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ⅡⅩⅢ

「では、自己紹介させていただきまーす。 コードネームはS19まあ、呼びづらいと思うからサリウスって呼んでね!」

 

 横穴の中に一人ずつ入っていくと、ジェイミーの仲間というサリウスは狭い空間で身を縮こまらせながら自己紹介をし始めた。

 

 意外にも明るい性格で普通に話しやすい女性だった。 殺し屋の仲間とか言っているほどだから、もっと陰気でげっそりしている見た目だと思ったのだが、こうして対面して話しているとなかなか健康的な体をしている。 お色気が得意というのも納得だ。

 

「僕はストールだ。 よろしく頼む」

 

「オッケー! スーくんって呼ぶからよろしくね!」

 

 可愛らしくウインクをしながら手を差し出してくるサリウス。 僕は少し頬が熱くなるのを感じながらも差し出された手を取った。

 

 だがその瞬間、僕とサリウスが繋いだ手を無理やり引き剥がしながら間にリューズが割り込んでくる。

 

「いつまでおててを繋いでおりますの? わたくしにもご挨拶願えます?」

 

「おいリューズ、狭いんだから暴れるな」

 

「お兄様こそ! なにを鼻の下を伸ばしているのです!」

 

「伸ばしてない! マジで誤解だ!」

 

 リューズが刺々しい眼差しを向けてくるのだが、そんなリューズを眺めながらサリウスは意地が悪そうな笑みを浮かべた。

 

「ははーん。 ねえねえG7! この子さっき何考えてたか分かる?」

 

「あなたを見て健康的な体つきでエロいと言っていましたよ?」

 

「いやーぁん! スーくんのえっち!」

 

 サリウスは自分の体を抱きしめながら体をくねくねとさせ始めた。 同時にリューズが殺し屋のような目で僕を睨みつける。

 

「ちょっと待て! エロいとは言ってないぞ!」

 

「ああそうでしたね。 エロいとは言ってませんでした。 確か、お色気が得意という情報に納得されてるだけでしたね。 まあどちらにせよ、遠回しにエロいと言っているようなものではありますがね」

 

 まずい、ぐうの音も出ない。

 

「お兄様!」

 

「はいすみませんごめんなさい」

 

 僕は慌てて土下座しながら距離を取る。

 

 今はあらかじめサリウスが作ってくれた横穴の中に四人で入り休憩をとっている。

 

 一日はここで時間を潰し、明日も夜中の行軍になるため、日が落ちるのをじっと待つ必要があるのだ。

 

 一日分の食料と水はサリウスが持ってきてくれていたらしい。 質素な干し肉と黒パンだ。 僕たちはそれを四人で分けながら翌日の夕方まで時間を潰さなくてはならない。

 

「とりあえずお二人とも、今は仮眠をお取りください。 見張りはわたくしめとS19が交代で行いますので」

 

「まあ、見張りって言っても鼻が効く魔獣を追い払ったりするくらいだろうけどね。 ていうかG7、私のことはサリウスって呼んでよ!」

 

「では、わたくしめはジェイミーと呼んで下さい」

 

 サリウスが肩を窄めながら僕にウインクをしてくる。 こいつ、わざと自分が可愛く見える角度を熟知しているのだろう、仕草がいちいちあざとすぎる。 まあ、僕は騙されたりしないがな。

 

「ストールぼっちゃま、いい加減煩悩丸聞こえなのでそろそろ学んで下さいませ」

 

「ちょっと待て、今のは何もやましいこと言ってなかったぞ?」

 

「ではご本人に指摘してみてわ?」

 

「あ、それは少し言いづらいな」

 

 僕が冷や汗をかきながら視線を逸らすと、すかさずリューズがむすっとした顔で僕ににじり寄ってくる。

 

「お兄様? またえっちなことを考えていましたの?」

 

「いやいやいやいや! これっぽっちも考えてないぞ? ただこの女があざとい行動をするから、僕は騙されないという鋼の精神を念じていただけだ!」

 

「あざといとは? 一体なんのことですの?」

 

「ほら、なんかこう、仕草がいちいちぶりっ子っぽいというかなんというか。 普通、肩窄めながらウインクとか、自分が可愛いと思っているやつ以外しないだろう!」

 

 リューズの視線が怖くてついつい思っていたことを言ってしまった。

 

 すると僕の言葉に反応したサリウスが口を窄めながら僕をじーっと見つめてくる。

 

「えー? スーくんそれはひどいよー。 あたしだって女の子なんだから、少しは可愛くみられたいんだもーん」

 

「S19いい加減その腹黒い思考はどうかと思いますが?」

 

「ちょっとG7! 人の心盗み見ないでくれる? それとあたしのことはサリウスちゃんって呼びなって言ってるでしょ! コードネームだと呼びづらいでしょーが!」

 

「忘れていました。 申し訳ありませんね、腹黒サリウスちゃん?」

 

 ジェイミーの淡々とした返事に、サリウスは「むきー! この性悪女!」などと言いながら頬を膨らませている。 やはりこういうあざとい女は裏の顔があるという僕の予想は正しかった。

 

 ジェイミーのようにわかりやすい正直者の方が断然いい!

 

「ストールぼっちゃま。 よくわかっておいでですね。 この腹黒女、ストールぼっちゃまに対して『ちょろい(笑)』っと唱えておりましたからね。 まあ、それはそれとして、どさくさに紛れてわたくしめを口説こうとするのはどうかと思いますよ? お嬢様が目の前にいるというのに」

 

「は? お前何口走っているのだ! 僕は口説いてなどいないぞ! ちょ! 待て待てリューズ! 今のは完全にジェイミーの暴走だ!」

 

 慌ててジェイミーに反論しようとしたのだが、リューズが暴れそうになった僕を押さえつけてくる。

 

「ジェイミー! お兄様はなんて仰いましたの?」

 

「サリウスよりもジェイミーの方が好みだと言っておりました」

 

「おにーさまぁぁぁあぁぁぁぁぁ!」

 

 右腕を振りかぶったリューズを見て僕は慌てて頭を守ったのだが、あろうことかリューズのやつ、右腕を振りかぶったのはフェイントで、すかさず脇腹をくすぐってきた。 くすぐったくて水揚げされた魚のように身を捩っていると、隙を見て往復ビンタを食らわせてくる。

 

 リューズの後ろでもサリウスがわーきゃーわ騒ぎだす始末で、僕たちは本当に脱走している最中なのかと今の状況を疑い始めるのだった。

 

 

 ☆

 そうこうしている間に翌日になっていた。 日が沈み、空が茜色に染まり出した時間帯。 僕たちは静かに横穴から外に出た。

 

 この日は魔獣の襲撃は三回にとどめられ、その度に僕の絶眼で魔物を操作して撤退させたため、戦闘行為は一切行われなかった。

 

 横穴から出た僕たちは周囲の様子を伺う。

 

「どうやらまだ捜索隊は来ていないようだな」

 

「まあ、ストールぼっちゃまたちが脱走したと知れてしまったらダレオス王たちは黙っていないでしょう。 おそらく捜索隊とは言っても魔物討伐の依頼等で誤魔化しながら騎士団を徘徊させるような形になるかと」

 

「そうなると魔物を討伐にきた騎士たちと遭遇する可能性を注意しなければな」

 

 僕は油断なく周囲を見渡す。

 

「おそらく我々が逃げるルートは何パターンか想定されているでしょう」

 

「ジェイミーは多分、あえて見つかりづらいルートを使ってるからそう簡単には見つからないと思うけど、用心に越したことはないよね〜」

 

 サリウスとジェイミーは太ももにしまっていたダガーを構えながら対角線に陣取る。

 

「走る必要はないでしょう、逆に音を立てれば見つかってしまうかも知れません。 周囲を警戒しながら進みますので、我々の指示に従ってついてきてくださいませ」

 

「わかりましたわ! 念の為わたくしにも剣を一振り分けてくださいませんか?」

 

「申し訳ありませんお嬢様、ナイフしか持ち合わせがないのでナイフでよろしいでしょうか?」

 

「かまいませんわ! ないよりはマシですの。 できる限り魔物の奇襲などはわたくし自身で対応できるようにいたします」

 

「それは心強いですね」

 

 ジェイミーとリューズが互いに小さくうなづきあう。 僕も護身用の武器が欲しい。

 

 こう見えてファエットから稽古を受けてきたのだ、剣の腕には多少心得がある。

 

「僕もナイフで構わない、何か武器をくれないか?」

 

「んー。 スーくんは基本的に絶眼で魔物の操作をして欲しいからなー。 戦うことに集中するよりも、陣形の中心から注意深く周囲を見張って欲しいかも」

 

「まあ、それはそうかも知れないが、もし命令が間に合わなかった時、皆を守る手段が欲しい」

 

「ふっふーん。 流石にモテモテ男の志は一味違うなー。 いいよ、あたしのダガー一本分けたげる」

 

 サリウスがニマニマしながらダガーを渡してくる。 しかし、この女は僕をモテモテ男と言っていたが、一体なんの勘違いだ?

 

「本当です。 どんな勘違いですか全く」

 

「お兄様がモテモテでは困ります! ジェイミーだけならともかく、あなたまでお兄様に付き纏うというのならわたくし、流石に黙っていませんわよ!」

 

「お待ちくださいお嬢様。 わたくしめだけならともかくってなんでございますか? お嬢様の目はお飾りでございますか? どちらに目をおつけになっているのですか?」

 

 リューズとジェイミーが小声で口論を始めてしまい、それを見たサリウスが苦笑いを浮かべる。

 

 こいつらは全くと言っていいほど緊張感に欠ける。

 

 二人が小さな声で口論を交わす中、僕たちは慎重に……と言っていいのだろうか? まあ、少なくとも僕自身は慎重に、森の中を移動し始めた。

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