第6話「さんさい」
第6話「さんさい」
「ハッピバースデーディアルルー~♪」
「ハッピバースデートゥーユー~♪」
「ふーッ!!」
「おお消せた消せた一本だけだけど!」
無事に歳を重ねたルルはほっぺを丸く膨らませると、祖母手作りアップルチーズケーキの上に立つ三本のろうそくに向けて肺いっぱいの空気を吹きかけた。
「3歳のお誕生日おめでとう愛しのルル。これはパパとママからの誕生日プレゼントよ」
「なにかなぁ」
リボンとラメで綺麗にラッピングされた大きな箱を受け取ったルルは、瞳を輝かせながら紙を破り袋を開ける。
中には以前ルルが欲しいとテレビを指差して泣いていた可愛らしいカモメのぬいぐるみが入っていた。サッカーチームウィングスのマスコットキャラクターでありダンパーロからすると敵チームの象徴でもあるがそんなことより娘の喜ぶ姿を見たかった。
「わあカモメンだぁ!見て見てにぃにカモメンだよーやっぱりカッコいい!」
「良かったねルル、それずっと欲しがってたやつだよね」
「ルルだけずるい母ちゃんオレとディアロには?!」
「二人には来月の誕生日にあげるわね」
お腹を押すと踊るカモメンと一緒にキャッキャッと手を叩いて大喜びする娘を微笑ましい様子で見守る夫婦。お互いの肩を抱き寄せてキスをするその姿は幸せに満ちていた。
すると、突然ルルがぬいぐるみのくちばしを兄が手に持つロボットフィギュアにぶつけ始めた。
ディアロもバネで飛び出すロケットパンチで反撃するが二人とも楽しそうで。子供同士でのみ通じる不思議な遊びが始まった。更にはポアロが救急車で参戦し現場は一気にカオスと化す。
「ありがとうダディ!ママ!カモメン大切にするねっ」
「ルルが嬉しいならいいんだ……うん」
「まあしっかりした作りのぬいぐるみだしすぐには壊れないでしょう」
花が咲いたような笑顔と感謝の言葉とともに、貰ったばかりのぬいぐるみを振り回すルルに苦笑いするダンパーロ。大切にするの"大切"に対する考え方が子供と大人では異なっているが喜んでいるのは間違いないので深くは言及しなかった。
そうやって兄妹で競うように遊び。兄妹で奪い合いつつケーキを食べてルル3歳の誕生日をお祝いしたあと。
お腹いっぱいになり子供たちが落ち着いたところで、母親のルーニャが家族の前で重大発表があると言い出した。
「あのね。実はルルの誕生日に合わせる形でうちのジム施設内に保育所を作ったのよ。社員の子供だけを預かる託児サービスって感じのをね」
「どうしていきなり」
「ルルを私の会社の保育所に通わせられたら安心だし、ボディガードのマドルクもその間は息抜きできるかなって思ったの。そうやって考え出したら止まらなくて体が動いちゃったわ」
「ルーニャは根っからの経営者気質だなぁ凄いよ。目の届く場所に置いておけるならそれが一番だし俺も大賛成だ」
「良いですね!お嬢様の保育時間中ジムで筋トレができますし帰りにそのまま合流出来ますし」
「いやだからね休んで欲しいのだけれど。うちの雇用はブラックじゃないのよ」
「マドルク抱っこ」
「はいお嬢様」
「パパが抱っこするから」
「んー」
マドルクとダンパーロが眠たくなってきたルルを取り合う。最終的に娘は父の腕に空気を読んで収まった。
「あれだけ小さかったルルもとうとう保育所デビューかあ……あー、ただディアロがなぁ」
「ディアロがどうかした?」
ぬいぐるみを抱いたまままぶたを閉じる娘を腕の中で揺らして感慨に浸っていると、とある問題があることを思い出したダンパーロは苦笑する。
「ルルと一緒のバスに乗って通園する気満々でさ。兄弟揃ってたいよう幼稚園だから当然妹もって感覚で、今年入園してくるものだと思ってるんだよ」
「あちゃーそれは大変ね」
「なにが」
まだよく分かっていないディアロは寝落ちしそうになり重たい頭をルーニャに支えられている。大好きな妹の話題を周りが出しても反応せず、今にも睡魔に負けそうだ。
この調子なら案外平気かと両親は楽観的にみていたが、後日改めてルルの保育所入所について説明するとやっぱりダメで。案の定ゴネ始めた。
「やだっボクもルルと同じところがいいッ!」
「ディアロはもう既に幼稚園に通っているだろう」
「かんけいないッ」
「今の幼稚園楽しいって言ってたじゃないか。友達だってたくさんいるんだろ?そっちの方が大事だとパパは思うぞ」
「ルルのが大事だし!じゃあ、パーヤとサキとモンドと〜みんなでならんで歩いてほいくじょ行く!」
「そんな簡単にはお引越しできないよ」
「できる!」
「無理なの。頼むから分かってくれディアロ」
「分かんない!分かるがどこにもないッ!」
一人ぬいぐるみで遊んでいるルルに駆け寄りハグをして。甘えた声で保育所行きを引き留めるディアロ。
「ルルーほいくじょ行かないでー」
「えーやだよルル行きたいよ。お友だちいっぱいだしおもちゃもいっぱいなんだって」
「じゃあボクも行く!」
「え!っいいよ!」
「いやだから無理なんだってばー!ルルも勝手に許可出さないてくれ」
教育内容も施設設備も圧倒的に幼稚園の方がいいので親としてはそのままが良かった。幼稚園にはブランコや砂場などの外の遊具もあるが、狭い室内の保育所にはそれがない。
せっかく入れた市内の幼稚園からの引っ越しがどれだけ難しく勿体ないかと説明してもディアロは聞こえなかったふりをする。
それでも日は過ぎ妹がいない幼稚園生活という現実を受け入れるしかなくなった結果、シスコン兄は一週間以上拗ね続けた。
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