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第8話「はじめてのだっそう!」


第8話「はじめてのだっそう!」


「そうかあルルちゃんももう4歳なのか、大人になると時間が経つの早く感じるなぁ。また今度うちのペリカとどこか室内で遊べる場所にでも出掛けに行こうぜ。最近テモル市場の近くにできたアイススケート場とかどうよオレ、オーナーさんにチケットもらったんだ」

「それはいいな!あぁ、真っ白なスケートリンクの上に立つルルはさぞかし天使だろうなぁ……んっ、噂をすればうちから電話だ。なんだぁーこんな朝っぱらから。珍しく起きたルルが応援メッセージとかパパにくれちゃったりして」

「おいこの親バカめ。普通に考えたら奥さんからだろ」

「え?いや今日ルーニャは朝飯後すぐ部屋にこもってWeb会議で忙しそうだったし、気合の入れ方が違ったしそんなすぐ終わる感じじゃなかったけどな……」


休日で観客も多いチームバイブスとチームテモルザクロスの試合前。

ロッカールーム付近の廊下で今日の対戦相手かつパパ友のペリドスと談笑していた時、マネージャーに渡そうとしたカバンの中から着信音が鳴る。それは自宅の固定電話を設定してある音楽だったためダンパーロは娘からの声援を期待して出た。


「はいもしもしーあれなんでマドルク…は…っ…、…はあ゛?!?!」


さっきまで娘のスケート姿を妄想して鼻の下を伸ばしていた男が髪の毛をぐちゃぐちゃに掻き乱しながら必死に受話器の向こうの声に耳を傾ける様子に一体全体何事かと焦るペリドス。

あまりにもひっ迫した掠れ声に驚き、どうしたどうしたと双方の選手たちがロッカルームから出てきて彼の方を見る。着替え途中のまま顔だけ覗かせている者もいる目の前でダンパーロは力の限り叫んだ。


「「娘が居なくなったッ!?!?」」


「あんだって?!」「なんだと」「そりゃ大変だ」「まずどこから居なくなったんだ」両チームの選手が彼の元に駈け寄る。


荒々しく電話を切ると酷く焦燥した様子でその場にしゃがみ込んだダンパーロを取り囲み、周りが詳しい話を聞き出すと。

どうも娘のルルは自分から安全な自宅を抜け出して、一人で街に出掛けてしまったらしい。てっきり誘拐の類だと思っていた一部の層がほっと息を吐くが当の父親は全く安心していない。


彼が雇っている娘専属のボディガードから聞かされた話によると、兄弟二人と一緒に家の中でかくれんぼをして遊んでいたのだがどんなに探してもルルだけが見つからず何度も何度も室内を巡り、それでも発見できず途方に暮れていたところに自宅の電話に知らない番号から一件の苦情がきたのだという……

車が走るような道路を貴方のとこのアルビノの子が歩いているがどういう教育してるんだ、と。

それを聞いたボディガードの心情は察するに余りある。自分がついていたにも関わらず守れないどころか護衛対象が家を脱走していたことにすら気付けなかったのだから。


そして現在、迷子保護の要請を受けて出動した警察とボディガードが必死にルルの居そうな場所を目撃情報を頼りに探し回っているらしい。


「もう無理絶対無理試合出れない帰る俺もルル探さなくちゃ……監督っ!俺に家族のために今すぐ帰れって命令してください!」

「警察はもう出てんだろ。ならお前は大人しくボール蹴ってろ。アイツらは迷子探しのプロなんだからプロに任せた方が結果的に早いもんなんだ」

「そんなこと言われても無理だ…うっルルもし誘拐されたら暴漢に襲われでもしたらもしこっここ殺されたり……あああああ!!どうか無事でいてくれ……おお神よ我が子をお守りください……」


その日の試合で、一切ゲームに集中できていないダンパーロはシュートも外し殆ど使い物にならなかったという。



「今日もいいお天気ねーとってもいいくもりぐあい。まぶしーはれの日よりも……よし行こう!」


心配し過ぎた父親が抜け殻になっていた頃、娘のルルはそんな周りの心配はつゆ知らずサルファの街を楽しく散歩していた。人生初、家族とボディーガードなしでの外出に胸の高鳴りを覚えながら、両目を覆うサングラス越しでも分かる世界の全ての眩しさも、長袖の服越しに肌が日に焼けるじわじわとした痛みも忘れて遥か先まで広がる今をめいっぱい堪能中だ。


現在絶賛警察に指名手配中の彼女だがなにも初めから脱走するつもりがあったわけではない。

ただ、兄たちとのかくれんぼで隠れ先を探している時に二階の窓から庭に生えている木に飛び移れることに気が付いた。気が付いてしまったのだ。

そうだあの木の茂みの中ならバレないんじゃないか、そう閃き思い切って窓から飛んだルルは無事枝の一本に乗ることに成功し。枝に掴まって這って安定する幹近くの太い枝まで移動したときに見えたのだ、家の外が。親に手を繋がれていないと出られない世界が。

それは普段囚われのお姫様状態である彼女を強く魅了し外の方もルルをおいでおいでと手招きしていたため、太い枝から細い枝へと這って外に近付き更にジャンプし家の塀の上に乗るとそのままえいやと脱走した。ルルは脳内で語る……これは家出ではない。外が私を呼んでいただけだ、と。内心親に怒られそうな気もしているので何度も自分に言い聞かせていた。


「お姉さんたちこんにちはー」

「こんにち……え?」


住宅地に位置する区域のため人通りはまばらで、たとえ子供が一人で歩いていてもチラリと見るだけで声をかけてはこない。

そこからとてとて歩いて辿り着いた寂れた商店街。殆どがシャッターで八百屋と呉服屋くらいしか開いていないが、特別感のある商店街のゲートをくぐってテンションが上がったルルは自分から誰かに話しかけたくなり、電柱の下で井戸端会議中だったおばさんたちの輪の中に混ざり込んだ。


「いいお天気だねぇピカピカ!」

「えー?どんよりとした曇りじゃないのこれじゃ洗濯物が乾かないわ」

「くもりだとかわかないの。こんなにまぶしーのに大変ねぇ」

「別に全然眩しくなんて……あ。あー…そうね、眩しいわね今日も」

「ねー!」


帽子も日傘も装備していないためすぐにダンパーロの娘だと気付いた奥様方は、挨拶してきた真っ白なルルの頭を水晶のように撫でながらそれとなく周りを見渡す。しかし家族もカメラも見当たらない。何かの撮影でもないようだ。


「んー…?でもなんでこの子ここにいるの……?ダンパーロもルーニャさんもいなくないかしら」「やっぱり見当たらないわよね?私の気のせいじゃないわよねっ」「あちゃあこりゃ迷子なっちゃったヤツかなぁ」

ママ友同士でこそこそと話し合い確認する。

そして三人で目を見合わせ頷くとグループのリーダーで商社マンの奥さんギャリアナが代表して、ルルの前にしゃがんで質問した。尋問タイムである。


「ルルちゃんまだ小さいのに子供だけなんて変ね。お父さんはどこかしら」

「え?ダディはねーたぶん今くらいの時間だとねぇサッカーしてるのかも」

「じゃあお母さんはどこ?」

「ママはおうちでおしごとしてるよ。なんかね、あーいそがしいそがしーって言ってた!だから大人しくおにぃたちとかくれんぼしてたんだもん。ふふっそうだったかくれんぼ…ふふふっお外に出たルルはぜったい見つからない…さいきょーなんだなぁ」

「……。」


かくれんぼ勝利確定でご機嫌なルルが自らそう供述し脱走犯であることが確定した。全然大人しくできていない問題児を前に女性たちは我が子のことのように困った顔で接する。


「あらあら大変!早くおうちに帰りなさいなきっとお母さんも心配してるわよ。えっと、ルルちゃんのおうちはねこの坂を真っ直ぐ上がって突き当たりを右に曲がった先を進んで左側よ」

「メリーさんルルちゃんはまだ4歳なのだし私たちで送った方がいいわ」

「ああそうね」


金髪の奥さんが手に持っていたエコバッグを肩にかけてから迷子の手を繋ごうとしたがぬるりと躱される。

子供特有のおててイヤイヤだと思い進行方向に優しく背中を押す方向にシフトチェンジするも、少女は数歩前に歩いて近くの電柱にへばりつくとびくともしなくなった。


「イヤ!わたしお買いものに来たの。だからかえらなーいぃー」

「ごねないのーこんなとこまで一人で来ちゃってもう。ちなみに商店街に何を買いに来たのかしら」

「えーっとね、えっとまずはあまいサクサクのおかしでしょーあとは」

「見つけましたよお嬢様あ゛ー!!!」

「わわっ!マドルクなんでどうしておもったよりはや」


お母さん秘伝の技が一つ。気を逸らす。あえて興味があるフリをして子供に自由に話させて電柱を抱く腕の力の方を緩めようとしていたとき、ボディガードのマドルクが鬼の形相で坂を駆け降りてきた。

驚いて悲鳴を上げた女性が咄嗟にカバンで身を守ってしまうほどの気迫と殺気を身に纏っている。


「お姉さんたちじゃあねわたしにげるねバイバイ!」

「逃がすか…ッ」


明らかにブチギレている彼の表情を見て慌てて逃げ出すルル。


「ちょっなんでボディガードからも逃げちゃうのかしら」「キャーッ誰かきてー警察~!」「ここに迷子がいますぅ捕まえてぇー!」

女性たちの悲鳴を聞きつけたパトカーのサイレンまで近付いてきたのでルルは緊急回避として裏路地に逃げ込む。遠くからそっちは危ないという声が聞こえたが、逃げることしか考えていない子供の頭には届かなかった。


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