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8. 龍の創りし世界

 夕方、和真は芽依を部屋に呼んだ。


「はーい! 呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」


 相変わらずノックもせず、飛び込んでくる芽依。


 和真はムッとしたが、今はそれどころじゃないのだ。


「来てもらって悪いね。ちょっと聞きたいことがあって」


「何? スリーサイズ? それはノーコメントよ」


 手でバッテンを作る芽依。


「いや、そんなんじゃなくて!」


「ふふーん、じゃ何? 恋の相談?」


 和真は芽依のテンションについて行けず、ふぅと息をついた。


「何なのよ? もったいぶらずに言いなさいよ」


 ニコニコする芽依。


「メタバースのさ、あのアバターのまま、ここに人を出したりできる?」


「は?」


 芽依は呆れ果てた顔で和真を見る。


「いやだから、例えば芽依のあの大人なアバターでここに出てこれるかってこと」


「できる訳ないじゃん。あれはコンピューターが合成してる像なんだから、リアルな世界じゃ目に見えないわよ」


「いや、それはわかるんだけど、もし、できるとしたらどういうことが考えられるかな?」


「だから、できないって!」


 不機嫌になる芽依。


「じゃあ、こう考えよう。もし、アバターのままの人がここに出てきたら、それはどういう可能性が考えられる?」


「まぁ、寝ぼけてるかドラッグのキメすぎだね」


 肩をすくめる芽依。


「ま、まぁそれもあるかもだけど、他には?」


「うーん、何しろ像を合成する仕組みがなきゃ無理なんだから、プロジェクターかなんかで投影とかじゃないの?」


「でもそれじゃ触れないよね」


「あったり前じゃない!」


「触れるとしたら?」


「え――――っ? 触れる像? それはもうここが仮想現実空間ってことよ」


「へっ!?」


 その投げやりな話に、和真は稲妻のような衝撃を受けた。


 そう、脳の中のもやもやしたものが全て一直線につながったのだ。


「それだ!」


 和真はパン! とローテーブルを叩き、お茶を入れたカップが倒れんばかりにガタガタと揺れる。


「へ? 何が?」


「ここは実は仮想現実空間だったんだよ!」


 興奮する和真をジト目で見ながら、


「何を馬鹿なこと言ってんのよ! ここは現実世界! ほら! 触ればプニプニ感じるでしょ? こんなの仮想現実じゃ無理よ!」


 そう言いながら和真の手を取って揉んだ。


「そりゃ、メタバースじゃ触覚は無理かもだけど、それはコンピューターの性能が低いからで、それこそ超超超スーパーコンピューターなら実現できるよね?」


「んー、今の人類じゃ無理だけど、それこそ宇宙人が作ったような凄いコンピューターがあったら……、まぁ、できなくはない……かな? でも、そんなのやる意味ないよ」


 肩をすくめる芽依。


「いや、龍なら……ドラゴンなら作れるはずだ……」


 目をキラキラ輝かせながら和真は宙を見上げる。


「ドラゴン……? 君、頭大丈夫?」


「いや、大丈夫! 芽依ありがとう!」


 和真はそう言って芽依の手をぎゅっと握りしめ、ブンブンと振った。


「こんなこと他の人に言っちゃダメよ? キチガイだって思われちゃうわよ」


「うんうん、言わない! 人間には言わない!」


 和真はドラゴンの仲間になれる可能性に胸が高鳴った。




       ◇




 芽依が帰った後、和真はスマホを駆使していろいろなサイトを読み漁った。この世界が仮想現実空間であるという説は実は割とポピュラーで『シミュレーション仮説』と呼ばれていて、テスラやスペースXで有名な実業家イーロン・マスクも信じているらしい。


「よし! いけるぞ!」


 和真はノリノリで調査を進めていくが、ネガティブな意見も次々と出てくる。要はそんな高性能なコンピューターは作れないし、動かすエネルギーもないというのだ。確かに地球を丸っとシミュレーションしようと思ったら地球の一万倍くらい大きなサイズのコンピューターが必要だし、そんなのを動かすエネルギーも用意できない。


「うーん、無理なのかなぁ……」


 頭を抱えていると、ある説が目に入った。『そもそも厳密にシミュレーションする必要はなく、人間が知覚できる範囲、観測機器が観測できる範囲だけシミュレートすれば計算量は劇的に減らせる』


「おぉ! これだこれ!」


 和真はさらに読み込んだ。結論から行くと十五ヨタ・プロップスの計算力、スーパーコンピューターの一兆倍の計算力があればこの地球はシミュレートできるらしい。なんと現実解だったのだ。


 和真はついにこの世界の真実にたどり着いたのだった。




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