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6. 手掛かりはヘアクリップ

「和ちゃん、ごはんよぉ――――」


 ママの声で目を覚ました和真は、ベッドから身を起こし、寝ぼけ眼で周りを見回す。


「あれ? 俺、寝ちゃってた? え? いつから……?」


 すっかり薄暗くなった部屋は、何事もなかったようにいつも通りだった。


 和真は一生懸命に思い出す。


 芽依にメタバースを案内してもらって、画廊に行って、変な男に絡まれて戻ってきて……。


「あれ? その後どうなったんだ? 芽依は?」


 和真はその後の記憶がすっぽりと抜けていることに気がついた。


 急いでスマホを見ると、LINEの未読がたまっている。読むと芽依もいつの間にか自宅にいて困惑しているらしい。


 いったい何が……?


 しかし、いくら思い出そうとしても何も思い出せない。飲みすぎた人が記憶をなくしてしまうというのはこういうことなんじゃないかと思ったが、さすがに酒など飲むわけがない。


 和真はいぶかしげな顔でバタリとベッドに横たわり、腕を伸ばした。と、その時、何かがチクリと手の甲に当たった。


 ん……?


 手探りで探すと、それは真紅のヘアクリップの破片だった。


「ん? 誰のヘアクリップだ……?」


 和真はジッとヘアクリップを見つめる。こんな物、つける人に心当たりなどない。しかし、この真紅の輝きはどこかで見覚えがある。金髪に着けたら似合いそうだ……。


「金髪……、え?」


 その瞬間、ブワッとすべての記憶が戻ってきた。


「あっ! これはあの娘の……、えっ!」


 和真は現実離れした戦闘の一部始終を思い出し、青ざめる。


「あれ? 夢だよな……? しかし、これは……」


 ヘアクリップを見つめ、混乱する和真。


 そして、ベッドから飛び降りると本棚に走った。丸く切り抜かれていたはずの壁はどこにも継ぎ目が見えないくらい完璧に元通りだったし、男と一緒に消えていったはずの本棚は何事もなかったようにそのままだった。


 和真は急いで隠しておいた薄い本を探してみる。


「あれっ!? ない!」


 芽依に見られた恥ずかしい本ではあったが、和真には宝物だった。


「な、ない……」


 和真は思わずひざから崩れ落ちた。


 あの女の子に没収されたに違いない。なんということだ……。


 しばらく茫然としていた和真だったが、一体何が起きたのか整理してみようと、ベットに戻り、考え込んだ。


「仮想現実空間の男がここへやってきて、不可思議な攻撃をして芽依が犯されかけた……んだよな」


 しかし、この段階で和真は頭を抱えてしまう。これが事実だとすると、仮想現実空間とこの部屋が地続きだというとんでもない話を受け入れざるを得なくなってしまう。リアルな現実がなぜ仮想現実空間と地続きなのか?


 それで、自称『龍』の女の子が出てきて撃破、その際に部屋を破壊して二人の記憶を消し、その後部屋は元通り。でもヘアクリップは回収し損ねたという経緯だった。


 そして本棚を元に戻すときに薄い本も回収されてしまった……、本当に?


 そもそも消し飛ばしてしまった床や壁、本棚がなぜ復元されているのか?


 これもまた想像を絶する話でどうにも理解不能だった。


 和真はふぅと大きく息をつくと、鋭く切り裂かれたヘアクリップの断面をなで、この奇妙な事件をどう考えたらいいのか途方に暮れた。




       ◇




 翌日、和真は東京の表参道に来ていた。ネットで調べたところ、ヘアクリップは有名なデザイナーの限定商品らしく、関東では表参道のお店でしか販売されていなかった。


 瀟洒(しょうしゃ)なお店が立ち並ぶ表通りから一本裏路地に入ると、小ぢんまりとしたアパレルやカフェなどがぽつりぽつりと並んでいる。そして、見えてきた一面ガラス張りの店構えにピンクのドア、お目当ての店だった。


 一旦通り過ぎながら中の様子をうかがった和真は、大きく息をつくと振り返り、ピンクのドアを開けた。




「いらっしゃいませ」


 くしゃくしゃっとした白いブラウスに、金属がチャラチャラとあしらわれた黒いスカートを履いた店員が和真をちらっと見る。


 明らかに場違いな自分に和真は思わず顔を赤くした。


 そして、意を決すると、ヘアクリップを見せて聞いてみる。


「あのぉ、これなんですけど、こちらの店の商品ですか?」


「あら、壊れちゃったのね。そうよ、うちのだわ」


 店員は淡々と答える。


「金髪でおかっぱの女の子の持ち物なんですが、ご存じないですか?」


「え? その子ならさっき来たわよ。同じの買っていったけど?」


「えっ!? ど、ど、ど、どっち行きました?」


 和真は思いがけない展開に、思わず挙動不審になりながら前のめりに聞いた。


「うーん、原宿駅の方かな? あっちよ」


「あ、ありがとうございます!」


 やはりあの子は存在していたのだ! 不可思議な力を行使した龍の女の子。


 和真はバクバクと心臓が激しく高鳴るのを感じた。


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