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番外編「ペリドス親子と遊びに行こう1」


番外編「ペリドス親子と遊びに行こう1」


「あれルル、ギターの修理はもういいのか?」

「んんーー…ちょっときゅうけいちゅう」


我が家で二番目に活発なやんちゃ娘ルルが何故かいきなりギター修理に挑み始めてから一か月ほどが経過したある日の朝。

普段であれば目が覚めてすぐパジャマ姿で庭に向かいだして自分かルーニャに注意される娘が、今朝は珍しく大人しく母親に日焼け止めクリームを塗られていた。


…これはそろそろ諦めそうだなと思った父ダンパーロは、食後になってもなお庭に行かずにリビングのベビーサークルの中に寝転がって木のすきまが…木をずらして…とぶつぶつ呟いている少女の丸い頭を撫でる。

壊れたギターのことは諦めて欲しいが悲しんで欲しいわけでもない…そんな複雑な親心のもと、娘を気分転換に遊びに誘うのだった。


「おーいルルー?そういえばペリドスのやつが猫を飼い始めたらしいぞ。ペリカちゃんにも会えるし今から会いに行かないか。今日は協会の共通メンテナンスでサッカー場の芝が踏めないし家にいるだろう」

「行く!ルル、どうぶつの中だとネコちゃんが一番すきー」


「あら気を付けてね二人とも。外出慣れしはじめた頃は油断が増えて危ないんだから」

「ルーニャさん俺がお嬢様をお守りするのでお任せください」

「えー?あなたの筋トレ配信にルルが映りまくるせいで世間のアルビノに対する反応が見えるようになったのは有り難いけど、変な人も寄ってくるかも知れなくて心配なのよねーー」

「う゛っ……」


"猫"という単語を聞いた時点で肩をピクつかせていたルルは、話を聞き終わるのと同時に両手を真っ直ぐ上に上げて起立。これは親に服を脱がしてもらう時によくするポーズだ。

出来るんだから甘えないで一人で着替えなさいと小言を言う母にその体勢のままおめかししてもらい、パパラッチにバレないよう車庫内で車に乗り込む。


そしてボディガードと共に地味なワゴン車の中で揺れること約一時間。サルファからおよそ40kmくらい離れた市場町のテモル市まで来たので、父ダンパーロは早速パパ友に電話をした。


「来た!」「よーペリドス」

「ねぇ移動し始めてから連絡する癖いい加減直してくれないかなあ?!お前たち似た者親子すぎるぞ」


貴重な休日を睡眠に費やし次の試合に向けての英気を養っていたペリドス家に電撃訪問したダンパーロ親子。

長時間のドライブで既に目が覚めている彼らは笑顔だが、求めてないモーニングコールで叩き起こされた男は跳ねた前髪の寝癖を掻きつつ渋々二人を迎え入れるも当然の文句を吐く。

そんな迷惑そうな父親とは打って変わり娘のペリカは自身が早起きでぐずっていたことすら5分で忘れ、車椅子の上で短い手足をばたつかせながら友達の来訪を喜んでいた。


「おはおーるんるんー❤︎」

「おはようペリカちゃん、2さいおめでとーこれプレゼント」

「ありがぅーゃたー!」


実はテモルまで走行中の車内で、この前2歳になったばかりの妹分のペリカに何かあげたいとルルが零したので道すがらおもちゃ屋に寄って誕生日プレゼントを買っていたのだ。

顔を合わせるまで背中に隠していた大きなプレゼントボックスをサプライズで渡すルル。それを奪い気味に受け取ったペリカは大急ぎでバリバリ包装を破くと中身を引っ張り出して目を輝かせる。レースズという喋るレーシングカーたちがでてくるカートゥーンアニメのぬいぐるみを抱きしめた彼女は真っ白な歯を見せて笑った。


「でねペリカちゃんおうちのネコどこー?」

「にゃんにゃ、にゃんにゃわ、あっこ」


ペリカが指差したのは階段。その指先を目で追った猫大好き人間ルルは勢いだけで先走り一人で先に二階へ行ってしまった。

足が速い友達の後を追おうと、貰ったばかりのアウテイ君ぬいぐるみを抱いたまま車椅子のボタンを押したペリカは長い廊下をゆっくりゆっくり前に進むも、階段の前でタイヤが段差を感知し自動で止まる。

片足だけでは階段を上れない。二階に行きたいペリカは玄関でまだ旧友と談笑している父親と階段を交互に見てうぇうぇ鳴いてアピールしたが、それでも困っているこちらに気付かないので視線をひたすら父親の背にぶつけてじーっと目で訴えかけた。

数々の上りたいアピールをしたのち、ようやく娘のピンチに気付いたペリドスに抱っこしてもらい二階に上がることができたのだった。


「こらルルっお友達のペリカちゃんを置いていっちゃダメじゃないか」

「見てみてダディネコちゃん!」


全く振り向かず父親の話も聞こえない集中状態に入ったルルはダンボールの中で丸まる白黒マダラ柄の猫に夢中だ。そんな態度を取る娘に慣れているダンパーロはため息を吐いて部屋に置かれたソファに座り、猫と子供たちを見守ることにした。


「したぁにゃんにゃーんにゃー!むにゃうにゃぅ」

「はいはい今下ろすからな……っと。この猫の名前、ゴマっつんだけどさ。ゴマには猫専用の部屋を与えてるんだ。ペリカは普段車椅子だからゴマが床で寝てるときに万が一轢いちゃったら危ないし、こうやってハイハイしてるときだけ猫と遊ばせてるんだよ」

「おー上手く進むもんだなぁ」


床に下ろされたペリカは右足と両手を上手に使い、一直線に猫のそばまでずりずり這っていく。以前会った時よりたくましく育った彼女の移動速度は着実に成長していた。


幼女の成長をきゃあきゃあ喜ぶキモイ男たちの声に片目だけ開けた猫のゴマは、ペリカの接近を視界の端に確認した後ダンボールから出てぐぐーっと体を長く前後に伸ばす。

お餅のように伸びる猫をガン見するルルはサングラスまで外しそのオッドアイを輝かせた。これがえきたいと言われるネコ…と感動し震えている。


「しかし、猫を飼うだけでも一部屋必要な感じだとペリドスは犬は飼えないか……」

「は?部屋数以前の問題でうち父子家庭だし犬の散歩がまず無理だろ。なんだよその顔、オレんちで犬も飼ってて欲しかったのか?」


友人のペットを羨ましいと思っていたらつい言うつもりのない本音を零してしまったダンパーロは苦々しい面持ちで頷く。

そして、子供たちに近寄る猫の後ろ姿を眺めながら理由を説明し始めた。



それは一人目二人目である双子が生まれる前のこと………


「せっかくの一軒家だし犬とか飼いたいよなぁ」


田舎にあるタバコ農家の生まれで元貧困層のダンパーロは、幼少の頃からたくさんの犬と猫に囲まれて生活してきた。そのため実家を離れた後もずっと家では何かしらの動物と暮らしたいと思っていたのだ。

しかし、彼が都会に出て最初に住んだのはサッカー協会がジュニア向けに提供してくれた無料の育成選手寮でペットが飼えずわがままも言えず。

ある程度収入が増え安定してきた頃に引っ越すも、一人暮らしを始めたアパートをお洒落な内装で選んだ結果ペット禁止で。それに気付いたときにはもう敷金礼金をたんまり払っていたためペットを諦めざるを得なかった。


「そうねぇやっぱり大型犬かしら。ゴールデンレトリバーとかピッドブルとか」

「ピッドブルはちょっと怖いかな」

「あら!実家で昔二匹飼っていたけど番犬としてすっごく頼もしかったわよ。庭に出たイノシシを噛み殺してくれたわ」

「いやそれ怖い…怖いって。うちの農場の犬猫はせいぜい狩れてもネズミぐらいだったぞ」


恋人の家に住むようになってからも続いた長い長いペット飼育禁止期間中でも妄想だけは超一流だったダンパーロは、妻が妊娠している間に程よい運動とデートを兼ねて色んなブリーダーの運営するペットカフェに犬猫を見学しに行った。

抱かせてもらったどの子もべらぼうに可愛くて、手をわんこに舐められながら子犬からがいいよねなんて話をして。結婚してから建築を始めた夢のマイホームも無事建ったので、これでようやくペットと暮らす生活に手が届くと思ったのに……


――生まれた一卵性の双子は、その後のアレルギー検査の結果それぞれが犬アレルギーと猫アレルギーを持っていることが判明するのだった。


「くぅ…まさか一度に猫プランまで潰れるとは……」

「あの可愛いピットブルをお迎え出来ないのは残念だけど、こればかりは神様の選んだことだから仕方ないわね」

「と、鳥なら飼えるんじゃないか!?動画で見たがかなり人に懐くらしいし」

「どうしようかしらー…一応次の子が生まれるまで待ちましょうか。それにハニーそんな思いつきで命を預かってはいけないわ」


犬も猫もダメというのは結構ショックだったが、その時は生まれてきた赤ちゃんを犬猫に注ぐはずだった分まで愛でて気を紛らわし。産んですぐ次の子に恵まれた妻の身も案じペットはしばらく見送りとなった。


――が、生まれてきた娘は日に弱いアルビノで。しかもアレルギー検査ではインコやオウムの脂粉に引っかかったのだ。


まずはじめに検査結果を読んだ夫婦が脂粉とはなんだとなり調べたところ、どうやらそれは鳥類が羽を濡らさないように常に羽根の表面に塗っているものでとても細かいフケのようなものらしい。

舞ったそれを吸って起こるアレルギー反応はせきやくしゃみと花粉症に近いもので、花粉症であるダンパーロはその辛さを知っているがゆえに絶対鳥は無理だと諦めるのだった。


「なぁルーニャよ、もういっそトカゲとか飼うか……?流石にトカゲアレルギーはこの世にないだろ」

「いくらなんでも迷走し過ぎよハニー。あとトカゲ自体は可愛いけれど餌が生きた虫でしょ。私、軽度とはいえ昆虫アレルギーよ」

「そんな…っ!そんなあぁぁあ……!!」


そんなこんなで。

アレルギー一家は裕福な家庭にしては珍しくペットを飼えないのである………



しみじみと悔しそうにアレルギー発覚当時を語る男を真顔で見つめるペリドス。やたら長いし内心ではものすごくどうでもよかったが適度に相槌を打って聞いてあげていた。


「…なるほどな。花粉症だけのお前以外全員何かしらの動物アレルギー持ちで飼えないのか」

「そうなんだよ。今日だって家に帰ったら玄関入る前にまず服に付いた猫の毛をはたいて洗わないとだ」

「たいへんだなーでもオレんちはペットカフェじゃないぞ。勝手に犬とかもらって持ってきたらマジぶっ殺すかんな」

「俺をどんな非常識なやつだと思ってるんだよお前は!そんな可哀想なことするわけないだろ、そもそも犬はちゃんと走り回れる庭と散歩する時間があって病院にも診せられる余裕のある家庭で買うべきなんだよ」

「だったら出張まみれのサッカー選手大体ダメじゃね?まー専業主婦ならアリかもしれんが特にお前んちなんて共働きだし」

「うぐぅッ?!」


痛いところを突かれたダンパーロはソファに置かれた大きなクッションに顔をうずめる。

一回り年上の妻ルーニャは結婚する前からホットシルバージムの社長だったので専業主婦になることはないし、結婚の条件も主婦になれと言わないことなので元々彼の家で毎日の犬の散歩は難しいのだ。正直ペットシッターに散歩だけ任せようと思っていた怠惰をつつかれ神に懺悔する。


『にゃーん』


無様に体を丸めるダンパーロを嘲笑うかのごとく猫が鳴く。

父親二人が唐突な鳴き声の主に目を向けると、部屋の中をうぞうぞと芋虫のように這いずっているペリカの背中にはいつの間にか猫が座っていた。急な方向転換をしても気にせず上に乗ったまま猫は左右に揺られている。

彼女的にはロボット掃除機に乗るような感覚なのだろうか。猫と幼女の戯れを見る男たちとルルは目尻が下がり口元もにやけているが当のペリカは普段と様子が変わらない。


「ペリカちゃんあったかいんだねーきっとネコちゃんここがすきなのかも」

「にゃんにゃしゅき」

『うな』


好きという顔に見えない真顔のまま、猫の体温を感じ存在を知りながらも無理に後ろを振り返って見ようとしないペリカ。そんな彼女はそのまま猫を背中に乗せて、猫部屋に置かれた小さなテレビでキッズ番組を見始めた。

おかあさんのママという歌が流れはじめ瞬く間にペリカの目はキッズアニメに夢中になるが、ルルの目は相変わらず彼女の上のゴマに釘付けだ。猫の背後からこっそりと手を伸ばそうとしては引っ込めてを繰り返しウズウズしている。


「にしてもペリカちゃんに凄く懐いてるな。ブリーダー産って基本多頭飼いだから小さいうちに引き取らないと同種にしか懐かなくなるんじゃなかったっけ。この子成猫だよな?」

「え?いやー…実はこいつさ、野良猫だったんだよ。オレが自分で庭の手入れするようになって、それからは雑草とか抜いてる間はペリカをベビーカーに固定して日向ぼっこさせてたんだけど、いつも気付いたら娘の膝の上にこの猫がくつろいでてさ。それがあまりにも日向ぼっこのたんびなもんだから病気とかノミダニが心配になって一回捕まえて病院に連れて行ったんだ」

「で、そのまま室内飼いパターンか」

「そうそう。狂犬病とかは持ってなかったけどやっぱりノミダニはいてさ。薬で駆除できるってなったらやってやりたいじゃん」


ずっと猫を乗せてる愛娘に柔らかな目線を送りつつソファのひじ置きに頬杖をつきペリドスは語る。

無理やり首根っこを掴んで病院に連れてった彼が自宅に持ち帰りケージに入れても威嚇せず、その後も大人しくお世話されていた猫のゴマは診察した医師が言うには元飼い猫の可能性が高いらしい。

捨て猫と知ったその日に警察にも届け出たものの3か月経っても飼い主は見つからなかったので正式にペリドス家の一員になったのだという。


「ちょっとだけ、ちょいなでなでしたい……あっ」


魅惑のもふもふを前についに我慢できなくなったルルが指先で触れようとすると猫は軽やかに手を避け、テレビの裏側へと逃げてしまった。


「う、わ、わ」


表情には出なくとも猫の重みをひっそりと楽しんでいたのにいきなり背中が軽くなり寂しくて泣きそうになるペリカ。

これは長くぐずりそうだぞと感じた父親が慌てて立ち上がると、


『にゃーん』


にゅるんとテレビ台の下から出てきた猫は泣きそうな幼女のもとへ忍足で近寄ってきて、ぐるぐると喉を鳴らしながら湿ったその鼻先を彼女の唇にくっつけた。

途端にペリカは泣き止むと、ゴマに振られた女の方をにやりとドヤ顔で振り返りひとこと。


「にゃんにゃ、るんるんやぁらってー」

「そんな?!」


ルルからしてみれば喉から手が出るほど触りたいもふもふに振られるのと同時に、そんなもふもふから一途に愛されているペリカに言われた言葉が飛び上がるくらいショックだったらしく泣きながら父親に向かって走ってきて、勢いよく抱き付いてきた。

しかしダンパーロの胸はプロサッカー選手の胸…非常に筋肉質で硬くもふもふでない。彼女はそれが何よりも悲しくてぐすぐすと鼻をすすった。


「あーららお前も冷たくあしらわれたか。大丈夫だルルちゃん、うちのゴマは飯をあげてトイレ掃除もしてやってる飼い主にもツンツンだからさ。あんなに仲良しなのはペリカだけだ」

「びぃいペリカちゃんだけずるいぅ」

「よしよし、猫は生涯気まぐれだしそんなもんだって気にするなルル。あっ、そういえばアイススケート場に行くって話はいつなんだ?あの紙見せたら泣き止むんじゃないか」

「あぁー…そういえばもらってたような……あのチケットの期限いつまでだっけ」


収納場所の記憶が曖昧なペリドスが一旦部屋から出て、自室クローゼットをあちこち探し回ったあと出勤用のいかついフライトジャケットを持って戻ってきた。彼の上着のポケットからはくしゃくしゃになったチケットが出てきたが、シワをよく伸ばして有効期限を確認したところアイススケート場入場無料4人の期限が今日の夜までだった。


「もったいないし今から行くか!これから試合も増えるしまともな休日来月までないだろ」「ぐずっ…行くう゛!」

「お前たち親子はなんなの行動力の化身なの?!?!」


考えるよりまず行動な親子に振り回される男の悲痛な叫びにびっくりしたゴマがキャットタワーに登頂し、遊びに行くと聞いたペリカは"猫<遊び"に脳内の優先度が切り替わり。ホラー映画の幽霊のようにうねうねと彼の足元に這い寄ってきて足首を掴んだ。


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