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第31話「マネリアルの企み」


第31話「マネリアルの企み」


会長室の中でイベント開催に向けた話が順調に纏まっていく一方で。

その外にある喫煙室ではダンパーロ親子をここに呼び出した側かつ家主のはずのマネリアルが一人壁に寄りかかりタバコを吸っていた。


「フー…深刻な要件というていで出たせいで戻りにくい」


彼は嫌な予感しかしない懲罰権を委任された協会役員からの電話に出るため一度退出したわけなのだがその内容が存外くだらなくて関係各所への連絡もすぐ終わってしまい、現在一服しながら自分の部屋に帰るタイミングを見計らっているところである。


ちなみに電話の内容は『1部リーグにも参加するチームウィングス所属のサッカー選手数人が練習場近くの備品倉庫に保管されている着ぐるみを発見し、ふざけて全員で中に入ろうとした結果腹を裂いて壊した』というもの。

それを聞いた時マネリアルは呆れすぎて言葉が出なかったがしかし通話相手は至って真面目な声音でその事件を話しており笑い飛ばすこともできず。どうも、あまり人気がなく一着しか用意がないマスコットの着ぐるみが使えなくなってしまったせいで対チームウィングス戦のマスコットパフォーマンスタイムの台本が全試合分崩壊したらしい。

そう聞くとやや深刻にも思える問題にぶち当たった役員が報告ついでにどう対応すればいいのか助言を欲して電話をかけてきたのだった。


確かに選手による器物破損は大問題だし罰金ものだ。

けれどカモメン自体は元々そんなに扱いの良いキャラクターではないのでここはいっそ不遇を売りにして本体を修理に出している間パペット人形だけで凌げばいいだろうとアドバイスしたマネリアルは実に他人事だった。(一応塩対応には着ぐるみがサッカー協会ではなくクラブチームの所有物だという理由がある)

なので彼はせっかくだからお土産品のパペット人形をそのままスタッフに持たせることでルチルゼサッカーグッズ全般のネット通販業務を担当している協会側の売り上げにも貢献してもらう作戦でいこうと雑に対処した。


「あのバカ連中には指定した額の罰金のペナルティと一試合分の出場禁止、それときつく叱りつけておいてくれ。マスコットキャラクターへの軽視が過ぎるとな」

「かしこまりました」

なおやらかした選手たちへの怒りは当然あったサッカー協会会長はそう役員に言いつけた模様。


その後しばらくサッカー協会本部をぐるりと一周歩き回って社員と役員の働きぶりを眺めながら時間を潰し。

ちょうど室内がマイクの位置やライトの点滅などステージ構成の話になっているのを廊下から立ち聞いたマネリアルは休憩を切り上げて会長室に戻ると滑らかな動きで再び交渉の席に着き。

テーブルの上に肘をつき両手を顔の前で合わせた彼はまるで今までの話を全て聞いていたかのように自然に会話の輪に加わるのだった――


「こほん。当日はルルちゃんの歌にスタジオミュージシャンによる伴奏をつけようと思う」

「わ!わたしばんそう知ってるよっ楽器がふえて音楽がもっと楽しくなるやつだよね」


愛しのカモメンの被害も知らずウキウキなルルは胸の前で両腕をぐるぐると回し踊る。しかし少女の服の真ん中にでかでかとプリントされている例の鳥と目が合った会長は少し気まずそうに目線を逸らした。


「…そうだ。ちなみにルルちゃんがアコースティックギターなのを考慮しギターはなしでベースとドラム二人のバックバンドを予定している」

「しかしそれではうちの子の可愛い歌声がドラムあたりにかき消されてしまうのでは……」

「そこは裏方がそれぞれの音量を調整すればなんの問題もないだろう。ああそれともうスタジオミュージシャンはこちらの方で確保してあるから今からルルちゃんだけのソロに変えたりはできないぞ」

「もはや相談ですらない事後報告?!」


あまりにも潔く変更不可の四文字を叩き付けてきた、サッカー協会に舞台構成案を出した張本人の独断専行にダンパーロは恐れおののいたが出演者であるルルは素直にバックバンドの追加を喜んでいた。

提案者曰くこのバックバンドはまだ5歳の幼い子供であるルルがライブ本番で上がってしまい歌や演奏が下手になったり泣き出してしまったとしても、ステージ自体をなんとかやり切るために経験豊富な人材を配置するとのこと。

この体制にすることで何かあった際にはフォローも早く入れられるしたとえ歌詞が飛んでも演奏だけで乗り切るベーシストやドラマーの株が上がるため損は少ないだろう。

会長がそう語ると、結構酷い仮定の話をされたルルが頬を膨らませ反論する。


「それじゃあまるでルルが歌わないでステージの上にぼーっと立ってるだけでもなんとかできますって言ってるみたいじゃん」

「だからそう言っているだろう」

「なんですとー!ぷんすこー!!」

「まあまあルル落ち着け。本番はたーっくさんの人が来るし見られるんだから最悪の事態も考える会長の判断は正しいよ」


味方だと思っていた父親も向こう側についてしまい孤独にぷんぷん怒るルル。


そんな彼女に隠された仕事はただ一つ。

オープニングセレモニーに一番手で出て良くも悪くもとにかく目立ってツブヤイターや他SNSのトレンドに乗り、LFA1部リーグの開幕とサッカー協会が運営するネット配信サイトの存在を国内外の不特定多数に宣伝することだ。


どこでルルを見られるのかと騒ぎになればそれとなくURLを拡散してアルビノ目当てに来た人をネット配信の会員登録まで誘導する。そこに無料か有料かは関係がない。なぜなら登録者数を増やすこと自体が目的だから。

配信ではオープニングイベント時のアーティストの入れ替わりや試合中のハーフタイムにCMも流れるため大会スポンサーに媚びも売れて一石二鳥というわけだ。

しかしそんな長い理由はわざわざ話す必要はないし訊かれてもいないのでマネリアルは口に出さずただにこやかに微笑むのみ。そして秘書から書類に書かれた説明が全て終わったことを聞いた彼は静かに席を立ち上がると金の卵へと歩み寄った。


「それで、だ。せっかくこの場にルルちゃんが来てくれたことだし本番前に一度歌ってみないかい」

「っ!。わーい歌う歌うどこで歌うのやっぱりコンサートホールとかかなぁ」

「いやうちの小さなスタジオだが。事前に君の歌を録音しておきたいんだ本番用の被せとしてね」

「かぶせ……とは」


単純なルルは歌のお誘いですぐご機嫌に戻ったが突然会長の口から飛び出してきた新規の音楽用語に反応して神妙な顔つきに変わり。歌には実体がないのに触れないものに一体何を被せるのか、ナゾナゾなのかと頭と首を捻っている。


「ライブで実際に歌うルルちゃんの後ろで予め録音しておいた音源を流すんだよ。ほら最近テレビのカリューアイドルがやってるような…」

「わたしッ口パクなんかしないよ!?カイチョーさんどれだけルルのこと信用してないのー!」


身近でいい例えを思いつかなかったマネリアルがひとまずそれに近いパフォーマンスを例に挙げると少女は途端に顔を赤くし両手をグーにして怒り出す。コロコロと変わるその表情はある意味一番生き生きとしていて感動すら覚えるほどだ。


ルルが怒ったカリューアイドルとは海外から入ってきたアイドル文化であり、口パクで歌ったふりをしながら一糸乱れぬチームダンスや凝った衣装などを披露する歌以外の演出に技術を割り振ったショービジネスだった。

彼らの歌はリズムがよくダンスに似合うものが選ばれバラードなんてジャンルは存在しないかのような派手なものばかり。それでもテレビに出られているのはひとえに金だ。サッカー協会もカリューの事務所から多額の支援金を受け取る代わりにちょくちょくルチルゼ内のイベントに出演させたりしている。

あれはあれでタレント全員をダンサー寄りにしたアイドルビジネスとしては正しい形であるとマネリアルは考えているが、生歌前提をパフォーマンスの判断基準としている小さなミュージシャンにとってはキレる程度には許せないらしい。


「わたしなら歌だけでかんどうさせるぷんすこー!わざとなまほうそうでふくなんてぬがないッぷんすこー!」


他人のステージを見てそこまで感情的になれるほどの、少女自身の歌に対する圧倒的な自信とプライドを見たマネリアルはその泥臭さが少々気に入ったようで。プンスカと湯気を出し続けるまんまるな頭を優しく撫でた。


「別に完全な口パクというわけでもないさ。あくまでも歌を客席の端まで届けるために必要なんだ」

「だったらこう……」


会長の発言を踏まえて対応を思いついた少女はすーっと深く息を吸い込み、娘のそのモーションを見て野生の勘が働いた父親が素早い動きで耳を塞ぐ。


「「毛は愛の゛想み゛~ッ!ってゔだゔ!」」


キーン――

室内から一瞬音が消える。


「ふふーんこうすれば会場のはじっこの人までとどくよねー」


スタジアム全体に届けるつもりで肺いっぱいに空気を溜め込んだ魂のシャウトがオフィスビル最上階にある全ての部屋に響き渡りルルは満足げに笑う。けれども聞かされた側は全く笑えない上に、鼓膜が破壊されそうな爆音の二撃目が来ないか警戒した大人たちは未だに耳を押さえて表情を歪めたまま固まっている。


「それはもうただの叫び声ではないか残念ながら歌とは呼べないな」


慌てた様子で警備員が駆け込んできたのを片手で制したマネリアルは騒音の元を見下げて冷たく言い放った。


「ルル~喉は無事かー…?そんな無茶な声出しして本番でガラガラになったら大変だぞ」

「えへへーだいじょぶ!あのね、痛くならない声の出し方があるんだよ。あ゛ーあ゛ーって感じでール゛ッタラ゛レ゛ッタラ゛ヴガヴガ~♪」


何してくれてるんだと威圧感を放つ会長の前で安定したがなり声ですらすらと話すルル。彼女の声は風邪をひいているようにざらついているが何を言っているかはっきりと聞き取れるいわゆるデスボイスに近いものだった。

その発声法を聞いて、さっきのシャウトをてっきり子供が癇癪を起こしているものだと見ていた男の目つきがガラリと変わる。想定していたよりルルの歌唱技術の幅が広いことにただ純粋に興味が湧いたようだ。


「ほほぉなるほど。それも家庭教師に習ったのか」

「そうだよ!テオ先生はねーはんこうきにベビィメタってバンドでこんな風に歌ってたんだって。先生の歌聞いてルルもやりたいやりたいってたのんだらじこりゅうでマネされるとのどこわすからって言って、レッスンのよていになくても教えてくれたの」

「ヘビィメタルぅ?!いやその情報パパ初耳なんだけども……」


不意に娘の口から出てきた新情報に父親が驚く。

以前家庭教師がギターを始めたきっかけは反抗期だと聞いてはいたがまさかそのギターがアコースティックギターではなかったとは。初対面の時の自己紹介で昔バンドでそこそこ有名だったと語っていたのにネットの検索に引っ掛からなかったのは、ギター講師が見栄を張って嘘をついていたわけではなくダンパーロの調べ方が悪かったらしい。

今はあんなにおっとり穏やかな雰囲気なのに若い頃は随分と弾けていたんだなと思うとともに、あの講師が荒々しくデスボイスで歌う姿が全く想像できなかった男は腕を組んで唸る。


「…ああ。デッドリーのテオだったのか」


うーんうーんと首を曲げる男の隣に立つマネリアルは正反対の笑顔を見せる。

電話の時点で妙に声に聞き覚えがありずっと頭の隅に引っ掛かっていたテオという名の家庭教師が誰だったか、ようやく記憶を掘り返すことに成功した彼はスッキリとした表情でカチカチとペンをノックする。

そして更に、顔面白塗りメイクを施し全身トゲまみれの革服に身を包んだいかついギタリストがバンド現役時代によくやっていた、ステージ上でギターを燃やす過激な無駄遣いパフォーマンスを思い出した彼はぽつりと呟いた。


「ダンパーロ……お前の娘そのうちエレキギターも欲しがるぞ。あれは本気でやるとなるとなかなかに金が溶ける」

「えれき…「ワーワーッ!何でもなーい!ほら早くスタジオに行かないとー歌ってみようなさあ行こう!」

「???」


エレキギターがどれほどの値段か知らないが世界の大富豪ランキングに載るほどの大金持ちであるサッカー協会会長の口から金が溶けるという言葉が出てビビったダンパーロは、今後折りたためないちゃんとしたピアノを買う予定があったため今追加で高額な楽器をねだられてはマズイと判断しルルを抱っこし気を逸らし。

先に歩き出した会長の後を走って追ってサッカー協会内にある収録スタジオへと向かうのだった。


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