたい踊ります。
おじいさんも、うたにつられて、踊り出しました。
『ねこなどいないさ、ぺったんこ。なきまねなんかは、しーないさ。』
『チューチュー!さあおじいさん、おいしいお餅ができました。どうぞめしあがれ!!』
ねずみの長が言うと、おじいさんの前に、つきたてのお餅が運ばれます。
よしえさんと田中君、今度は、臼を片付けて、お皿に乗せたつきたてのお餅を、おじいさんの前へはこびます。
『これはこれは、おいしそうなお餅だこと。』
おじいさんが言います。
『おじいさんがもちを召し上がってる間に、すもうを御覧に入れましょう』
ねずみの長が言って引っ込むと、回しを付けたやせたネズミと太ったねずみ、それから行司の装束を着たネズミが出てきます。
行事役のねずみは田中君。
チョン、チョン。と、ひょうしぎの音。
トコトントントントン・・・と、太鼓の音。
かずみさんがそれらを鳴らしてます。生演奏です。因みにひょうしぎって鳴らすの難しいらしいですよ。
『ひがぁし~ぃ~、チューのかわ~、チューのかわぁ~ぁ~。
に~しぃ~、チューのやまぁ~チューのぉ~やぁ~まぁ~』
すもうとりのねずみは2匹ともよしえさんです。
堂々と、お互いに礼をします。
『みあってみあって、ハッケヨイ、のこった。』
一人二役のすもうが始まります。
チューの川が優勢と思いきや、チューの山が盛り返します。
『のこった、のこった、のこった。…のこった、のこった、のこった。』
ねずみの広間いっぱいを使っての大相撲となりました。
くんずほつれつ、なかなか勝負はつきません。
『がんばれがんばれ、どちらもまけるな!!』
おじいさんも大興奮です。
観客の子供たちも盛り上がります。立ち上がってしまって、先生が注意をしていました。
勝負あり、やせたチューの川の勝ちとなりました。
『上手投げ、チューの川の勝ちぃ!!』
すもうとりのねずみたち、肩で息をしながらお互いに礼、おじいさんに礼、長や、
観客の子供たちにもに礼、をして退場です。
ちなみに、相撲の勝負はアドリブ。よしえさんの腕の見せ所なのです。
行司役も、軽く礼をして、退場しました。
すると、遠くから夕方のお寺の鐘が聞こえてきました。
田中君が効果音のボタンを押してます。
『おや、もうこんな時間かい。さて、そろそろ帰らないと。
あんまり遅くなるとばあさんが心配するから。』
と、おじいさん立ち上がり、帰ろうとしながら言いました。
『すっかりごちそうになりました。今日は本当に楽しかった、ありがとう。』
すると、ねずみたち、おじいさんの前におおきなつづらを持ってきました。
これも田中君、よしえさんの共同作業です。
ねずみの長は、言います。
『では、おじいさんおみやげをどうぞ。チュー!』
『これはこれは。どうもありがとう。』
おじいさん、丁寧におれいを言います。
つづらを受け取ってから、
『それではみなさん、さようなら。』
『チューチュー!おじいさん、気を付けて。』
ねずみたち、手を振って見送ります。
おじいさんが家路につく様子を見せながら、場面転換をします。
この余韻が残ってるうちに、みんな大急ぎでそして静かに場面転換をするのです。
そして場面が変わるとおじいさんの家の中です。
おばあさんが少し心配そうにしています。
『おじいさん今日は遅いですねえ…』
ガタゴトと戸が開いて(かずみさんが手助けします。)おじいさんが入って来ました。
『ばあさんや、ただいま』
『おかえりなさいおじいさん、今日は少しおそかったですね。なにかあったんですか?』
『じつはね、ばあさんや、これこれこういうことがあってね。』
『まあ、そうだったんですか。それは良いことをなさいましたね。』
『それでね、帰りにおみやげをもらったんだよ。さっそく開けてみようか?』
『ええ!!』
と、おじいさんとおばあさん、ふたりでつづらをあけます。(これもかずみ
さんの手助けつき)
すると、つづらの中から、大判小判、金銀サンゴ、きれいな着物や帯、櫛にかんざしまでが出てきました。
『あんれまあ、おじいさん。これはこれはありがたい。』
『ほんとに、ありがたいのう。』
二人、ねずみの住処の山へ向かって手を合わせます。
と、窓の外には、中をのぞく隣の欲張りじいさんがいます。
『しめしめ、これはいいことを聞いたぞ。ふっふっふっ…』
といってこっそりかえっていきます。
場面が変わります。
ここの場転は、かずみさんの仕事です。
翌朝、欲張りじいさんの家です。
欲張りじいさんはおむすびを山ほど作っています。
おむすび作りの手助け、今度は吉田くんの番です。
『大判小判に、宝物まで。あんなにたくさんもらえるなら、おむすびくらい、いくらでもやるわい』
おむすび竹の皮に包んで、乱暴にかごにいれていきます。
吉田君が補助。
おむすびのかごをしょって、
『よっこらしよ、っと。』
戸を開けて、出かけてゆきます。
しつこいようですが、これも吉田君の補助付き。
場面が変わり、山の中。
場面転換はよしえさん。
『ねずみの穴はどこじゃろうのう?』
欲張りじいさんは歩きながらキョロキョロ。
『おおあった、あった。ここじゃな!!』
ついにねずみの穴を見つけます。
『よーし、ここにおむすびを入れて…』
と、穴の中へ、持ってきたおむすびを全部いっぺんに投げ入れます。
当然吉田君の補助付きです。
すると、
『おむすびころりん、すっとんとん。チュー!たくさんおむすびすっとんとん。チュー!』
と、うたが聞こえてきます。
効果音のスイッチはよしえさん。
うたうのはかずみさん。
『ええー~い、うたを聞くよりお宝が先じゃーい!!』
と欲張りじいさん、待ちきれない様子で、自分から穴へ飛び込んでいきます。
ねずみの穴の中へと場面が変わります。
ここの場転は吉田君がやります。
ころころりん、どっすーん!!と欲張りじいさんが、落っこちた音がします。
この効果音のスイッチも吉田君のお仕事。
欲張りじいさん、頭から真っ逆さまに、落ちています。お客さんは欲張りじいさんを指さしてゲラゲラ笑っています。
『あいたたたたっ!』
ねずみたちが寄ってきます。大勢のねずみは、吉田君とよしえさん。
ねずみの長はかずみさんです。
長が言います。
『チューチュー!おじいさん、おむすびをたくさんたくさんいただき、ありがとうございました。ささ、こちらへどうぞ。おれいにごちそういたしましょう』
と、ねずみの長が言い、広間に案内すると、ねずみたちが臼と杵を持って来て、餅つきを始めます。
よしえさんと吉田君が、ねずみと一緒に移動しながら臼と杵を持ってきてねずみに餅つきをさせます。
『おいしいお餅だ、ぺったんこ。チュー!
ねずみはお餅がだーいすき。チュー!
だーけど、ねーこは、だいきらい。チュー!
にゃぁにゃぁ鳴き声、やめとくれ。
ぺったんぺったん、ぺったんこ。チュー!』
ねずみは、餅つきしながら、うたい踊ります。
しかし、欲張りじいさんは、ねずみたちの餅つきは見ずに、奥にあるつづらを気にしています。
そして、はっ!と思いつきます。
『そうだ!いいことをおもいついたぞ!!
にゃあご、にゃあご、にゃああごぉ~』
すると、ねずみたちは、大慌てです。
うたはぴたりと止まって、
『ねこだー逃げろー!』
『チューチュー!チューチュー!』
ねずみたち、飛び上がり、走り、転び、
あっという間にちりぢりにいなくなります。
部屋は、真っ暗になります。
部屋のライトのスイッチはよしえさん。
欲張りじいさんにスポットライトが当たります。
スポットライト係は吉田君。
『なんだ、なんだ、何も見えんぞ。』
よろよろと、手探りでうろうろしますが、あちっへごっつん。こっちでごっつんとぶつかります。
『つづらは見えなくなった。もう帰り道もみえんぞ。』
手探りで進もうとしますが、あっちへごっつん、こっちへごっつん。進めません。
『もうつづらはあきらめた!家に帰りたい。』
さらに手探りで進もうとしますが、またまたあっちへごっつん、こっちへごっつん。ちっとも進めません。
『あ~あ。欲張るんじゃなかった。・・・うわーん!!』
ここで場面が変わります。
かずみさんの係です。
こんどは、おじいさんとおばあさんの家の中です。
家の出入り口につづらが開いていますが中は空っぽです。
おじいさんとおばあさん、部屋に上がりながら話をしています。
『ばあさんや、村の人も喜んでいたね。』
『そうですね、皆さんに、宝物を分けて差し上げて、喜んでもらって、よかったですね。』
『本当だね、よかったよかった。』
『これもネズミさんたちのおかげですね。』
『うんうんそうだね。』
『ありがたや、ありがたや。』
『ありがたや、ありがたや。』
二人でねずみのすんでいる山の方を拝みます。
『さておじいさん、そろそろ晩ご飯にしましょうかね。』
『そういえば、お腹ペコペコだよ。今日のご飯は何かな?』
『今日はですね…』
二人仲良く話をしているうちにフェイドアウト。つまり、だんだん暗くなっていきます。
明かりの係は田中君。
おじいさんの部屋に替わってすぐからBGMが流れていたのですが、小さな音量で流れていたのがおばあさんが最後のセリフを言い始めるとだんだん大きくなってセリフを飲み込んでいきます。
音の係はかずみさん。
暗くなりきって静かに幕が閉じます。
幕引き係は田中君。
お疲れ様でした。
のんきにお話は進んで行きましたが、裏側はそれはそれはハードなのです。
見ているお客さんに自分の姿を見せることがあってはなりません。
1メートルくらいの高さの舞台の裏側で、中腰になってあちこち移動しなければいけません。
もう、皆汗だくです。
Tシャツは何度も汗をかいては体温と照明で乾くの繰り返しで、白く塩噴いちゃってます。(おにぎりには使えません、念のため)
大爆笑、大感動のうち、幕は下りました。先生たちも、
「笑いすぎて、横腹痛くなっちゃったわ。」
なんて、話してます。子供達は、劇中の気に入った
『おむすびころりん、すっとんとん。チュー!』
『にゃあご、にゃあご、にゃああごぉ~』
『はけよーい、のこったぁ~!』
などを口にしながら、教室へ帰っていきます。
劇団員たちは一休みする間もなく、後片付け開始です。しかし、さすがに手慣れたもので、セッティングの時間よりも早く、あっという間に片づけを終わらせてしまいました。
園庭で遊んでいた子どもが、それをめざとく見つけて、
「ねえねえ~、あそぼうよ~」
と、誘ってきます。
「吉田さーん、今日これからの予定は~?」
と、聞いてくるのは、さっきちゃんと紹介しきれなかった4人目の劇団員、田中嘉人君です。
ギターとピアノがとても上手で、動物大好きな男性です。
「ん~、本日の上演はここで終了!」
と、吉田君が返します。
「やった~!遊べるぞ~~!」
と、田中君が叫ぶと、
「うわ~~い!」
元気な子供達が田中君や、吉田君のまわりに走り寄ってきて、腕にぶら下がったり、肩車をおねだりしたり、もう大騒ぎ。
野本姉妹のまわりにも大勢の子供達が寄ってきます。
「スターの気分ね」
「テレビに出なくったって、こんなにモテモテ!だから人形劇って、やめなれないのよね。」
と、姉妹は笑います。
「ねえねえ、」
田中君に一人の男の子が話しかけます。
「お兄ちゃんたち、4人くらし?」
「いいや、ちがうよ。別々に暮らしてるよ。」
「じゃ、ビンボーぐらし?」
「ウン、実はそうなんだ。」
田中君は、質問を面白がり、泣く真似をしてみせました。すると、
「ぼく、こぜにならもってるから、かしてあげるよ?」
「いや、その気持ちだけでうれしいよ。ありがとう」
田中君は、笑いをこらえて受け答えしています。
そこに、そのやり取りを聞いて急いで走ってきた担任の先生が、
「まあ、なんて失礼なことを…。」
と男の子に言ってから、
「すみません、すみません。」
と、田中君に平謝り。
「いや、いいんですよ、ぼくたちがペラペラのシャツ一枚で居るから、お金がないと思ったんでしょう。面白い着眼点ですよね。」
と、笑顔の田中君。それにしても、最近の5歳児って、おませさんですね。
一方、野本姉妹のまわりに居る女の子が言います。
「ね、お姉ちゃん達、新しいお歌教えてあげる。」
「へー、聴かせてちょうだい。」
野本姉妹が言うと、女の子達は、さん、し、と、歌いだしました。
それは、ダンゴムシがまん丸くって可愛いという歌でした。
得意げな女の子達に、姉妹は一言、
「・・・、か、・・・かわいいお歌、ね。」
苦笑いです。
楽しい時間ほどあっという間に過ぎていきます。
夕方になり、ぼちぼちお母さん方がお迎えに来はじめました。
「よっちゃ~ん、しげちゃ~ん、みさきちゃ~ん、お母さんがいらしたわよ~!」
担任の先生が、呼んでいます。
「はーい。」
名前を呼ばれた子は、返事をしてから、
「ね、お兄ちゃん達、また来てよ。」
吉田君にそう言い残して、走り去って行きました。
他の子たちも、それぞれ迎えに来てくれた、お母さんや、お父さん、おじいちゃんや、おばあちゃんに、走り寄って行きます。
劇団員達は、門の近くまで行って、手を振って皆を見送ります。
「ね、ママ。今日ね、人形劇おもしろかったんだよ。」
「そう、よかったわね。」
そんな会話が遠くから聞こえてきて、劇団員は思わず顔を見合わせにっこり。
最後まで園児たちを見送り終ると、先生方へ挨拶をすませ、園を後にします。
田舎道をロングタイプのワンボックスカーが走ります。運転手は吉田君。野本姉妹は園が見えなくなった途端、おしゃべりに夢中。
「このあいだ食べたパフェってお店どこだっけ?」
「10人前パフェ?」
「やだ、違うわよフルーツ山盛りパフェよ!」
「たいして違わなくない??」
「違うよォ、あのね・・・」
そんなうるさい中、田中君はあっという間に寝てしましました。これ、田中君の特技らしいです。
「ねえ、コーヒーちょうだい。」
と、運転手の吉田君。
「ん?缶コーヒー?」
と、よしえさん。
「そうそう、フタ開けてちょうだいね。」
「はいはーい。」
プシュ、と、プルタブを開ける音がきこえます。よしえさんが、吉田君に手渡します。
「おう、サンキュ!」
「どういたしまして。」
すると、かずみさんが、
「ねえ、吉田君、ガソリンスタンドに着いたら、次の運転を交代しようか?」
吉田君は答えます。
「そうだな、ま、あと20キロくらい行ったら、給油するか?そのあとよろしくね。」
「OK!」
明日は隣の県のかなり遠い、へき地とも言える所での公演のため、現場(幼稚園)近くに宿をとってあります。今日の移動は長丁場になるのです。
目的のガソリンスタンドが見えてきました。
「はーい、ガソリンスタンド、到着~~!」
吉田君が言うと、
「おー、トイレターイム」
「背伸びターイム」
姉妹は、口々にそう言って、飛び出すように車から降りて行きました。熟睡モードの田中君に、
「おーい、トイレ行かなくていいのかーい?」
と、吉田君が、のんきに声をかけます。
「う~ん、…ありがと、行く。」
目をこすりながら、起き上がる田中君。降りしなに、
「ヤギに、会いて~…」
と、ぼそり。
「へ??」
首をかしげながら、吉田君も降りました。
さて、給油のついでに、洗車も頼み、スタンドの隅っこの方に行った吉田君。
「おおっ!こっち側は崖っぷちみたいになってるんだ。見晴らしいいなぁ~!」
と、景色を眺めています。
「へー、どれどれ?」
「わー、いい眺め!」
いつの間にか他のメンバーも集まって来ました。どうやら、ここは高台にあるようです。 眼下には美しい景色が…、というか、住宅街と、児童公園があります。
「上から見る住宅街っていうのも、なかなかオツなもんですな。」
と、吉田君がしみじみ言います。
「ありゃ、犬だ。」
と、田中君が見ているのは、公園の先隣にある住宅の庭に、ながーいロープに繋がれ、向こうを向いてやたらと激しく吠えてる犬です。
ここで皆は、演技練習を兼ねたお遊びをしようということになりました。劇団員が順番に、犬の吠え真似をしてみました。まずは、吉田君。
「ウ~、ウオンウオン、オン。」
犬は聴きなれない声に、吠えるのをやめ、キョロキョロ。しかし、どこから声がしてるのかつきとめることができず、またさっきの方向を向いて、吠えはじめました。そこですかさず田中君も、
「ワワワワ、ワン。」
犬はまた、声の主を探し始めます・・・、が、断念。野本姉妹は、ハモッてみました。
「ウ~、ワオォーーン!!」
犬は、やっとこちらから吠えているのに気がつきましたが、こちらにに犬がいないのが納得いかないらしく、首をかしげています。さすがの演技力ってわけです。もう皆、おかしくておかしくて、笑いたいのをこらえて、肩を震わせています。犬は相当悩んでいるようで、後ろ足で、頭をかいてから、小屋に戻って行きました。
「あの…、お客様?」
後ろからの呼び掛けに、皆が振り向くと、ガソリンスタンドの店員さんが、ちょっと困ったような営業スマイルで、伝票片手に立っていました。
ピカピカすっきりした御一行様が、出発します。運転はよしえさん。
「あのさー、この辺にはヤギは居ないってさ、住宅地だし。」
と、吉田君。
「へー、でも動物園に行けば会えるじゃん。」
と、かずみさん。
「それと、どこかのパーキングエリアにもいたよ。」
と、よしえさん。
「どっちも近くじゃないなあ。今日は高速も使わないんでしょ?」
と、田中君。
「残念だったな。今度の休みにでも行ってくれ。」
と吉田君が優しく慰めていると、
「わーきれいな海!!」
と、野本姉妹が歓声を上げます。
「どれどれ…、ウォーすっげー!!」
男子二人も、美しい海の景色に歓声を上げます。
「俺さぁ、初めて太平洋見たとき、こんなに波高くって大丈夫なのかな?って思ったよ。」
と、吉田君が言います。
「なんで?」
田中君が尋ね得ると、
「俺が育った地域の海は内海で、こんなに波が高い時ってのは、船とか出さなかったし。でも、ほら、ここは船が平気で行き来してるだろ、びっくりしたわけ。」
「ふーん。場所によって、海の表情って違うんだね。」
他のものが、なるほどと感心していると、窓を大きく開けた吉田君が、
「すっげーぞ~~っ!太平洋~~~!!」
海に向かって叫んでいます。
車内は大爆笑。
車は、目的地へ向かって走っています。
明日もきっといい日でしょう。
おしまい
事実をモデルにアレンジを加えてます。
団体や個人名はフィクションです。
ナレーターも架空です。