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閑話「保育士アリスの日記」


閑話「保育士アリスの日記」


〇月×日


「おまえかみまっしろ。へんなのっ」

「はー?うるさいっ」

「こらセチ君ダメ!」

「なにが?」

「髪の毛の色についてあれこれ言わない。人に指を差さない」

「なんでぇー!!こいつどうみてもしろじゃんへんじゃんっまっしろおばけー!」

「うぅー…!」

「ほらルルちゃん嫌がってるでしょう。人の嫌がることはしちゃダメなのよ」

「だってへんだもんこいつメガネもへん。かたっぽないもん」

「ルルのおしゃれサングラスはへんじゃないっ!」ベシッ――!


お気に入りのオーダーメイドサングラスを馬鹿にされキレたルル渾身の平手右アッパーが顎に決まり、同い年のセチは後ろのクッションに倒れる。


「イタッなにすんだよぉー!うわぁーん!!」

「ちょっともールルちゃんもセチ君を叩かないの!いい加減二人とも喧嘩しないで仲良く~…」


この場合はひたすら双方が落ち着くまで間に入って仲裁して、二人を離したあとにそれぞれ適度に叱ればいいので簡単だ。

想像よりもアルビノの女の子の気が強かったおかげで他の子に白髪をかわれたり馬鹿にされてもただ泣いて悲しんで終わりじゃなくて、ちゃんと口で反論したり拳で反撃できるのには初見の時にホッとした。もちろん暴力はダメだけれど、心の中に泥を溜めてストレスを抱え込むよりは真正面からぶつかり合えた方がずっと健康にいいと思う。

幼児の喧嘩なんてたかが知れているしね。


「ルルちゃんのあたまにはゆきがつもっているのね」

「雪ふってないよ」

「め、メロンちゃ(叱りかける)」

「とてもすてきね。やきたてのストロベリーショートケーキみたい」

「そーお?えへへ/////」


子供は叱るタイミングが難しい。逃したら何に怒られているか分からなくなってしまうし、子供が悪意を持って言っているのか純粋な気持ちから口に出してしまったのかなんて大人には見分けがつかないもの。


それにしてもうちの保育所にいる数々の個性的な子の中でもひと際目立つメロンちゃんの言動はいつも不思議だ。そもそもストロベリーショートケーキに焼きたてはない。そんなの作ったって塗った瞬間にクリームが溶けてしまうだろうに。そして、そんな褒め言葉に対してルルちゃんが何の疑問もなく笑顔になってくねくねと身を捩らせて照れているのも謎だった。

子供の脳からだけ発せられる電波の波長でも合うのだろうか。


「なにあじかな……」

「ぎゃー!汚いぃぅう」

「うわぁメロンちゃんっ?!こーらこらこら口に髪の毛を入れない食べないっ!」

「むぐむぐ、あじしない……」

「当たり前でしょう?!?!ぺっしなさい、ぺっ」


と、こちらが油断しているとノーモーションでアルビノの子の髪をむしゃむしゃ頬張り始めたりする。これが幼児の恐ろしさだ。


雇われた保育士たちはみな、社長の娘を動物的に差別する子供たちの教育に追われていた。

首になるリスクを考えてでもあるし、アメリを中心に個人の多様性が謳われる昨今の情勢的に差別には敏感なくらいがちょうどいいという考えでもある。

この子たちが大人になって社会に出て同じように何も考えず思ったままを口に出して、体格のいい人にデブと指を差し顔が非対称な人にブスと言ったとき、叱られるだけじゃ済まないかもしれないのだから。最悪裁判が待っている。


それでもどんなに差別は駄目だと教えても、ルルちゃんの髪の毛が気になるのか指を差したり掴んだり引っ張ったり食べたり……。悪気があるイタズラっ子もいればただ素直な疑問や興味からしてしまう子もいて難しい。

キツく言っても分からない場合はその子の親にも相談し自宅教育による協力も仰いだ。


〇月▽日


働き始めて暫くが経ち、サッカー選手ダンパーロの娘であるルルちゃんがここ、会員制ジムの社員用保育所にいることを嗅ぎつけたマスコミたちが駐車場に車を止め押しかけてきたが、すぐに社長が警察を呼んで会員以外による私有駐車場の不正利用というちゃんとした理由で淡々と排除していった。

想定済みだったのだろうができる女社長といった感じでかっこよかった。


社員である親御さんの話によるとルルちゃん目的で会員になる人が増えたらしいしやっぱり有名人の子供パワーは凄い。

でもそれを言ったらサッカー選手の子供であるのはルルちゃんのお兄ちゃんたちも立場は全く同じなわけで。当時、双子が生まれたと報道はされていたがこんな騒ぎにはなっていなかった気がする。

単純にルルちゃんに人気があるのだろうか。アルビノで……オッドアイだから?珍しさや生まれる確率だとか、本人の努力に関係しない肉体的な部分で人にレアリティを付けるのは非常に良くないことだと思う。

たとえ周りがそれをできなくても教育者の私はやらなくては。


◇月〇日


今日もマスコミやパパラッチがジムに会員登録をして周囲をうろついていたらしい。

運動するスペースと社員が働くスペースは区切られているので扉に鍵をかけるだけで問題なかったうえに、筋肉をこよなく愛するマッチョたちの圧に押し負け筋トレ目的以外は自然と減ってきたみたいだけどまだ懲りないヤツもいるものなのね。

そもそもホットシルバージムは自分でトレーナーを持ち込んだりジム所属のインストラクターに指示を仰ぎながらやる本格的なトレーニングがメインだから、筋トレ初心者がフリーにトレーニングできるスペースは一階が中心だ。一応保育所に近い上の階にも同じような設備があるけれどそこにいるのは大会で賞を取ったことのあるプロのボディビルダーたちだけだ。

変装したマスコミがカメラを取り出した時点で初回付きのインストラクターが止めて追い出す。多分この繰り返しなんだろうな……。


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