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第2話「ルル」


第2話「ルル」


「うーう!」

「車だねぇ」

「うーう!」

「くるま」

「あーい!あぶあぶあぶあぶ」

「うんうんそうだねー」


先程から何故か木でできた車のおもちゃをひたすらこちらに手渡してくる我が娘1歳。名はルルと名付けた。

2万人に1人の確率で生まれるとされるアルビノで、この子が生まれてからというもの本当に大変なことの連続だった。


当初の予定では娘の存在はマスコミに隠してひっそりと育てるはずだったのだが、妻の出産に立ち会っていた自分の両親が新聞社にリークしやがったのだ。

『プロサッカー選手のダンパーロの子供はアルビノ?!』

『ジム経営者の妻、ジムインストラクターとの不倫の子発覚?!』などと新聞の表紙を飾りたちまち周囲は大騒ぎ。

以降両親とは一切の連絡を取らず実質的な絶縁状態である。


いくら口で説明しても不快な記事を刷り続ける出版社に対してこちらから遺伝子検査の結果を突き出すもそれでも騒ぎ続けるので今では無視しているが、家の周りに常にパパラッチがうろつき自宅の警備を増強する羽目になった。余計な出費である。


更にこの子の場合目が開いてからも大変で。

娘はアルビノなだけではなくオッドアイだったのだ。そうなると生まれる確率の方も変わってきてしまい、その希少価値にいくらでも金を出せる連中の目に付いたらと思うと恐ろしすぎた。

幸いいつもウインクしているし担当医師の口が堅くこちらはまだバレていないが。既にバレた時のことを考えて妻と一緒に信頼できるボディガードを探し始めている。


俺譲りの緑とアルビノ特有の赤い瞳はまるで宝石のように美しく、これには妻も怖がらずに見入っていた。


「ルルの目は綺麗ねぇ」

「あぶぅ」

「ああもっとママに顔を見せてちょうだい」

「うーう」

「はいはい車ありがとうね」


デレデレの表情でルルからおもちゃを受け取った妻ルーニャ。今もこうしてほっぺを揉んで頬擦りするほど愛娘の顔を気に入っている様子。

今現在の光景を毎日のように見ていると産んで怯えていたのが嘘だったかのようだ。

夫と親族以外に対しては顔面偏差値至上主義である妻のドラマや映画の俳優好きが転じて、赤ちゃんにまでその面食いを発動するとは思わなかった。まあ結果オーライとしよう。


しかし綺麗な瞳なだけで済まないのがアルビノという個性の厄介なところで。

アルビノが持つ赤い瞳は視力がとても低い上に肌と同様に光に弱いらしい。

守秘義務を守ってくれる娘の主治医の診察通りにサングラスを作ってやるとかけている間だけウインクを止めるようになったことからも普段光を眩しがっているのは明らかだった。


家の中でルルが身に付けているサングラスはダンパーロと同じ瞳の色はそのまま見たいという妻の希望でレンズが片目だけの特注品である。

そうして作った度入りサングラスのおかげで娘はこうして楽しそうに絵本を読んでいる。

それでも先天的に極度に低い視力は完全には補えないそうで遠くのものはあまり見えない。娘は常に本に顔を近付けなければならないのだ。


「あーんルルちゃんもっとママとチューしましょうよ」

「あばばばば」

「んーどうしたルル」

「んーちゃ!あぶぅあうあうんぶあ!」


可愛がるあまり非常にしつこいルーニャのキスから逃げてダンパーロの方にハイハイでやってきたルルは短い両手を上に伸ばしてバタつき赤ちゃん語で何か喋っている。

赤子の言語は分からないが明らかに何かを求めているのが分かる。


「トイレ?」

「うぶぶ」

「ご飯?」

「うぶぶ」

「抱っこ?」

「きゃああ!」

「抱っこかー!ほぉら抱っこっ抱っこっ」


ルルはこちらから何個か選択肢を提示してやるときちんと意思表示をしてくれる。抱っこくらいの簡単な言葉であればもう意味まで理解している賢い子。

ぷにぷにで柔らかくて温かい可愛らしい我が子を抱くとキャッキャッと無垢な笑顔を見せてくれる。それだけでも日々の疲れが吹き飛ぶようだ。


「とーちゃんサッカーしよー」

「ボクはキャプテンやるからパパはキーパーね!」

「よーしやるか!ってこれバスケットボール……まぁいいか来いっディアロ、ポアロ!」


一つ年上で両方妻そっくりの双子の息子たちとも遊び、ダンパーロの毎日は苦労はあれどとても充実していた。


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