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番外編「放送席のルル1」


番外編「放送席のルル1」


アルビノで日に当たれないルルのサッカー観戦はいつも一枚ガラスのある放送席でがお約束。

現役サッカー選手の父親による予約が必須なその特等席は室内にあるため、日焼けの心配や誘拐等の犯罪に巻き込まれるリスクの少ない安全な場所だ。

今までその場所で色んな人と出会って話して仲良くなってきた。元プロサッカー選手やテレビ局のアナウンサー、たくさんの音響スタッフに個人活動をするサッカー評論家などなど…メンバーの入れ替わりが激しい放送席ではいつも違う人たちがいてサッカーの試合をラジオ収録していて。ルルはその仕事を隣で見るのがただ純粋に好きだった。


そんななかでも彼女と特に仲良しなのが、バイブススタジアムお抱えの解説者ナーバスと実況者フランクだ。彼らはルルと付き合いが長い上に他の人に比べて会える機会も多いので一番気兼ねなく話せる仲なのだ。


開幕戦のオープニングイベントに出演し終えたルルは近くのスタッフから今放送席にいるのがその二人だと教えてもらい、また隙間時間にお兄さんたちに遊んでもらおうとワクワクしながら向かった――



『にしても会場にいるサポーターはよくあの一瞬で手で波を作れましたね。全員サーファーなんでしょうか』

『フランク……。流石に今のボケは雑ですよ。ライブでウェーブは一般的ですし、こういった試合前イベントに参戦し慣れている観客はその場のノリに合わせる能力が高い傾向にありますね』


母親と一緒に放送席入りしたルルが扉を開けた瞬間、耳に入ってきたのは聞き慣れた明るくハキハキした男性の声。そしてその声にツッコミを入れる渋いダウナーボイスだった。

何やら二人ともマイクに向かって話していたので本番前の声出しの邪魔しないよう、そろりそろりと後ろの方の席に座ろうとしたルル。


『おーっとここで先程ライブステージを終えたルルちゃんが我々放送席の元へとやってきました!ルルちゃんお疲れ様ー!』

『うぇ?』


しかしそうして気遣ったルルが椅子に辿り着くよりも早く、ラジオ向けの口調で高テンションの実況者が声をかけてきて。ビックリした少女の気の抜けた返事がマイクに入る。

あははとスタッフの笑い声が響く和やかな収録現場はスタッフが固定メンバーで、スター選手であるダンパーロの娘がいることにも耐性がついていた。


そしてルルは、背中を反らして笑うディレクターさんの手元に既にいくつか指示が書かれたカンペがあることに気が付いて目を丸くする。


「あれれぇ、もしかして……サッカーはじまってないのにもうおしごと中なの」

「今日はプレミアムオープニングセレモニーに合わせて30分早めに番組が始まってるんだよ」


呼ばれた気がしてとてとて歩いてきたルルは実況解説のいるマイク前傍に座った。

ちなみに今座っているのはスタッフが予め彼女用に用意しておいた特別なパイプ椅子だ。以前から放送席の中に一つだけクッションがピンク色のやつが何故か混ざっていたので女の子にちょうどいいやと使われている。


「ルルはシーってした方がいい?」

「そうだねなるべく静かにお願いね」

『私たちのいるバイブススタジアムでは現在、カリューアイドルグループ、ピンクハートによるダンスパフォーマンスが行われています』

『ルルちゃんも僕たちと一緒に見ようねー』

『へ…?うん』


フランクに静かにしてほしいと言われたから黙ったのに、その後すぐ自分の方から話しかけてきた男の気まぐれに振り回されるルル。彼女は困惑気味に返事する。

彼は、沈黙が3秒有ってはならないとされるサッカー実況としては大変優秀なのだがとにかくお口が緩いので、話の整合性を気にせず喋ってしまうのが玉に瑕。


『ピンクハートのフォーメンションダンスは非常にクオリティが高いですね。隣同士の幅が狭くともぶつかることなく一回転のターンをしながら前後入れ替わります(さっさと戻ってこいバカ)』


喋るのと黙るのどっちなのとルルが聞くと今度はじゃあやっぱり一緒に実況しようなどと誘ってきてどっちなんだとわちゃわちゃ揉める二人。

その間も解説者のナーバスはラジオを聴く視聴者のためにライブの状況を説明し続け、仕事中に子供とじゃれ合う相方を手元のメモ書きで注意したあと窓の外のステージに向き直る。

怒られたフランクがショボショボと仕事に戻った横で、少女は大人しくライブ鑑賞を楽しむことにしたのだった。


『ひえぇ相変わらずカリューアイドルは皆際どい衣装ですねぇスカートも短いっ』

『我が国の女子にはあまり見られませんが最近の若い子の流行りらしいですよ。トューバーではあの衣装で撮ったミュージックビデオの再生数が1億回を超えたんだとか』

『へー、ナーバスさんどうですかあのスケスケのビニールはアリですか』

『ど、どうって……私は人を服だけでは見ませんから。彼女たちのダンスは本当に素晴らしいと思いますよ』


エロティックな外国人アイドルに若干の気まずさを滲ませながらもとにかく褒める男たち。会場にいるサッカーサポーターはリズムに合わせてタオルを回して踊っている。

けれどもルルは口パクが嫌いだったのでテーブルに両膝をついて手に顎を乗せ眺めるだけに留まり。歌っていないことに加えてダンサーの顔が全員同じなのが怖かった。


カリューアイドルが踊る曲のメロディやリズムはお洒落で好きだ。だからこそちゃんと歌えばいいのに…ルルは思う。しかし彼女たちのダンスは非常に激しく歌との両立ができないのだった。


『おっ次は虎視眈々とレディジャンジャンの席を狙っているというマダムナンナですか』

『彼女の出演が決まった結果レディジャンジャンに出演を断られたとかなんとか』

『なるほどお互いバチバチなんですね!』


ナーバスの言った噂が事実ならあの人のせいでレディジャンジャンが見れなくなったことになるのでは…?とルルは二連続で不満げで。服装の雰囲気と名前をわざと似せている点も気に入らないようだ。

彼女はムスッとした表情で、パクリじゃんって言っていい?とメモに書いてフランクに見せ超高速で首を横に振られていた。


『いやぁー…はは!にしても最近流行りのメロディばかりでおじさん若返りそうですよ』

『パフォーマンスもド派手!ドレスの周りには謎の巨大なフラミンゴのバルーンが大量に回っています』


流行り=どこかで聞いたことのある似たような歌。それを上手く優しい言葉に言い換えて電波に飛ばすステージの様子は見ていない者には五倍増しで魅力的に聴こえることだろう。

なお生で見ているルルはというと、ありがちな演出プラスリハーサルで既に見ている内容ではどうしてもつまらないようで机の下で足をパタパタさせて不機嫌全開。


すると――パンッ、と大きな破裂音がスタジアムに響き渡った。


『??!!』

『は、え?!い、今っフラミンゴが割れて中から誰かが……れ、レディジャンジャンです!バルーンの中からレディジャンジャンが出てきましたー!』


大型モニターに映った人物の顔を見て叫びマイクを掴む実況者。

全身にぴっちりと貼り付いたゴム風船のドレスを身に纏い、マダムナンナと一緒に熱唱するその赤髪褐色の女性の名前はレディジャンジャン。

アメリ出身のポップアーティストで革新的なダンス音楽と並外れた歌唱力、独特なファッションで世界を刷新しデビューアルバムから世界的大ヒットを叩き出すなど数々の伝説を持つ実力派シンガーソングライターだ。


そしてそんなスターは……ルルが一番好きなミュージシャンでもある。


『会場は大盛り上がりで観客席からはたまに音のなる風船が飛んでいます。あれって本来はゴールを決めた時用ですよね、消費が早い!』

『わ…、わーッ!』

『ルルちゃんも思わず立ち上がって窓ガラスに貼りついています!これはまさかのサプライズだー!』

『まさにプレミアムなオープニングセレモニーですね!リーグ初戦にふさわしい!』


トップバッターのルルの時とは比べ物にならない盛り上がりを見せる場内。

サッカーを見にきたはずのサポーターたちがどちらのチームユニフォームを着ているかも気にせず隣同士で肩を組んだり互いに写真を撮り合ってはしゃいでいるその姿はまるで魔法にでもかかったかのよう。

これが本物のスターだと言うような割れたバルーンだけで作られた奇抜な衣装に、全てをねじ伏せる歌声が大地を揺らす。

明らかに他の出演者とは一線を画している濃密なパフォーマンスを見せつけられたルルは悔しさはあれど嬉しくて。やはり世界一位は伊達じゃない。音楽と出会う瞬間はこうでなくっちゃとリズムに合わせて腕を振る。


「でもなんで…っリハーサルにはいなかったよ…?!」

『まさかのぶっつけ本番でこれ!ヒューッカッコいいー!』

『他の出演者にまで極秘に計画を進めるとは実に彼女らしいですね。みんなを驚かせたあと笑顔にするのが私の人生、彼女が去年の年越しライブで放った名言にもあるように~…』


レディジャンジャンオタクのスタッフのメモを読みながらナーバスが彼女の生き様を語る。


『あなたと口づけするのよ~♪』

『おールルちゃん歌ってます!ノリノリです!』

「ちょっとダメよルル…!」


無意識のうちに口ずさみラジオの邪魔になってしまう娘に焦った母親は即回収して抱き上げるとマイクから少し離れた窓付近に移動。

そこでも窓ガラスに白いほっぺをべったりとくっ付けた少女は、大好きなレディジャンジャンをよく見ようと緑色の目の方で穴があくほどガン見している。

必死にかぶりつくその姿に笑うスタッフ。母ルーニャは恥ずかしそうに我が子の頭を撫でる。


【ふらつく貴方とウイスキーの香り~♪】


スタジアムに響き渡る熱唱はCDで聞いた時よりも重さがあり生き生きとしていて音に魂を感じられた。

通常レディジャンジャンの生歌を聴けるのは超高倍率のライブチケットを手に入れた猛者のみに限られるのだが、まさかのサッカー観戦ついでに見られるという奇跡が今起きている。

そんな貴重体験をしながら母親の腕の中でピチピチ跳ねて踊るルル。少女は狂えるほどに喜んでいた。


『最後に今シーズンの公式テーマソングを歌っているバンド、スターダストです』

『どう楽しいルルちゃ…ルルちゃん?!寝てますっここで電池切れだ!』

『まだ5歳ですからねーレディジャンジャンではしゃぎすぎましたか』


子供が元気を使い果たしたそのあとは当然眠るのみ。

寝落ちしたルルは母にどれだけ揺さぶられても起きることはなく、サッカーの試合が始まってハーフタイムを迎えるまでの間ずっと彼女はお昼寝タイムに入るのだった。


音楽との感動的な出会いを歌で表現したいルルとパフォーマンスで魅せたいレディジャンジャンは似ているようで方向性が全然違うようです。

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