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ⅡⅩ

 その日の夜、僕の部屋にリューズとジェイミーが集まった。 ジェイミーは入念に僕の部屋の窓と入り口付近に何かの道具をセットしてから部屋の中に入ってくる。

 

「ジェイミー? 一体何をしていましたの?」

 

「盗聴対策です。 あと、念のため監視されていた場合はすぐに分かるようにこの部屋を至る所から防御しております」

 

「盗聴対策? 監視? 昨日のジェイミーの動きにも驚きましたが、あなたは一体何者ですの?」

 

 リューズが僕の腕にしがみつきながら、小動物のようにぶるぶると震え出す。

 

「引退を間近にした殺し屋です」

 

「こ、殺し屋って! お兄様! 大変ですの!」

 

 リューズは小さく悲鳴を上げながら僕の腕を締め上げた。 痛い痛い。

 

「リューズ落ち着け、こいつは殺し屋だが僕達の味方だ。 これから行う僕たちの計画を手伝ってくれるから安心しろ」

 

「ですがお兄様! 私たちが今からしようとしていることがこの殺し屋さんにバレてしまったら、もしかしたらその、もしかするかもしれないではないですか」

 

 リューズが言葉を濁しながら視線を泳がせるが、おそらくジェイミーは何を言いたいのか察しているだろう。

 

「お嬢様、ご安心ください。 わたくしめは現在フリーの殺し屋でして、ストールお坊ちゃまに雇われたのです」

 

「おい待てジェイミー。 僕はお前を雇ってないぞ? そもそも、自慢ではないけど報酬なんて払えないからな!」

 

「まあ、細かいことは置いておきましょう」

 

「置くな! お前いい加減にしろ!」

 

 思わず憤りながら食ってかかると、リューズは不思議そうな目で僕を見上げてきた。

 

「お兄様とジェイミーは、いつの間にそんなに仲良くなったのです?」

 

「おいリューズ、これが仲良さそうに見えるのか?」

 

「ええ、まあ。 かなり仲が良さそうに見えますわ」

 

 気持ち頬を膨らませながら僕の袖を引っ張るリューズ。 どうやら少し嫉妬させてしまったらしい。

 

 ジェイミーが調子に乗ったせいでリューズに不安な思いをさせてしまったではないか。

 

「ストールおぼっちゃま。 人のせいにするのは良くありません」

 

「え? ジェイミー? いきなりどうしましたの?」

 

 僕の心の声に、いつものごとく反応を見せるジェイミーを見て、リューズは不思議そうに首を傾げた。

 

「ああ、リューズはまだ絶眼のことを知らないんだもんな」

 

「絶眼? 一体なんのことですの?」

 

「ええっとだな。 絶眼っていうのはなんだかすごい特殊能力を秘めた目のことだ」

 

「ええっと、もう少し詳しくご説明願えないでしょうか?」

 

 僕は眉をひくつかせながらジェイミーに助けを求めると、肩を窄めながらため息をついたジェイミーが、先日僕にしてくれた説明をリューズにも話してくれた。

 

 

 ☆

 絶眼の説明をあらかた聞き終えたリューズは難しそうな顔で思考を巡らせている。

 

「つまり、その話が本当ならわたくしにも絶眼の力が宿っていると?」

 

「その通りでございます。 今まで不思議なことが起きたりしませんでしたか?」

 

「そうですわね。 お料理を作るといっつも黒くなってしまうことぐらいでしょうか?」

 

「それは不思議な現象ではなく、お嬢様が料理を作る才能が皆無なだけでございます」

 

「まあ! ジェイミーったらひどいですわ!」

 

 相変わらずナイフのような毒舌を放つジェイミーに対し、頬に不満を膨らませたリューズが文句を言い始める。 文句を言いたい気持ちはわかる、しかしジェイミーの料理が壊滅的なのは事実だ。

 

「まあそのことは置いておきましょう。 今はあなた方二人の絶眼を覚醒させるより、今後の作戦をどうするかを話し合うはずですが?」

 

「ま、まあそうですわね。 お兄様が何かいい案があるということで集まっているのですから、早く本題に入ってくださいませ」

 

 リューズとジェイミーに注目され、僕は慌てて居住まいを正す。 別に、怒っているリューズに見惚れていたわけではない。

 

「惚気はいいので早く話を進めて下さい」

 

「やかましいわ! 人の心を勝手に読むな」

 

 僕が頬に熱を溜めながらすかさずツッコミを入れると、リューズがジェイミーにこっそり耳打ちしていた。

 

 「惚気とはなんですの? お兄様はなんと言っておりましたか?」などと聞いているのが丸聞こえだったため、僕は思わずコホンと咳払いをして注目を集めた。

 

「ええっとだな。 僕たちは人生をやり直すために、この理不尽から逃げてしまおうと思う」

 

「人生を、やり直す? どういうことですの?」

 

「その名の通りだ。 僕とリューズは双子だから、結婚したいなんて言ったら猛反対されるどころか、刺客を送り込まれて始末されるだろう。 ジェイミーも同じだ、僕なんかのために力を貸したとなればいずれ始末される。 だから僕たちは一度死んで、人生をやり直さなくてはならない」

 

 物騒な物言いだったのだろう、リューズは血の気の引いた顔で喉を鳴らした。

 

「安心しろリューズ、本当に死のうというわけではない。 まあ、この世界は文明レベルが僕の前世と比べるとさほど高くないから、そんなに大変なことをしなくても僕たちは実質的に死んだことにできるわけだ。 なんせ僕たちは世間一般の者たちから死んだことにされているのだから。 言葉や状況証拠さえそろえばいとも簡単に死んだことになる。 勘違いさせる相手は兄上たちだけだからな」

 

 僕の説明を聞いていたリューズは、驚いて目を見開いている。 けれど構わず説明を続けた。

 

「つまり、僕たちが生きていることを知っている一部の人間たちを欺いて国外逃亡を図り、逃げた先で平和な人生を送ればいい。 そうすれば僕とリューズが双子だという事実を知っているのはリューズとジェイミーだけになる。 僕たちの結婚を邪魔するものはいなくなるのだ!」

 

 ドヤ顔で胸を張る僕を見て、リューズは慌ててジェイミーの顔を見た。

 

「ジェイミー! あなたは本当にそれでいいんですの?」

 

「ちょっとお待ちくださいお嬢様、なぜ理由のわからない勘違いをしていらっしゃるのですか? お嬢様は救いようのないド阿呆でございますか?」

 

「ド阿呆とは失礼ですわ! だってジェイミーがお兄様と仲良くしていたのがいけないんでしょう!」

 

「いや、別にちょっとからかっただけでございますが? ちょっとおちょくるとストールおぼっちゃまはすごく面白くて……ちょ! お待ちくださいお嬢様、その勘違いは本当にやめていただきたく存じます」

 

「きっと勘違いではありませんわ! 女の勘がそう言っておりますの!」

 

 おそらくジェイミーはリューズの心を読んで勝手に会話をしているのだろう、(はた)から聞いているとこんなにもよくわからないものなのかと思い関心している。

 

 それにしても何を口論しているのだろうか? 僕はリューズの心の声が見えるわけではないのでさっぱりわからない。

 

「なあ二人とも、一体なんの喧嘩をしているんだ?」

 

「お兄様は少し黙っていて下さいませ!」「空気をお読みくださいストールおぼっちゃま!」

 

「……なんか、すみません」

 

 ものすごい剣幕で同時に叱咤された僕は、自然と正座をしながら二人の口論が終わるのを待ち続けることしかできなかった。

 

 女子というものは、本当によくわからない生き物だ。

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