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ⅩⅨ

 朝食をとり終わったらジェイミーはファエットと見張りを交代するらしい。 僕は清々しい足取りで朝食をとりにいくために食堂へと足を向けていた。

 

 僕の計画をあらかた聞いたジェイミーは、リューズを起こすために僕の部屋を出て行った。

 

 そして、一人になった僕は苦面を浮かべる。 今後のリューズに対する態度はどうしようかと思案しているのだ。

 

 今まで通りに接することはできないと断言できる。 なんせリューズは前世の僕が愛していた伴侶の生まれ変わりだ。

 

 先日風呂場で溺れかけた時に思い出した記憶を見てからというもの、リューズと手を繋いだりするだけで胸が高鳴ってしまっていたのは本能的なものだろう。

 

 記憶を戻した時点で恋心が芽生えていたに違いない。 今もリューズの顔を思い出すだけで頬が赤くなる。

 

 おそらく僕は気づいていて知らないふりをしていたにすぎない。 双子の妹が運命の相手だったなんて知ってしまえば、とんでもなく面倒なことになるに決まっているからだ。

 

 父上たちから死んだことにされているとはいえ、さすがに妹と結婚したいなどと言ってしまえば酷い目に遭わされるに決まっている。

 

 それこそ離宮に堂々と刺客を送られるほどに大騒ぎになるだろう。 ここに潜入しているのがジェイミーで本当によかった。

 

 まあ、ぶっちゃけた話あのメイドは最近僕に対しての礼儀がなっていないが、悪い奴ではない。

 

 普段は無表情のくせに、実は恥ずかしがり屋だから直接褒めても心の中で褒めてもすぐ顔を赤くするし、顔も意外と可愛らしい。

 

 しかもなんと言っても性格がいい。 最近は僕のことをおちょくってきたりするが、おかげで喋りやすくなったし話してみると優しさが痛いほど伝わってくる。

 

 意地っ張りなだけなのだ。 ちょろいし可愛らしいところもたくさんあることに最近になって気がついた。

 

「んっん〜! す、ストールおぼっちゃま。 その、ええっと。 おはようございます」

 

 頬を赤くしているジェイミーが後ろから挨拶をしてきた。 おおっと、もしかしてさっきの心の声が聞こえてしまっていたかな?

 

 とりあえず挨拶を返そうとしたのだが、隣にリューズがいたからなんとなく意図を察した。

 

「ああ、おはようジェイミー。 顔が赤いぞ? どうかしたのか? お?」

 

 あのジェイミーが後ろ手でモジモジしているし。 さっきの生意気な態度が嘘のようだ。 こういう時はとことんからかってやろう。

 

「暑くて少し寝苦しかっただけでございます。 最近は気温が高くなってきましたからね」

 

「あ、あの、お兄様! おはようございます」

 

 ジェイミーの後ろに隠れるように立っていたリューズから、控えめな挨拶が飛んでくる。

 

 いつもは花が咲いたような満開の笑みで駆け寄ってくるのに、今日はいつもと雰囲気が違う。

 

 それもそのはずだ、おそらく前世の記憶が蘇ったのだから。 そして彼女は直感している。 僕が光輝の生まれ変わりだという事に。

 

 なぜなら僕は前世の記憶を見た次の日にリューズに質問していたからだ。

 

 『前世って信じるか?』っと。

 

 おそらくこの質問の意味を、昨日目が覚めてすぐに気がついたのだろう。

 

 そのせいで接し方や距離感をどうすればいいのか迷っているに違いない。 実際に僕も今そのことで頭を悩ませていたのだから。

 

「おはようリューズ。 体の調子は問題ないか?」

 

「ええ、はい。 昨日は助けていただきありがとうございました」

 

 いつもの上品な態度は何処へやら、ペコペコと頭を下げながらお礼を言うリューズ。

 

「助けるのは当然じゃないか、大切な妹なのだからな」

 

 僕は困顔のリューズを見ていたら、なんだか無理に悩む必要がないのではないかと思ってきた。 前世の記憶を引き継いでいるとはいえ、今まで生きてきた十年間はなかったことにならないのだ。

 

 だからいつも通りとはいかないが、できるだけ平常心を保ったまま接して行き少しずつ今後の接し方を模索していけばいい。

 

 僕は最低限リューズを安心させようと、いつものように微笑みながら手を差し出す。 兄弟なのだから手を繋ぐくらい普通だろう。

 

 僕の手を見て、恐る恐る自分の手を伸ばすリューズ。 不安そうに伸ばされた手を、僕は少し強引に捕まえた。

 

「今日は朝食をとり終わったらなにして遊ぶんだ?」

 

「あ、ええっと。 昨日、中庭の池に浮かべたお船の様子を見に行きたいですわ」

 

 ポツポツと言葉を選びながら声を出すリューズ。 隣で黙って聞いていたジェイミーは少し複雑そうな顔をしているが、僕は別段気にした素振りを見せずにリューズの手を引いて食堂まで歩いて行った。

 

 

 ☆

 昨日破壊された壁が木材で補強され、中庭に広がる池の向こうには不恰好な光景が広がっている。

 

 僕とリューズが浮かべたガレオン船は、昨日の喧騒を感じさせないような優雅さで池の中を自由に航海していて、それを見ているだけで僕の心を落ち着けてくれる。

 

 隣で膝を抱えながら、俯きがちのリューズはチラチラと僕の顔色を伺ってきている。

 

 ファエットは離宮の屋根の上から見張をしていて、ジェイミーは空気を読んでいるのか僕たちとはかなり離れた位置でずっと立ち尽くしている。

 

「あの、お兄様。 前世って信じますか?」

 

「おいおい、この前僕も同じ質問しただろう?」

 

「あ、はい。 そうですよね。 あの時は、前日にお兄様がのぼせていらっしゃいましたよね」

 

 怯えるような声音でそう告げるリューズの横顔を、さりげなく一瞥する。

 

 リューズは抱えた膝で顔を隠すように、俯きがちに言葉をつづけた。

 

「もしかしてお兄様は、客船の中で溺れる夢を見ていらしたのですか?」

 

「リューズも見たのか? 新婚夫婦が溺死する間際、永遠の愛を誓い合う夢を」

 

 恐る恐る聞いていたリューズは、僕の直球の問いに小さく息を飲み、小動物のようなか弱さで首肯した。

 

「僕の目線だと、目の前の娘からは光輝と呼ばれていた。 リューズはなんと呼ばれていたんだ?」

 

「……星成と、呼ばれておりましたわ」

 

「やっぱりか。 どうやら僕たちは、約束通り生まれ変わってもう一度出会うことができたみたいだな」

 

「そ、そうかもしれないのですが、わたくしは本当に生まれ変わったのでしょうか? それとも意識の一部があの女の方と融合しただけなのでしょうか?」

 

 確かに、その可能性も否定できない。

 

 しかしなぜだろうか、目の前にリューズ……星成の生まれ変わりがいるからこそ断言できる。

 

「僕は今、目の前にいるリューズを見て確信したぞ? これは転生だと」

 

「転生? ですか?」

 

「生まれ変わったってことだ。 前いた世界とは別の世界で、違う体に生まれ変わったんだ。 そして、溺れかけることで前世の記憶を思い出したんだろう。 怖がる必要はない。 これからも僕は僕のままだし、リューズもリューズのままだ。 前世の記憶が蘇ろうと、今まで生きてきた十年間は無かった事にはならない。 僕は兄として、リューズを守ると誓うよ」

 

 リューズの正面に屈み込み、不安そうに俯くリューズを直視する。

 

「ですが、わたくしがわたくしのまま生きてしまったら、星成さんと光輝さんの思いはどうなってしまうのでしょうか?」

 

「確かにな、複雑な気持ちになってしまうよな。 双子の兄妹なのに愛し合うなんて、普通の人が聞いたら顔を顰めそうな話だ」

 

 皮肉な笑みを浮かべる僕をチラリと見てから、リューズは目頭に涙を溜め込みながら膝を抱えてしまった。

 

 今にも泣き出してしまいをうなリューズの頭を優しく撫でながら、僕は胸を張って言葉を紡いでいく。

 

「けれどまあ、僕たちは死んだことになっていて、僕のことを知っているのはここにいる二人の従者と父上と母上だけだ。 僕たちが何しようと知ったことではないだろう?」

 

「そう、なのでしょうか? ずっとこの離宮に閉じ込められていることが、わたくしたちにとって幸せと言えるのでしょうか?」

 

「まあ、それだと光輝という男の約束を破ってしまうことになるな」

 

 肩を窄めて困笑する僕を、リューズがゆっくりと上げた顔で凝視する。

 

「安心してくれ、前世でした約束も、今まで共に過ごしてきた中での約束もしっかりと守る気だ。 そのために最高と言える策を、ジェイミーと共に考えた」

 

「ジェイミーと、ですの?」

 

 思わずリューズがジェイミーに視線を送る。 突然視線を向けられたジェイミーが、迷惑そうに眉間にシワを寄せているのが横目に見えた。 思わず鼻を鳴らして控えめに笑ってしまう。

 

「まあ、お前が前世の記憶を思い出す前に僕は色々と悪巧みしていてな、こうしてリューズも前世の記憶が戻った事だし、協力してくれないか? お前が協力してくれるのなら、僕はきっと頑張れる」

 

 控えめに手を差し出すと、リューズは一瞬の迷いもなく僕の手を取った。

 

「わたくしを、どこか他の場所に連れ出してくれるのですか?」

 

「光輝はそう約束しただろ? 新婚旅行も途中だったって言ってたからな。 これからはどこにでも行けるさ」

 

 リューズの手を強く握ると、不安そうだった顔は徐々に晴れていった。 視界を覆っていた霧が霧散していくように。

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