表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/59

閑話「ネット配信」

しばらく閑話や番外編が続きます。


閑話「ネット配信」


LFA公認のサッカー情報配信サイト『ゴラッソ』。

会員登録さえすれば無料有料問わず国内リーグ戦全てと一部の国際戦をリアルタイムで観戦可能な上に試合中いつでも感想コメントをチャットのように書き込むことが出来る動画サイトだ。(有料会員のみ後で見逃した過去の試合を閲覧することも可能)


現時点で700万人以上の登録者数を誇るがその数は国の人口5000万に比べるとまだまだとも言える。国内の他ネット配信サービスやテレビの各種生中継にと、この手の商業に参入しているのは大手企業ばかりなため強大なライバルが多いとやはり利用者が分散してしまうようだ。

それ自体は企業同士がサービスの質を高め合うキッカケにもなり喜ばしい限りだがおちおち傍観してもいられない。


そこでサイト経営陣が考えた作戦が、海外からの登録者の呼び込むという新規開拓案だった。


ルチルゼという国のサッカー1部リーグは世界的に見ても非常にレベルが高いと有名で、国内クラブチームの選手は皆トップクラスの実力を誇っている。

なかには選手一人に年俸7億ギルを支払ってもクラブ運営が成り立つ組織も出てくるほどルチルゼではサッカー文化が盛んに根付いていて。わざわざ海外から試合を観に来るファンも多く、だからこそ狙ってみる価値があった。


果てしなく財を抱えた者たちの支援によって育った選手たちがサッカーの強さだけを求められながら競い合うその姿は、海外サイトへの登録という手間を掛けてでも見たくなる魅力を十二分に持っていると言えるだろう。

基本的に、サッカー中継はサッカー協会から放映権を買った各国の配信サイトやテレビ局が放送するのが当たり前となっているがそんななかで互いの客を食い合わず国境を跨ぐ新たな客商売として定着し、プラスとなる成果をコンスタントに持ち帰ってきてくれるようになると大変ありがたいのだけれども……。

そうなることを願いつつノートパソコンを膝の上に置いて開くマネリアル。


「選手人気で数字の維持自体はいい感じですねっ!これでもう少し選手側が我々の取材に協力的だったらもっと嬉しいんですけど」

「ハハ、まあ彼らはサッカー以外に時間を割きたくないんだろうさ」


彼は数あるクラブの中でもネット通販会社がくてんの社長がオーナーをやっているチームバイブスと大手検索サイトヤッホーお抱えのチームウィングスの二つに、名の知れた海外選手が多く所属し注目されていると見て気にかけており。サイトのトップ画面のニュースバナーには、どちらかのチームの選手に関連したニュースが一つは載るよう以前より指示を出したりもしてきた。

今回その戦略の結果が数字の方にあらわれてきて、奪い合いの激しい国内会員の繋ぎ止めに成功したことを協会役員が喜ぶ。

対するサッカー協会会長も笑みを浮かべた。しかし彼は現状維持程度で喜んでいるわけではなく、周りにいる日頃顔を合わせる機会のない人たちに不要な威圧感を与えないようにするために笑っている。


何故そのような面倒なポーズを取るのかというと現在――

バイブスサッカースタジアムの最上階にある貴賓室にて座るマネリアルの目の前には、サッカー協会の一部役員と配信サイトを共同運営する民間会社の担当者が勢揃いしているからなのだった。


サイトの行く末を左右するサービス部分を担うのは大体が技術職の人間のため営業スマイルはとても大事。分かりやすい笑顔が一番。彼らなくしてゴラッソもナシである。


「やっぱダンパーロがどの取材動画も伸びて良きですね」

「最近小学生になった息子さんもサッカーを始めたしなぁ。親と子の現在の様子を見たい人が多いみたいだね」

「にしても、最近タニミナやアリアまで買ったチームバイブスはどんどん海外色が強くなっていくなー」

「そこはまあ…、オーナーが欲しがりだから」


今回のシーズン戦の選抜メンバーが外国人名ばかりなのを見て笑う、会長抜きの会話だと和やかな雰囲気の職場。


一介のサッカーファンに突っ込まれるほど、今のチームバイブスには外国人選手が増えておりリーグ戦ではいつもギリギリまで出場枠を海外に使う。同じくらい外国人選手を持っているのはチームウィングスくらいのものだ。

母国のリーグで活躍しスカウトされて来た者や、ワールドカップやオリンピックで目立つプレーを見せた者……その誰もが既に名が売れた高額な選手ばかり。通常、移籍市場では光る原石を買うものなのだが彼らは磨かれた後の宝石だけを購入する。

さらにこの両チームはどちらも祖国ルチルゼ人のスター選手を抱えているところまで同じで、双方のサポーターはオーナー同士に何かあるんじゃないかと噂していた。


「ちなみに会長はダンパーロとナバルトどっち派ですかぁ」

「どちらもだ」

「あわわキャンベルさんッマネリアルさんになんて口をきくんだ!サッカー協会の会長が特定の選手を選べるわけないだろう!」

「ふっ別に構わないさ。ルチルゼ人なら誰でも気になることだからな」

「ヒィ…で、ですよねっ!」

「……。」


民間会社の新人社員からの無礼な問いに即答したマネリアル。ヒヤヒヤする彼女の上司に対して優しくフォローを入れて、にこやかに笑い返したのだが怖がられてしまいため息をつく。


そんなに顔が怖いのだろうか。この前子供のルルが一切怖がらなかったから笑顔作りの気が緩んでいたか。

もっと口を直角に吊り上げた方が笑顔らしいのか。どうしたら怒っていないように見えるんだ。

居るだけで緊張感を与えてしまう権力者特有の悩みを抱える彼は、つい寄りがちな自身の眉間のシワを揉んだあとしばらく黙り。

無言によってさらに周囲に威圧感を振り撒きながら、先ほどの問いに独自の解析を交えて心の中でだけ本心で答えることにした……


ダンパーロとナバルトどっち派ですか。この質問に真摯に答えるためにはまず二人の選手の性能や人格を見比べなければならないだろう。


まずチームバイブスのダンパーロ。

彼は多彩なフェイントをかかとまで使いこなし華麗なドリブルで敵を抜き去りボールを運ぶドリブラーだ。

彼の足にはボールが吸い付いているとも噂され、その天性のサッカーセンスで他を突き放す圧巻の素早いプレーは国内外問わず大人気。ファンサービスを行うハードルが低い彼はバカながら温厚で面倒見がいいその性格でファンや選手に好かれていた。

フレンチェの古参サッカー専門誌が創設した、世界年間最優秀選手に贈られる賞バロンキングに何度も輝くなど分かりやすい評価をもらっているのも魅力と言える。

そういった有名な賞の受賞者なおかげでサッカー協会に過去の試合動画の使用許可を取りにくるテレビ番組も多く、金になるのだ。かなり昔のプレイ映像を今使いたいと言ってくる海外メディアもいたりと骨までしゃぶれる美味しさだった。


対するはチームウィングスのナバルト。

彼は味方へのアシストとシュートの量が変わらないダンパーロよりは比較的シュートに偏ったプレーをする攻撃的なアタッカーで。

キーパーの骨を折るほど強力な弾丸シュートが有名で相手選手や監督を負傷の恐怖に怯えさせてはいるものの、ゴールネットが悲鳴を上げるそのド派手なシュートは見栄えがよく人気も高い。

だが見る側と共にプレイする側で彼の評価が大きく異なる二面性を持った選手なためアンチもそこそこいる。ファンの前でへらへらしている時はおちゃらけているが試合中や練習中にスイッチが入ると口も素行も悪くなる。これは大きなマイナスだ。

そんな彼はデビューよりずっと前からダンパーロのことをライバル視しており、クラブのオーナーが勧めてきた数字を振り切ってまで背番号10番ではなく11番を選ぶなど熱血な側面も持っていた。

あと女性ファンは圧倒的にこっちが多いと言い切れる程度のルックスを持つイケメン。引退後はモデルになりたいらしい。意味が分からない。


二人ともヨーロッペの強豪クラブチームバルセッテの1部で活躍しそこで自身の価値(年俸)を上げてから国内クラブに戻る等、どちらも経歴は非常に似ている。歳下のナバルトが後を追うからではあるが。


総合結果――

今はダンパーロの方が人気だがナバルトはまだ若く伸びる可能性があり逆転の余地はある。ただナバルトが怪我でもした場合言い切れるのは私はダンパーロ派だ、ということだけだ。

あの男はとにかく丈夫で、バカな疲労骨折以外やらかさないからバラエティにも気軽に出せるしそういった安定感は"仕事"においてとても大切だな。


「……。」


頭の中での独り対談を終えたサッカー協会会長マネリアルが質問してきた相手をチラリと片目で見やると彼女は既に別の話題でくっちゃべっていた。働けとも思いつつ少し羨ましくもある。

立場的に話しかけはしないが、せっかくこれだけ頭の中にある選手に関する考察を誰とも語らえないのはある意味孤独だ。

彼は一瞬だけ黄昏れて、すぐ仕事に意識を向け直すのだった。


「今のところは今日の待機人数でもサーバーは耐えられていますね」

「ふむ」

「これが開始後どうなるかですよ。サッカー協会公式サービスを謳っていますから、他の配信サイトでやりがちな観戦人数制限は極力やらずに済ませたいのですが……」


堅物なマネリアルですら脳内で長く語れる大人気選手の片割れ、ダンパーロがフル出場するルチルゼサッカー1部リーグ初戦。

それが本日行われるともなれば配信サイトが大盛り上がりを見せることは確実で、開始前でまだ画面にCMが流れている間から開幕戦を見ようとサイトを開いて待機する視聴者の数は30万を超えている。

数字は増やしたいがサービスには限界があり人の波に怯える男に会長は釘を刺す。


「重すぎて動画がカクカクになったらそれこそ利用者減少に繋がるだろう。うちには後で国内リーグ戦全試合一年間見返し放題という別の強みもあるのだから、生放送の方は場合によってはちゃんと制限をかけるべきだ。もちろん有料会員を優先して、な」

「わっ分かりました!」


カタカタとキーボードを叩きながら返事する民間会社の社員たち。サイトのサーバー担当の部長はパソコンを祈るように見つめる。


「海外呼び込みに路線変更後ここで結果を見せるのが大事……!」


マネリアルの声を代弁するかのように役員の一人が気合いを入れていた。


――このコンテンツはまだまだ伸ばせるはず。

民間企業とサイトを共同運営しているサッカー協会はそう見ている。

期待しているからこそサッカー協会会長はその多忙なスケジュールを調整して現地スタジアムまで足を運び、ネットの反応やサイトの人の動きの推移も見つつスタジアム内の実際の空気を観察しているのだ。


しかしそこで部下の報告を鵜呑みにせずちゃんと自分の目で見てサービスの状態が快適かどうか確かめるのがマネリアル流。彼はずっとパソコンを見ながら社員たちのやり取りにも耳を傾け、彼らの働く環境が粗悪でないかも確かめていた。


「B画面大丈夫ー?」

「カメラの電源今つけたみたいです」

「遅くない?!」


試合開始前のオープニングセレモニーまであと10分。社員たちが騒ぎ始める。全世界にいるルチルゼリーグファンとリアルタイムに繋がるネットの生中継ともなると運営側のやることは多くばたついているようだ。

忙しそうな彼らに対し、サーバーが飽和しないか重くなっていないかを常時監視し場合によっては人数制限を導入しサーバーの増設やコメントを連投できないようにする等の措置を取るよう会長は指示を出す。

とにかくサービスの質が悪いという致命的な悪評が広がるのは防がなくてはならない。そのことは全員理解していた。


マネリアルは他にもCMへのネットの反応や、4カメまである視点切り替え機能が正常に動いているかの確認をしたりと指を動かす。

両チームに1カメラずつ。その他にも選手ベンチと監督を撮る3カメ、観客を映すカメラまであるのはネットでは試合中の外野の反応の動画がバズることが多いから。

自分で見る対象をある程度決めることができるのはネットの配信サービスならではだと彼はこのコンテンツに自信を持っていた。


「50万超えました!」


役員と社員はせっせと働き。サッカー協会会長はたまに指示を出し見守る。彼らが今いる貴賓室の名が泣くような忙しさはこの場所をただのオフィスへと変えていった。


『ママのおっぱいでも吸ってろクソガキー!』


しかし肝心のオープニングセレモニーが始まったと思えば対戦相手であるチームトラベラーの厄介ファンが襲来し、配信サイトのコメント欄は荒れに荒れまくる。

不快な発言やコメントの連続投稿が相次ぎ、想定していた制限を初手から掛けざるを得ない事態にいきなり陥ったことで現場は憤怒する。


「またこいつらか!」

「はあぁぁチームトラベラーはサポーターに恵まれませんね」

「スラム街出身から選手に成り上がったジェイズが所属しているからな……。奴らにとっては心の拠り所なんだろうさ」


大旗を振り回し応援するその気持ち自体は否定しないマネリアル。その言葉に少しだけ心を開いた周りの人々は手は止めず愚痴り始める。


「チケットの高額転売も彼らの仕業なんですよね?さっさと逮捕してくれないですかね……」

「でも転売自体は違法じゃないから大して罪に問えないよー」

「電子チケットをもう少し上手く活用したいところだがいかんせん電子はネットの脆弱性がな。今はどちらでも入場できるようにしているが結局紙のが人気だ」

「彼ら、暴力事件は起こさないから警察も動きづらそうですよね。前みたいに業務妨害で起訴しても金は無駄に持っているので賠償金支払われるだけで効果はあまりないようですし」

「今は警備員に追い出してもらうしかないだろう」


資金力のある厄介サポーターが買い占めてくれるとチケットが残さず売れた上で訴訟で二度金を搾り取れるのでサッカー協会としての対応はほどほどなのだが、しかしそんな事情は知らない民間会社はただのサッカーファンとして憤っている。

スタジアムの外へとズリズリ引き摺り出されていく彼らの勇姿が3カメ画面でバッチリ撮られて観客たちは拍手を送り盛り上がり。

その後はサイトに異常がないかとファンの反応を眺める仕事に戻るマネリアルであった。



配信サイト画面内の様子――

≪マイクを持ったルルが話し始める。頭を抱える監督がチラリと映る。≫

『おー演説はじまた』

『おい今スタッフたち唖然としてなかったか』

『監督下向いてた』

『まさか台本にないとか』

『え』

『なんでユニフォーム隠したの?せっかくの背番号11番のルルちゃん見れたのに…エモが台無し』

『それだと応援相手が偏ってるからだろ』

『別に良くない?歌手でもないんだから歌う相手父親の方だけでも』

『ルルたんは優しいなー』

ネットのSNSはサッカーの試合前にアルビノの女の子が出てきたぞと盛り上がり始める。


≪ルルによる、父親が羊だからという発言にざわめく場内。≫

『草』

『草食え』

『草食え』

『草吐け』

『ルルちゃんそれあんまりよくない羊だぞ。芝の上転がって試合を無駄に長引かせるっつー』

『あだ名じゃないんだよなぁ……』

羊の絵文字まみれになるコメント欄。草を食べている羊の顔と吐いている羊の二種類が見られた。


≪歌うルル。キラキラ光る白い髪がアルビノとしてよく目立つ。≫

『羊さんの歌かっけー』

『まさかのジャズ?!このタイトルからこのメロディは想像できないだろ』

『ギターうめぇ』

『なんだこれはヤラセか?絶対後ろで流れてる方が本体だろ』

『5歳に演技させるな』

『口パク?』

『別に口パクでも盛り上がれればいいんやこっちは』

『でも足踏みの音まで聞こえるよ』

『指ちゃんと合ってる。弾いてるわこれ』


≪ベースのアドリブ。飛び跳ね喜ぶルル。≫

『今のなんだ』

『分からん』

『ベース見てたな』

『嬉しそう』

『可愛い』

『可愛い』

『可愛い』

以降可愛いコメントに埋まる。


≪次のパルミラの出番に移る。≫

『8888888』

『もっとルルちゃん見せて!!』

『ルルちゃんフィーバー終わっちゃった……』

『ダンパーロもステージに出てくるかと期待してたけど特にそういうのはない感じか』

『父親も見たかった』

『パルミラ…こいつもう聞き飽きたわ』

『パルミララブ』

『パルミラー!』

『めっちゃ美人!国宝!!』


「海外からのアクセスが急上昇しています!」

「ふむ」


ルルを使った集客作戦を知る秘書からの報告に頷くマネリアル。使えるものは使う彼の精神は協会役員にも引き継がれており、バズらせたのは彼らの部下であり見事なマッチポンプ戦なのであった。


「国内はじわじわって感じですね」

「まあ元々見たいやつは見ているからな」

「サイトのリンク付きの呟きの伸びがエグくてもうツブヤイター毎分ランキング10位に載りましたよ!情報拡散の勢いも凄いです」

「まだ伸びるだろう。この後はここで集めた人の目を釘付けにするメインもいくつか控えているからな」


アメリ語やスペノン語の呟きによってトレンドの集計がバラけて割れてしまったものの、それでも最終的に世界ランキングの2位まで行き大満足な男はテーブルに肘をつく。

理由も分からず急に集まってきた大量の視聴者に民間会社側が嬉しい悲鳴を上げている横で、彼は手持ちの事務所の方に連絡してその後しばらくルルに対する世間の反応を探らせることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ