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23. 煌めくアカシックレコード

 うわぁ……。


 和真は見渡す限り続く巨大構造物の連なりに圧倒された。


 まるで化学プラントのように、巨大な黒い構造物からは無数のパイプが整然と上空の放熱パネルの方へと配されている。


 構造物の継ぎ目からは鋭い青い光が漏れ、それがあたり一面に見受けられる。金星の黄金の輝きと、その青のハーモニーは音のない世界で幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 科学技術が発展し尽くした先にある世界、それは全く想像を絶する景観を創り出し、その機能美は何もわからない和真の心にも鮮烈な印象を刻んだ。




 レヴィアは構造物同士をつなぎとめているジョイント部に取り付くと、小さなマンホールのようなハッチに手をかけた。


『多分、ここじゃろう』


 そう言いながらガチッと少し持ち上げ、中のロックを外すとそのまま引き上げた。


 ブシュー! っと威勢よく空気が漏れ出してくる。


 やがて勢いが落ちてくると、


『ヨシ!』


 と、レヴィアはハッチの中へと入っていった。




     ◇




 まるで換気ダクトのような狭い通路を四つん這いになってしばらく行く。元々人が入ることを考慮されていない設計のようだ。管理は機械が自動でやっているということかもしれない。


 レヴィアは突き当りのハッチを力いっぱい開け、中を確認すると、


「ヨッシャー!」


 と、興奮しながら中へと進んでいった。




 中をのぞいて和真は驚いた。そこには二メートルくらいのクリスタルの立方体が無数に整列され、まるで巨大倉庫のようになっていたのだ。クリスタルの中にはキラキラと微細な光の流れが縦横無尽に行きかい、まるで上質な宝石を思い起こさせる。


「これがアカシックレコード。一つに地球上の出来事一か月分が入っておる」


 ドヤ顔で説明するレヴィア。


「す、すごい!」


 人類の歴史、地球の歴史がこんな宝石の中に丁寧に格納されているとは想像もしなかった。この中には織田信長、始皇帝、クレオパトラなど過去の偉人全員の言動が全て残っているということだ。それはとんでもない事ではないだろうか?


 和真はしばらく無数のクリスタルのきらめきを呆然と見つめていた。




「ヨシ! Fの23532を探せ!」


 と、言って、レヴィアはツーっとクリスタルへと飛んだ。


「え? どういう順に並んでいるんですか?」


「我に聞くな! 考えろ、もう残り時間わずかじゃ」


 そう言いながら表面を観察するレヴィア。


 和真とミィもクリスタルをじっくりと見るが、番号も何も書いてない。


「レヴィア様! 番号どこですか?」


「うーん、分からん! なんじゃこりゃ! あと十分しかないのに!」


 レヴィアもお手上げだった。


 


「管理機構は一般のモジュールとは違わないかにゃ?」


 ミィがレヴィアを見上げる。


「む、それはそうじゃな……。しかし、特別なモジュールとはどんなもんじゃろう……」


 レヴィアはそう言いながらツーっと飛んでモジュールを観察していく。


「色が違うとかつなぎ方が違うとかですかねぇ?」


 和真も別のところを飛んでいく。


 すると、明らかに光り方が違うモジュールが一つ、奥の方に煌めいている。


「あ……、こ、これかも?」


 人類を救うカギを見つけた和真は、レヴィアを呼ぼうとしてふと、今、八十億人の生殺与奪の権利を握った事に気が付いた。そう、世界を滅ぼす権利を今和真は手中にしたのだ。あのモジュールを隠し通すだけで世界は滅ぶ。


 和真は背筋にゾクッと今まで感じたことのない甘美な波動を覚えた。


 パパを殺してしまったと感じてしまってから六年、人生の歯車はすっかり社会から切り離され、置いてきぼりに放置されていた和真。いじめを受け、劣等感にさいなまれ、出口の見えない苦しみの中で何度社会を恨んだだろう。もちろん上手くやるやり方はあったかもしれない。しかし、心は理屈では動かない。どす黒い感情を持て余し、日々ベッドで心の刃を研いでいた。


 今、すっぱりと地球とはおさらばしてもいいのではないだろうか? そんな甘美な思いが脳裏をこだまする。


 和真はジッと黄金色に輝くクリスタルを見つめた。ドクドクと上がる心拍数。額には冷汗が浮かび上がる。


『和ちゃん!』


 その時、ふと、芽依の声が聞こえたような気がした。


「えっ!?」


 和真は急いで辺りを見回すが、芽依がいる訳がない。そして和真は正気を取り戻す。そう、自分の弱さに流されてはいけない。世界は守るものだ。芽依のため、ママのため、そして未来の自分のため……。


 和真は大きく息を吸うと叫んだ。


「レヴィア様! 変なのがある!」


「む? どれどれ?」


 レヴィアはすっ飛んできて和真の指さす先を見る。




「これ、ですかね?」


「むぅ……、怪しいが……どうやって確かめたらいいか……」


「アクセスしてみたらどうかにゃ?」


 ミィは不思議そうにクリスタルをなでながら言った。


「おぉ! そうじゃな!」


 レヴィアはポケットからスマホを取り出すと、パシパシと叩いた。


 すると、スマホタップに連動して青い光がパシパシと応答する。


「おぉ! これじゃ、これじゃ! ヨシ! 引き抜け!」


「引き抜くって……どうやって?」


「知らん! あと一分しかないんじゃ、力任せに引っ張れ!」


「もう一分!?」 


 和真は驚き、急いでクリスタルに手をかける。自分が余計なことを考えたせいで事態を深刻に悪化させてしまった。和真は罪滅ぼしの意味を込めて全力でクリスタルを引っ張る。


「ヨシッ! せーのっ!」「せーの!」


 しかし、ビクともしない。とても引き抜けるとは思えなかった。


「ダメですよぉ!」


「泣き言なんて聞きたくないね! 全力出しな! そーれっ!」


 レヴィアも真っ赤になって凄い形相で引っ張っている。


 地球廃棄処分まで残り数十秒、絶望が和真の脳裏をよぎる。思い上がっていたさっきの自分を殴りたい気分で思わず涙が湧いてくる。




 すると、ミィが隣のクリスタルとの隙間にするすると入っていく。


「ミィも手伝ってよぉ!」


 和真が叫ぶと、


「これじゃないかにゃ?」


 そう言って、奥の接続部のレバーを押した。


 バシュン!


 軽快な音を放ってクリスタルは浮き上がり、激しく煌めいていた光がふっと消える。


「おぉ! でかした!」


 レヴィアは思わずガッツポーズ。そして、急いでスマホで連絡を取る。


「予定通り、作業完了です! ついては廃棄処分の撤回を……。はい……、はい……」




 和真はミィを抱き上げて思いっきり頬ずりをした。


「ミィ! ありがとう!」


「きゃはぁ! くすぐったいにゃ!」


 和真はポロリと涙をこぼし、瞬きと共にしずくが無重力の空間を舞う。


 キラキラと光を放ちながらしずくがしばらく宙を踊っていた。



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