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第36話「ライブおつかれさま」


第36話「ライブおつかれさま」


「ばぁばー」

「はぁいー」


お婆ちゃんの素朴なお顔を見上げたルルはニコニコ笑顔で繋いだ右手を上げて揺らす。


「じぃじー」

「はいはい」


お次はお爺ちゃんの方へと振り向いて笑いかけ、ぎゅうと握られた左手を振り上げる。そして彼女はぴょんぴょん跳ねて玄関前の小さなレンガの段差を飛び越えた。


「いらっしゃいませませぇ~ルルのおうちにようこそ!」

「あらま立派な一軒家だこと!誰が何の目的で建てたのやら」

「あははエスコートどうもありがとう」


誰かさんが買った大豪邸をひやかしながら祖母のミーニャは可愛い孫娘と一緒に腕を振ってスキップする。その光景を見て思わず笑ってしまった祖父ドラントはツンデレな嫁にキッと睨まれてしまい肩をすくめた。


……本日行われたLリーグ戦のオープニングイベント観戦チケットを娘からプレゼントされていた二人は、当然生で見ようとなり開催地であるバイシティサッカースタジアムまで孫の歌を聴きに出掛けて。

招待枠の観客席でルルの双子の兄と一緒に座って鑑賞したのち、まだ幼い彼らを家まで送るついでにそのまま家にお泊まりする流れとなった結果今のウキウキご機嫌ルルがいるというワケなのだった。


「ただいまー!」

「手を洗いなさーい」


せっかちな兄二人が一足先に帰宅するなかのろのろと祖父母の歩幅に合わせて歩くルルは、車を降りたあと仲良く三人同時に玄関の境目を跨いで叫んだ。

元気が有り余る兄たちに手を洗わせていた母ルーニャが流し台がある部屋から顔を出して娘を呼ぶ。だがまだお婆ちゃんたちと手を離したくないと少女がごねた結果、家族全員一人除くが洗面所に集結し密になる。


「おうちせまい…」

「あはははは!」


どんな豪邸でもただの洗面所は狭い。ルルの呟きに母は呆れて額を押さえて祖父母はケラケラ笑っていた――



「よいせっ…今日のルルはお歌がとっても上手だったからね。そんな歌姫には……じゃじゃーん!お婆ちゃん特製のアップルチーズケーキをプレゼントしちまおう!」

「やったー!」


突然のサプライズにルルはバンザイをして目を輝かせる。この反応がただただ見たくて、双子を迎えに来た時に予めキッチンの冷蔵庫にこっそりケーキを仕込んでおいた仕掛け人の祖母は得意げだ。


「ルルこれ大大大好き!!ありがとうばぁば!」

「あいよ」


大好物の手作りケーキが入った重たい箱を慎重に受け取ったルルは大切そうに抱きしめるとニカーと歯を見せる。

彼女はその場でくるくる回りケーキを持ったまま踊り出そうとしたが、落とすといけないと思った母親からケーキを持つか踊るかどっちかにしなさいと注意されてしまい…。渡すのを渋りに渋るも最終的にケーキの命を母に託してその横でくねくね踊り始める。


「あっそうだ。私からもお土産にほらこの、サッカーボールをあげよう。ちゃんと3つあるから喧嘩せずに遊ぶんだよ」

「……あ、アリガト」


孫のわかめダンスに手拍子していたお爺ちゃんから、思い出したかのように渡された謎のボールを困った表情で何度も見つめたルル。その後流れるような動きで手元から母親のエプロンのポケットに移す。

いきなりエプロンが重たくなりびっくりした母ルーニャは娘のイタズラを叱りながらケーキを冷蔵庫にしまい直した。

先程のケーキの時のように渡し渋らないルルを見た彼女のボディガードは、ああ…自分からは絶対サッカーしないだろうなと察するのだった。


「ほらこれはディアロのボールだよ」

「ありがとうじぃじ」


妹がもらったボールと同じ見た目なだけでもお揃いな感じがして嬉しい兄のディアロは笑顔で受け取るとリビングにあるおもちゃ箱へとぽんと一発で投げ入れて、遊ばないんかいと祖母にツッコミを入れられている。


「じぃちゃんなんで毎回何かしらのボールなんだよーこの前はバスケットボールだったし!オレもルルみたいにおかしの方がいい!ケーキがいいッ」


しかし片割れは不満たらたらなご様子。ポアロはひとしきり文句を叫んだあと、もらったばかりのサッカーボールを庭に向かって蹴り飛ばした。

人様から貰った物に対する扱いじゃない、とその態度の悪さを母親に怒られるも彼は頬を膨らませて拗ねるだけでちっとも反省した素振りを見せない。


ルルが生まれてくるまで一番年下で可愛がられていたあの頃から今日まで続く寂しい気持ちがあるのだろうか。

祖父母は孫の素行を不安に思いつつも体を寄せて寄り添っている。


「人の土産にケチつけない。相変わらずポアロはガキんちょだね」

「6さいはガキなんですー!」

「大体ケーキは全員分あるよ?ホールケーキなんだから」

「なーんだ」


祖父ドラントがそう言うと簡単に牙をしまい冷めた顔に戻るポアロ。そして安堵した彼は怒っていたことを一切引き摺らず庭に遊びに出掛けていった。その足取りは軽やかだ。

どうやらさっき妹がもらっていたプレゼント箱の中身に自分の食べる分が入ってないと思っていたらしい。

…だから、怒っていた。理由が分かるとなんてことはない子供の癇癪に大人たちはため息を吐いたのだった。


そんなお騒がせポアロは自分で蹴ったボールを追いかけて元気に庭を走り回る。

それを見た妹のルルが追いかけたそうに、外の世界を眩しそうに目を細めていることに気付いたボディガードが日傘を開くと少女は影の中を踏みダッと駆け出した。

子供の足に余裕でついていくボディガードの瞬足に笑いながら、ポアロの思い込みの激しさをこう例える祖父。


「湯沸かし器付きの瞬間冷凍庫みたいだ……」

「ったく誰に似たのかねあんのおばか生意気っ子は」

「もー母さんすぐ遠回しにハニーにケチつけて。ポアロは母さんそっくりよ」

「まあなんてこと言うんだい!わたしゃとーっても淑女だよ。お淑やかな。ねーぇ、ルル?」


走り疲れて一瞬で戻ってきた孫に同意を得ようとする祖母。早生まれの兄の速度について行けずぜーはー息を切らしたルルは前後の話を理解しないまま口を開いた。


「ふぅーふぅー…え?ばぁばはダディににてるよ」

「ハッハッハッ言うねぇルル」

「失礼な!似とらんわ!そもそも血ぃ繋がっとらん!」


ぷんすか頭から煙を出したお婆ちゃんを見てルルはキョトンとしている。


祖母のミーニャは娘といつの間にか結婚していたダンパーロという若造のことが気に入らないので似てると言われるのは屈辱的。

社長になるほど賢い我が子を攫っていったタバコ農家の息子(サッカー選手)だなんて信用ならんと今でもグチグチ愚痴る。無駄に目立つ男の傍で娘のルーニャがスキャンダルの巻き添えを食らい傷付いたりするのが嫌だった。


はーー!テレビでも見てストレス発散しないとね!


しかし他にいい夫もいないだろうというやるせなさを抱えながらソファにどっかり座ったミーニャがテレビのリモコンを操作していると彼女の膝の上にちょこんとルルが座ってきた。


あたしゃ椅子じゃないよ

「知ってるよ?ばぁばまたサッカー見るの」

「球蹴りはもう今日は見飽きたからバスケを見るさね」

「ばぁばはバスケがだいすきだね」

「サッカーよりバスケ。これはルチルゼのファン人口からも明らかだからね!」


スポーツ大国のルチルゼで二大スポーツがサッカーとバスケである。

屋外競技と室内競技なため晴れの日はサッカー日和雨の日はバスケ日和と両方楽しんでいる人たちが大半を占めているが、ミーニャのようにバスケ派とキッパリ決めている層も存在する。


「あーあ、ダンパーロがバスケ選手だったら結婚にケチつけてないんだけどね」

「でもダディがバスケをやるのは大変そうだよ?バスケの人ってみんなすごく大きいもん」

「だからいいの。迫力があるから」


背の高さを魅力として語られルルは口に手を当て笑う。


「ばぁばはじぃじが大きいからすきになったんだよねー!」

「そうそう。上も下もおっきくて!アッハッハ」

「こらミーニャはしたない」

「やめてよもー母さん!」

「??」


下ネタを理解していない孫の頭を撫で回し。

視線が下に向きつい呟く。


「ルルの髪は本当に真っ白だねぇ」

「そう!ばぁばともじぃじともおそろいでルルのお気に入りなの!」

「…そうかい」


眉を下げて素直な孫の言葉を噛み締めるミーニャ。

生まれた当時は娘があらぬ疑いをかけられたり心ない声に晒されて悩んでいたが、今では彼女も受け入れていた。

バスケットの枠が軋むダンクを見てキャーキャー笑う小さなルルをぎゅっと抱きしめる。大切そうに頬ずりする。


「…で。あのマヌケ夫はどこだい。今夜はルルのお祝いパーティするっていうのに」


シャンプーの香りのするもふもふの白髪から顔を上げジト目で家を見渡す。


「チームの人たちと打ち上げに行ったわ。でもすぐ帰ってくるって」

「どうだか」

「ただいまー!」


噂をしたら帰ってきた。ドタドタと五月蠅い足音にゲェと祖母が舌を出している。


「ハットトリックのお祝いだけして急いで帰ってきたよ!あ、テレビのチャンネル変えて。明日の天気見たいから」

「お帰りダディ。ばぁばたち来た」

「あ、こんにちは…」

「ふん。テレビは渡さないよ今バスケがいいところだからね」

「ハイ…」


母方に弱いダンパーロはしょんぼりと子どもたちを抱きしめている。ライオンに威嚇されたウサギのように縮こまる。


「そうだダンパーロ君にもお土産」

「何ですかこれルアー…?」

「夫婦旅行でハワイに行った時に買った現地のお守りだ。怪我を防ぐ魔除けらしいんだ」

「はぁ…ありがとうございます」


ぷらりと垂れ下がる羽根のナニカ。

微妙なキーホルダーを微妙な顔で受け取りポケットにしまったダンパーロ。

その顔がサッカーボールをもらった時のルルとそっくりで妻は愛おしくてふふふと笑った。


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