荷馬車
1939年8月2日正午、僕は居間の畳に寝そべっていた。とにかく暑い。風鈴の音と蝉の大合唱が聴こえる。大合唱と言っても、遠くの山の方にたくさんいるらしく、うるさくはなかった。しばらく蝉の声に耳を傾けていると、車輪が近づいてくる音がした。そしてその音は、家の前で止んだ。
外に出ると、荷馬車が止まっていた。うんと多く俵が積まれていた。どうやら荷が緩んでしまったらしく、おじさんは紐を結びなおしていた。ふと馬の方を見ると、全身汗だくでハアハア言っている。僕は家の井戸でバケツ一杯に水を入れ、おじさんに渡した。
「馬にあげてください。」
「おお坊や。ありがとう。」
おじさんは馬の目の前にバケツを置いた。馬は美味しそうに水を飲んだ。天気は快晴で、空は青かった。家の周りの田んぼは静かで、遠くの山はいつもより大きく見えた。