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2. 宇宙へ伸びる滝

「はい! これ着けて!」


 着替えて戻ってきた仏頂面(ぶっちょうづら)の和真に、芽依はヘッドマウントディスプレイを渡した。目を覆うごついガジェットで、これを装着すれば仮想現実空間にダイブできるのだ。


「かぶるだけで……いいのか?」


 和真は恐る恐る受け取り、バンドを引っ張って具合を確かめる。そして不慣れな手つきでディスプレイを装着した。


「うわっ! なんだこれ!?」


 視界全面に展開される、宇宙船の内部のような映像に和真は声を上げる。その高精細な映像は首の動きに追随して動くので、まるで自分が宇宙船の中にいるような錯覚に襲われた。


 すると、向こうの方から可愛い女の子のアバターが近づいてきて手を上げる。白を基調としたぴっちりとした服は豊満な胸を強調し、オレンジ色の鮮やかなラインが入ったスニーカーを履いている。


「はぁい!」


 和真が戸惑っていると、


「これが私よ?」


 そう言ってウインクした。


「め、芽依? 随分と……」


「随分と何よ?」


 そう言いながらモデルのように体をくねらせ、胸を強調しながらポーズを決める芽依。


「お、大人だなって」


 つい、その豊かな胸に目が行ってしまう和真。


「ふふっ。大人な私もいいでしょ? 和ちゃんも慣れたら自分のアバターをいじってみるといいわ」


 と、ニヤッと笑った。




 和真が操作方法を試行錯誤してると、


「さぁ行くわよ!」


 と、芽依のアバターはすたすたと向こうの方へ行ってしまう。


「あっ! ちょっと、待ってよぉ!」


 和真も急いでよたよたしながら追いかける。




 通路の向こうは広いホールのようになっており、個性的に着飾ったアバターが行きかっている。そして、壁のそばにはきらびやかな映像のパネルが空中に何枚も並んでいて、まるで美術館のようだった。芽依はそのうちの一つの前で止まる。


「最初はここのワールドにしましょ」


 そこには美しい水の街が映し出されており、中央に【Enter】というボタンが浮いている。


「ま、任せるよ」


 そんな気おされ気味の和真を見て、芽依はいたずらっ子の顔でうなずく。そして和真の手を取ると、ボタンを押した。


 ピュン!


 という効果音とともに真っ暗になり、キラキラとした光の筋がゆるやかに流れはじめる。そして、【|Immigration《入国審査》】という文字がふんわりと浮かんできて赤く点滅した。




「うわぁ……」


 和真はキョロキョロしながら自分の周りを覆うきらびやかな幾何学的な光の筋のアートに見入った。




 直後、


 ビュヨン!


 と、いう音が響いて一気に視界が開け、青空が広がる。


 そこは水の街の上空、何と空中だった。


「おわぁ!」


 思わずわたわたと手足を動かしてしまう和真だったが、別に落ちるわけでもなくふわふわと浮かんでいる。


「きゃはは、仮想現実なんだからあわてなくても大丈夫よ」


 芽依は楽しそうに笑い、和真は顔を赤らめて頭をかく。




 そこは絶景だった。眼下には湖のほとりに作られた中世ヨーロッパ風の石造りの街が広がっている。街には水路が縦横無尽に通っており、ヴェネツィア風のゴンドラが行きかう。そして圧巻なのが、街の中央の池から上がる水の柱【スカイフォール】。それは下の方が太く、それが徐々に細くなっていきながら、どこまでも澄んだ青空を突き抜けて宇宙にまで達していた。




「うはぁ……。あれ、どうなってんの?」


 まるで宇宙エレベーターのように、はるかかなた上空まで続く水の柱は、限りなく透明で清らかな(あお)色を放っている。


「行ってみましょ!」


 芽依はニコッと笑うと、和真の手を握ったままツーっと空中を飛ぶ。


「うわぁ!」


 まだ空中での姿勢の取り方に慣れない和真は、バランスを必死に取りながら、芽依に引っ張られていく。




 スカイフォールに近づくと、思ったよりも大きく、そのスケールは圧巻だった。タワマンくらいの太さのある、清らかな青い水の柱が一直線に宇宙までつながっているのだ。燦燦(さんさん)と輝く太陽の光に照らされて、表面がキラキラと輝き、美しいアクセントとなっている。


 そして、近づいて分かったのだが、水はゆっくりと上空へ向かって流れている。つまり、池から宇宙に向かって水が吸い上げられているのだった。


「うわぁ……」


 和真は圧倒されながらその澄んだ水に手を伸ばす。すると、ビュヨン、と音がして入口がぐわっと開いた。


「え!?」


 予想外の展開に驚く和真。


 芽依はニヤッと笑うと、


「さぁ行きましょ!」


 と、和真の手を取って中へと案内した。



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