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第3話「イヤイヤ期」


第3話「イヤイヤ期」


生まれた当初あれだけ心配していた娘への奇異の眼差しも時間が経つにつれて薄まり。

ルチルゼ国内の興味や関心が移り変わったことでいちサッカー選手の娘に関する記事では数字が取れなくなりパパラッチも減少傾向にある今日この頃。


子供の成長ははやいものであっという間に2歳になりしっかりとイヤイヤ期に突入したルル。

時には晩ご飯のスープをスプーンではなくフォークで飲みたいとよく分からない主張をしてひたすら食べずにごねて泣き、時には今すぐルーニャ側の両親である祖父母と遊びたいとぐずりながらフローリングを転がり、酷いときは自分の背の小ささを嘆き今父親と同じ身長になりたいという達成不可能な願いを泣き叫んでいた。


何度体験しても飽きない子供の自我の芽生えに感動しながらもどうしても子育ての大変さを感じる毎日。


そしてその日は父親が出るサッカーの試合を見に行きたいと騒ぎ始めた。晩ご飯を食べている最中に息子のポアロが明日の試合楽しみだねと口から零したことが原因だった。

普段通り音が鳴るおもちゃで興味を逸らしたり子供向けの教育番組チャンネルをつけて歌に合わせて踊り出すことを期待したが何故か引っ掛からず泣き続けた。


「サッカー行きたい!サッカー!見に行きたいたいたいたいたいぃぃ!」

「そんなに暴れてもルルはおうちでお留守番だよ」

「なんで?!にぃにたちもダディもママも行くのに!わたしも行く!」

「外は危ないからダメだけど、ママがルルと一緒にお留守番してくれるから一人ぼっちにはならないよ。置いていかないよ」

「ママだけじゃやだやだやだやだああぁぁ!!」


一度も外に出していないからこそ得られている今の平和を壊したくなかった。ルチルゼの一等地に建つこの家の中であればセキュリティもしっかりしているし安全なのだ。

それに、サッカー場に連れて行くことでまた国民の興味が再燃して娘に視線が集まるのは嫌だった。一時期のように妻が悲しむような悪意ある内容の記事が書かれ雑誌やネットニュースに溢れるかもしれない。

ルーニャ一人に子供の世話を任せて観戦させて誘拐犯に攫われたりしても怖いし。


しっかりと目を見てそう伝えると、


「しんぱいだからわたしを仲間はずれにするの?!ルルは行きたいって言ってるのにルルのおねがい聞いてくれないダディはひどい!ダディなんかきらいっ!」

「っ?!」


――全く想定していなかった言葉が返ってきた。


今までどんなことがあっても嫌いとは言わなかった娘の涙ながらの発言にダンパーロは固まる。

剃り忘れた髭で頬ずりをして痛いと逃げられたときも息子二人とお風呂上りにパンツ一丁でサッカーをして汚いと言われたときも、飲酒後のキスで臭いと吐かれたときでさえ嫌いという言葉だけは選ばなかったのに。

そこまでの重さを持っていると幼いながらも理解していた子供から初めて嫌いと言われたのがショックで。

父親としての好感度の低下に焦りを覚えたダンパーロは後先も考えずに了承してしまっていた。


「わ、分かった連れて行くッ!次の試合絶対連れて行くからパパを嫌いにならないでおくれ」

「ほんと!?やったー!」


大喜びで抱きついてきてキスしてくる娘をダンパーロは呑気に愛でていたが、ワイン片手にボディガードの手配をするわねと妻ルーニャに言われハッと我に返った。

そうだ護衛が要る。それに明後日試合があるサッカースタジアムには屋根がなく観客席は全て野ざらしだ。アルビノで日焼けできないルルをどこに座らせればいいのか。日傘と日焼け止めだけで長時間座らせていいのか?まだ主治医にも相談していない。問題は山積みだったのに。


だが時既に遅し。初めての外に期待を膨らませるルルはうきうきで自分の部屋に行きタンスからお出かけ用の洋服を漁り出していた。

これは間違いなく明後日まで忘れることなくお出かけの準備をし続けるやつだ……。祖母が手作りケーキを持ってくると言ってきた後からずっと胸かけナプキンを身に着けていたあの時と同じ匂いがする。


父の威厳を保つため。そして約束を嘘にしないため。子供の信用を失わないためにもなんとか準備を間に合わせなければならない。



「と、いう訳なんですよ」

「はぁ」


ダンパーロは自分が所属するチームバイブスのマネージャーに相談の電話を入れていた。


「それでですね。うちの娘を次の試合で観戦させたいと思っているのですがボディガードの持ち込みは平気でしょうか」

「大丈夫ですよ!VIP席を家族分の4席確保しておきますね」

「いや、息子二人の方はありがたいことに妻の両親が面倒をみたいと言ってくれていて人数分チケットをもう買ってしまっているんですよ」


なら問題はないのではと言うマネージャーに頼む。


「それでですね。出来ればルルは屋内から見られる場所が良いのです。妻と娘だけでもなんとかなりませんかね。スタッフが通る渡り廊下とかでもいいので」

「どうしてですか。裏方が使う廊下なんて狭いし床は備品だらけで汚いですし窓も小さくて見えにくいですよ」

「うちの娘はアルビノで、アルビノの目や肌は弱く日光に当たりすぎるとやけどをしてしまうのです。一応日傘も持たせますし日焼け止めの薬を欠かさないように気をつけてはいますがいきなり長時間のスポーツ観戦は心配で……心配で心配でっ」

「なるほどそうでしたね。しかし一流サッカープレイヤーのお子さんをただの廊下に立たせるのもこちらがひんしゅくを買いますし……少し待っていてください。他に場所がないか上に確認してみます」

「はいお願いします」


そして、特別に窓ガラスのある放送席から試合を観戦させてもらえることが決定した。


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