平凡な高校生の俺に、ある日前世は異世界の勇者だった記憶が蘇った。だが、転生していたのは俺だけではなく……!
「今日こそ決着をつけるぞヴァルダート!」
「覚悟なさい!」
「ハァッハァッハァッ! それはこちらの台詞だ、勇者ソル、聖女ルアよ!」
広大なニャッポリート平原の中心で、俺とルアは魔神ヴァルダートの本体と対峙していた。
今日までヴァルダートの分身とは何度も死闘を繰り広げてきたが、それもこの本体を倒せば全て終わる……!
それにしても、ヴァルダートは頭に二本の禍々しい角が生えている以外は俺たち人間と同じ容姿をしており、しかも極めて布面積の狭い服を着ている妖艶な美女なので、いつもながら目のやり場に困る……。
い、いや、こんな大事な場面で、そんなことを言っている場合ではないぞ、俺!
半ば強制的にやらされているとはいえ、一応俺は勇者なのだから……!
「彼方の流星
黄昏の微睡
秩序の真珠
創生の小枝
混沌を穿つ光を我が手に
――顕現せよ、【光の剣】!」
俺の右手から一筋の光が伸び、それが剣の形になった。
これぞ俺の勇者としての切り札。
魔なる存在を浄化する、【光の剣】。
「歌うように海はうねり
背くように空は覆われ
漂うように白は染まり
狂うように黒は堕ちる
裁きの杖よ真実を示せ
――雷撃魔法【男神の雷】」
【光の剣】が、ルアの手のひらから放たれた雷を纏う。
【光の剣】はこうして各種魔法を纏うことによって、更に威力を増すのだ。
「ハアアアアア!!!」
【光の剣】を構えながら、俺はヴァルダートに突貫した。
「――【雷光裂帛斬】!!」
「ギャアアアアア!!!!」
俺の奥義である、【雷光裂帛斬】がヴァルダートに直撃した。
――やったか!?
「ハァッハァッハァッ! 甘いぞ、勇者ソルよ!」
「っ!」
「ソ、ソル!」
いつの間にか俺の後方にヴァルダートが立っていた。
しまった……!?
俺が今斬ったのは、ヴァルダートの分身だったのか!?
クッ、俺としたことがこんな初歩的な手に……!
「貪れ貪れ餓えた蟻よ
潰せ潰せ瘦せた鷺よ
灯せ灯せ愚かな狐よ
叫べ叫べ驕った人よ
灰になれそして世界を彩れ
――獄炎魔法【魔神の炎】!」
「きゃあっ!?」
「ルアッ!!」
ヴァルダートが放った獄炎魔法がルアを襲う。
――ルアッ!
「うおおおおおおおおお!!!!」
俺は魔力で限界まで身体を強化し、全速力でルアの下へ駆けた――。
「オラアアアアアアア!!!!」
「「――!!」」
そして間一髪のところで、【光の剣】で獄炎魔法を弾いたのであった。
ギ、ギリギリセーフ……!
「怪我はないかルア!」
「う、うん、私は大丈夫よ」
「そうか、よかった」
「チッ、運のいい小娘め」
「卑怯だぞ、ヴァルダート!」
俺はヴァルダートに【光の剣】の切っ先を突き付ける。
「こうしていつもルアのことばかり狙って! 今だって俺の背後を取っていたのだから、俺を狙えばよかったじゃないか!」
「う、うるさい! 余が誰を狙おうが、勝手じゃろうが!」
クッ、それはまあ、そうなんだが……。
「ソル、このままじゃ埒が明かないわ。――アレをやりましょう」
「ルア……!」
ルアの綺麗な瞳には、確かな覚悟の炎が宿っていた。
「……そうだな、コイツを倒すには、一か八か、アレを使うしかないだろうな」
だが、もしそれでもヴァルダートを倒せなかった場合は、それはイコールで俺たちの敗北を意味する。
――つまり次の一撃が、正真正銘、最後の勝負だ――!
ルアが俺の【光の剣】を握る右手に、自らの左手を添える。
「風が火を呼び空が晴れる」
「火が水を引き海が波打つ」
「水が土を運び陸が広がる」
「土が風を切り命が生まれる」
「「虹が掛かり過去と未来を一つに繋ぐ
――顕現せよ、【虹の神剣】!」」
【光の剣】の刀身が肥大化し、虹色に輝き出した。
これぞ俺とルアの全魔力を注ぎ込むことで顕現する最終奥義、【虹の神剣】。
「ハァッハァッハァッ! まだそんな隠し玉を持っていたとはなぁ! ――よかろう、貴様らの覚悟に敬意を表して、余も最大の魔法でお相手しよう」
「「――!!」」
「脳を揺らす蠱惑の遁走曲
心を震わす拒絶の輪舞曲
瞳を撫でる永劫の奏鳴曲
闇を束ねる無為の詠唱曲
今宵は新月天使は眠り亡者の群れが魂を奏でる
――深淵魔法【冥王の旋律】」
ヴァルダートが前方に突き出した両手のひらから、禍々しくドス黒い波動が放たれた。
な、何という桁外れの魔力……!!
あんなものを真正面から喰らったら、跡形もなく消し飛ぶだろう……。
「大丈夫よ、ソル、私を信じて」
「――! ……ルア」
ああ、そうだよな。
ここまできたらもう、お前を信じて、突き進むだけだよな――。
「よし、行くぞ、ルア!」
「ええ!」
「なにィ!?」
俺とルアは共に【虹の神剣】を前方に構えながら、真正面から【冥王の旋律】に突貫して行った。
「バカなぁ!? 死ぬ気か貴様らぁ!?」
――いいや、そのつもりはないさ。
――お前を倒すまではな!
「「ハアアアアアアアアアアアアアア」」
「なぁッ!?」
【虹の神剣】が【冥王の旋律】を斬り裂いていく。
「そんな――余の【冥王の旋律】がああああああ!!! ――がはっ」
【虹の神剣】がヴァルダートの心臓に突き刺さった――。
――勝ったッ!
「……ハァッハァッハァッ。見事だ、勇者ソル、聖女ルアよ。――だが、残念だったな」
「「――!?」」
何!?
ヴァルダートが不敵な笑みを浮かべながら、口端を吊り上げた。
「なっ……!」
次の瞬間、ヴァルダートの身体の内側から、膨大な魔力が膨張してくるのを感じた。
ま、まさか……!
「死なば諸共だ――! 貴様らも道連れじゃああああ」
「クッ!」
自爆魔法か――!
「ソル!」
「ル、ルア!」
咄嗟に互いの手を繋ぐ俺とルア。
そして俺たちは光に包まれた――。
「はぁっ!?!?」
目が覚めると俺は全身が汗だくだった。
な、何だ今の夢は……。
……いや、夢というにはあまりにもリアルだった。
よもや創作の世界でよくある、前世の記憶ってやつなのか?
そんなバカなとは思いつつも、昨日まではまったく感じていなかった、全身を流れる魔力をハッキリと今は感じる。
……よし、試してみるか。
「彼方の流星
黄昏の微睡
秩序の真珠
創生の小枝
混沌を穿つ光を我が手に
――顕現せよ、【光の剣】!」
俺の右手から一筋の光が伸び、それが剣の形になった。
ま、間違いない、これは【光の剣】だ……。
どうやら平凡な高校生に過ぎない俺、前原勇樹の前世は、勇者ソルだったらしい――。
「ハァ……」
混乱する頭のまま、一人で学校への朝の道を歩く。
まあ、いくら俺の前世が勇者だと判明したからといって、それが今の人生に直接影響を与えるわけでもない。
今の俺はあくまで、ただの高校生なのだから――。
「――!」
その時だった。
数十メートル先の角で死角になっている辺りから、懐かしい魔力を感じた。
こ、これは――!
急いで駆けて角を曲がると、そこには――。
「なあなあねえちゃん、ちょっとだけだから二人で遊び行こーぜ」
「すいません、これから学校ですので」
今世の俺の幼馴染である清川聖が、いかにもガラの悪い男に絡まれていた。
聖……!!
「オイ、やめろよ、嫌がってるだろ」
「アァン? なんだァ? てめェ……。一端のナイト気取りか?」
「勇樹……!」
聖が俺を見て、大きく目を見開いた。
どうやら聖も俺の正体に気付いたみたいだな。
「俺はそいつの幼馴染だ。どうしても引かないってんなら、俺が代わりに相手になるぞ」
「ハッ! テメェみてーなイキがってるガキが、俺はイッチバン嫌いなんだよおおお!!!」
男の拳が俺の顔面に直撃した。
――が。
「今何かしたか?」
「なにィ!?」
案の定、毛ほども痛くない。
やはり勇者の記憶が戻ったことで、身体能力も前世とほぼ同じ状態になったらしい。
「クッ! 調子に乗んじゃねええええ!!!!」
激高した男が、再度大振りに右拳を振り上げる。
やれやれ。
「フン」
俺は男に軽く腹パンをした。
「ごぺらっぱあああああ!?!?」
「…………あ」
が、物凄い勢いで壁に激突した男は、泡を吹きながら白目を剥いてしまった。
や、やっべ。
力が戻ったばかりで、加減が難しいな……。
まあ、いっか。
死んではいないだろうし。
「怪我はないか? 聖――いや、ルア」
「ええ、大丈夫よ、ソル」
ルアはまるで、聖女みたいな笑みを浮かべた。
「しかしお前まで日本人として転生していたとはな。まあ、俺が転生してた時点で、もしやとは思ってたけどさ」
「ふふ、そうね。ソルも今朝記憶が戻ったの?」
「ああ。『も』ってことは、ルアも?」
「ええ、私も今朝戻ったわ」
「なるほどね」
俺とルアは二人で歩きながら、互いの持つ情報を交換した。
とはいえ、お互い記憶が戻ったばかりなので、大した情報は持ってはいないのが実情だったが。
「それにしても、前世は旅の仲間で、今世は幼馴染って、つくづく俺たちは縁があるみたいだな」
「ふふ、運命感じちゃうわね。――ところでソル、私たちが転生してるってことは……」
「……ああ、それは俺も考えてた」
「「――!!」」
その時だった。
学校のほうから、これまた懐かしい、禍々しい魔力を察知した。
クッ、やはりか。
「ルア!」
「ええ、ソル!」
俺とルアは、全速力で学校へと駆けた――。
「ハァッハァッハァッ! やはり貴様らも転生しておったか、勇者ソル、聖女ルアよ!」
「「――!!」」
校門の先で仁王立ちしていたのは、厨二病美女として有名な、隣のクラスの神宮寺麻由美さんだった。
そ、そんな……。
神宮寺さんが、ヴァルダートの転生した姿だったというのか――!
……よりによって。
今思えば、普段の神宮寺さんの厨二病キャラは、キャラ付けではなく、素だったんだ。
恐らく俺たちよりもずっと早く前世の記憶が戻っていたヴァルダートは、それ以降はヴァルダートとして高校生活を送っていたのだ。
だからこんな、典型的な厨二キャラになっていたのだろう。
「ここで会ったが百年目! あの日の続きを始めようではないか、勇者ソル、聖女ルアよ!」
クッ、とはいえ、ここじゃ登校中の生徒たちが大勢いる。
こんなところで戦ったら、数多の犠牲が出るぞ……!
「……ここじゃ何だから、屋上に行かない? ヴァル――神宮寺さん」
ルア!?
「ハァッハァッハァッ! よかろう」
え!?
いいの??
お前、そんな物分かりのいい奴だったっけ?
ま、まあいい。
とりあえずここから離れられるなら、僥倖だ。
「ハァッハァッハァッ! 空の青さだけは、この世界も変わらんのう」
屋上に来た俺たち三人。
雲一つない青空を見上げたヴァルダートは、感慨深げにそう呟いた。
「フン、お前にそんな人間らしい感情があったとは、驚きだな」
「ハァッハァッハァッ! 余とて16年も人間として過ごしてきたのだ。それくらい不思議でもなかろう」
「……確かにな」
思えばコイツの記憶が戻った段階で、この世界を滅茶苦茶にしてもおかしくはなかったはずだ。
それをせず今日まで人間として過ごしてきたということは、何かしら心境の変化があったと考えるのが妥当。
だとしたら、平和的に話し合いで解決することも、可能だったりする、のか……?
「――まあ、とはいえ、ケジメはつけねばな」
「「――!!」」
ヴァルダートの全身から、禍々しい魔力が放たれた。
クッ、何を甘いことを考えているんだ、俺!
コイツは所詮魔神なのだ。
人間とは根本的に異なる存在。
和解など、未来永劫不可能――!
「ルア、結界を!」
「任せて!」
ルアが祈るように手を合わせる。
「愚者を遮る低き門
賢者を通す高き門
悪魔を祓う狭き門
天使を誘う広き門
四門に連なる女神の御柱
――結界魔法【女神の盾】」
ルアの【女神の盾】で、屋上にドーム型の結界が張られた。
よし、これで余程のことがなければ、俺たちが暴れても外に被害は出ない。
――これで思う存分、全力が出せる。
「彼方の流星
黄昏の微睡
秩序の真珠
創生の小枝
混沌を穿つ光を我が手に
――顕現せよ、【光の剣】!」
「歌うように海はうねり
背くように空は覆われ
漂うように白は染まり
狂うように黒は堕ちる
裁きの杖よ真実を示せ
――雷撃魔法【男神の雷】」
【光の剣】が、ルアの手のひらから放たれた雷を纏う。
これで今度こそ、ヴァルダートを滅する!
「ハアアアアア!!!」
【光の剣】を構えながら、俺はヴァルダートに突貫した。
……が。
「……グッ」
「ソル!?」
【光の剣】をヴァルダートに振り下ろす直前で、俺の手は止まってしまった。
ク、クソッ……!
「ハァッハァッハァッ! どうした勇者ソルよ? やはり今の余の身体は斬れんか?」
ヴァルダートがいやらしい笑みを浮かべる。
「まあ無理もない。いくら余の前世が魔神とはいえ、今の余は紛れもない人間。そんな余を殺せば、お前は立派な殺人者だ。――人々を守る存在である、勇者にはそんなことできんよなぁ?」
「クッ……!」
「だが――その甘さが命取りだ!」
ヴァルダートがルアに手のひらを向ける。
「貪れ貪れ餓えた蟻よ
潰せ潰せ瘦せた鷺よ
灯せ灯せ愚かな狐よ
叫べ叫べ驕った人よ
灰になれそして世界を彩れ
――獄炎魔法【魔神の炎】!」
「きゃあっ!?」
「ルアッ!!」
ヴァルダートが放った獄炎魔法が、ルアを襲う。
――ルアッ!
「うおおおおおおおおお!!!!」
俺は魔力で限界まで身体を強化し、全速力でルアの下へ駆けた――。
「オラアアアアアアア!!!!」
「「――!!」」
そして間一髪のところで、【光の剣】で獄炎魔法を弾いたのであった。
ギ、ギリギリセーフ……!
「怪我はないかルア!」
「う、うん、私は大丈夫よ」
「そうか、よかった」
「チッ、運のいい小娘め」
「だからなんでいつもルアのことばかり狙うんだヴァルダート!? 狙うなら俺を狙えよ!」
「う、うるさいうるさーい!」
クソ、いったいどうすれば……。
やはり殺すしかないのか、神宮寺さんを……。
しかも仮に殺せたとしても、また自爆魔法を使われたら、俺たちどころか、この街の人全員があの世行き。
そんなのもう、詰んでるじゃないか――!
「……フウ、なるほどね」
「え?」
その時だった。
ルアが溜め息を吐きながら、うんうんと深く頷いた。
ル、ルア……?
「もう大丈夫よ、ソル」
大丈夫??
何が??
「……ヴァルダート、あなた、ソルのことが好きなんでしょ?」
「「――!?!?」」
なにィイイイイイイ!?!?!?
「ハ、ハアアアアアア!?!? そそそそそそ、そんな訳ないじゃろうがッ!!! バ、バカなことを言うでないッ!!!」
「っ!?」
ヴァルダートは耳まで真っ赤になりながら、プンプン怒っている。
お、おや??
「前世の頃からおかしいとは思っていたのよ。あなたはいつもソルじゃなく、私ばかりを攻撃していた。それは私に嫉妬してたからなんでしょ?」
「なっ!? うっ、うぐぐぐぐ……!!」
そうだったの!?
え!?
つまりコイツは、前世の頃から、俺を……?
「……安心なさい。私とソルは、そういう関係じゃないから」
「そ、そうだそうだ!」
「う、噓をつくな! 年頃の男女がずっと二人だけで旅をしていて、そういう感情が芽生えぬわけがあるまい!」
「いや、本当なんだよ! そもそもルアは、男だし!」
「………………は?」
ヴァルダートが宇宙猫みたいな顔になった。
まあ、無理もないが。
「……前世の私の家は、代々聖女を生み出す、由緒ある家系だったのよ。……でも、私の代だけは、どうしても女の子が生まれなかった。だから末っ子である私は、女として育てられたの」
「そ、そんな……」
前世でそのことを知らされていたのは、勇者である俺を含めて、ごく一部の人間だけだったからな。
ヴァルダートがそれを知らないのも、無理はない。
元々中性的な容姿だったルアが聖女の格好をしていれば、女にしか見えなかったし。
そしてそれは今世でも同様。
無意識下に前世の記憶が残っていた影響かもしれないが、清川聖は子どもの頃から女の格好をするのが好きだった。
だからこの高校でも学校に許可を取って、普段は女子の制服を着て生活していたのだ。
隣のクラスのヴァルダートは、そのことを知らなかったのだろう。
「だから私に嫉妬する必要はないってこと。――そもそもソル――ううん、勇樹は、神宮寺麻由美のことが好きだから」
「「っ!?!?」」
ル、ルア!?!?
いや、聖!?!?
「な、なんで、そのことを……」
「そんなの見てればわかるよ。前世から足掛け、何年一緒にいると思ってるの?」
「聖……」
ふふ、やっぱお前には、敵わないな。
さっき俺がヴァルダートを攻撃できなかったのも、一番の理由は好きな女の子に手を上げられなかったからというのも、見抜いてるんだろうな。
「え?? え?? え?? 好き??? ソルが余のことを、好き????」
グルグル目になりながらアワアワしているヴァルダート――いや、神宮寺さん。
「さあ勇樹、勇者としての最後の仕事よ。神宮寺さんに、あなたの正直な気持ちを伝えてあげて。二人が恋人同士になれば、もう私たちがいがみ合う必要はなくなるでしょ?」
「――ああ、わかったよ」
俺は勇気を振り絞って、神宮寺さんの目の前に立つ。
「神宮寺さん」
「ひゃ、ひゃい!?」
神宮寺さんはプルプルしながら、ピンと背筋を伸ばした。
ふふ、本当に、可愛いな――。
「俺は――神宮寺さんが好きです。どうか俺と、付き合ってください」
「――!」
俺は右手を神宮寺さんに差し出す。
神宮寺さんの宝石みたいに綺麗な瞳が、水の膜で潤んだ。
「あ……う……あぁ……」
モジモジしながら目を泳がせる神宮寺さん。
「神宮寺さん、勇気を出して!」
「――!」
そんな神宮寺さんを、聖が慈愛に満ちた顔で応援する。
その顔は、まさに聖女そのものだった。
「う、うむ……! ………………よ、よろし、く」
神宮寺さんは小鳥みたいにちっちゃい声でそう言うと、俯きながら俺の手をそっと握り返してくれたのだった。
神宮寺さん――!
「はい、これにてハッピーエンド。さあ、そろそろホームルーム始まるから、教室に戻りましょう」
結界を解いた聖は、鼻歌を歌いながら屋上から消えて行った。
やれやれ、まさか前世から続く俺と聖の勇者と聖女としての旅が、こんな結末を迎えるとはな。
「じゃあ、俺たちも戻ろうか、神宮寺さん――いや、麻由美」
「う、うむ! ――じゃが、これだけは言っておくぞ、ソル――いや、勇樹」
「ん?」
麻由美?
「――もしもお主が浮気したら、この星諸共全てを消滅させるから、そのつもりでな」
「――!」
おぉ……、流石魔神。
ヤンデレ具合もカンストしてやがるぜ。
こりゃ、しばらく勇者の仕事は引退できそうにないな……。