表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/34

 翌朝、カーテンから漏れた陽光が眩しくて目を覚ます。 昨日のぼせた後感じていた浮遊感はすっかり抜け、体もすごく軽くなった。

 

 しかし、今なおのぼせて寝ている間に見た夢が頭から離れない。

 

 天蓋星成あまがいせな、あの美しいはしばみ色の瞳も、濡れていてもなお目を引く透き通った肌も、やなぎ色の細くて柔らかい毛も。 全てに見覚えがあり、思い出すだけで胸がキュッと締め付けられる。 記憶に焼き付けられた彼女の、満天の笑顔が脳裏をよぎり、全身が熱を帯びる。

 

 ベットから上半身を起こし、かけられていた布団をひっぺがす。

 

 今すぐあの娘に会いたい。 会わなければならない。

 

 手がかりが少なすぎる、あれから必死に思考を巡らせたが何も思い出せない。 思い出せるのは浸水する船の中にいた絶望感と、写真のように脳裏に焼き付いた笑顔だけ。

 

 いてもたってもいられなくなった僕は、むしゃくしゃを晴らすように部屋を飛び出した。

 

 私室のすぐ外で、僕を起こしにきたファエットとすれ違い「ぼっちゃま? どちらにいかれるのです? 朝食ができておりますぞ! ぼっちゃま! ぼっちゃまぁぁぁぁぁ!」などと聞こえてきていたが、走り出さずにはいられなかったのだ。

 

 こんな離宮に閉じ込められている場合ではない、早くあの娘に会わなければ!

 

「お兄様? どちらに行くのですか?」

 

 突然、耳に心地よい、鈴の音が響いたような優しい声音を聞き、思わず足を止める。

 

 キョトンとした顔で僕を呼び止める、薄瑠璃うするり色の髪を伸ばした少女を見て、僕はいつもの調子で声をかける。

 

「リューズ? 起きていたのか?」

 

「ええ、それよりもお身体は大丈夫ですか? 昨日はのぼせて倒れてしまったと聞き、わたくし心配してよく寝れませんでしたわ」

 

 今にも泣いてしまいそうな、儚げな顔を向けてくる。

 

 僕に唯一残された、たった一人の家族。 リューズ、双子の妹だ。

 

「ああ、心配かけたな。 それよりも僕は早くあの娘を探しに………」

 

 言葉の途中で違和感を感じる。

 

 突然言葉を詰まらせた僕の顔に、リューズの榛色の双眸そうぼうが向けられた。

 

 どこか、似ている?

 

「お兄様? まだお体の調子が良くないのですか? あの娘、と言うのは一体? と、ともかく! 今は部屋でお休みになられた方が………」

 

「ああ、すまん。 気にするな。 なんでもないんだ。 なんでも」

 

 雪のような白肌に、桜色の唇。 整った輪郭にスッと伸びた鼻筋。 そして、不安そうに向けられている視線に懐かしさのような、見覚えがあるような、妙な感覚に襲われる。

 

 冷静に考えれば、見覚えがあるのは妹だから当然のことなのだが、僕が言いたいのはそう言うことではない。

 

 あの娘に、似ている気がしたのだ。 薄瑠璃色の髪以外全てが。 僕を心配するように向けられた、思いやりに溢れた優しい眼差しが特に。

 

「ぼっちゃま! 突然どうなされたのです! 昨日あんなことがあったのですから、安静になさっていただかないと! 何かあったらどうするのですか!」

 

 ファエットが血相を変えて駆け寄ってきたことで、ふと我に帰る。

 

「ああすまんなファエット。 朝食だったか? 今いく」

 

「お兄様! ご一緒に参りましょう?」

 

 リューズが頬を紅潮させながら手を差し出してきた、いつものことなのでなんの躊躇ちゅうちょもなく差し出された手を握る。

 

 僕たちは昔からずっと一緒に過ごしてきた。 どこか遊びに行くにも仲良く手を繋ぎ、同じ絵本を二人並んで読み、同じ星空を見上げて満面の笑みを浮かべていた。

 

 いつもと何も変わらない。 変わらないはずなのに、リューズの柔らかな手を握った瞬間、僕の心は不自然に高鳴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おおおお。これはまさか妹のリューズちゃんが? わー。でもだとしたらどうしましょう(慌
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ