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14. FIREなチタンカード

 席で待っていると生ビールのピッチャーとお茶が出てきた。


 レヴィアは小皿にビールを少し注ぐとミィに差し出す。


「え? ミィはビールなんか飲まないよな?」


 和真はミィに聞いたが、


「ビールは至高の飲みものにゃ」


 と、嬉しそうに受け取った。


 首をかしげる和真をしり目に、


「それじゃお主らを歓迎してカンパーイ!」


 と、レヴィアはピッチャーを高く掲げた。


「カンパーイ」「乾杯にゃ」


 レヴィアはピッチャーを傾けゴクゴクと景気よく飲んでいく。


「え? まさか?」


 和真が驚いている間にもどんどんとビールは減っていき、あっという間に飲み干してしまった。


「カ――――ッ! 美味い!」


 レヴィアは目をギュッとつぶって幸せそうに叫ぶ。


 思わず和真はミィと顔を見合わせ、二人して首をかしげた。


 この小さな女子中学生のような体のどこに消えていったのか、和真には見当もつかなかった。ただ、本体があの巨大なドラゴンだとしたらピッチャーくらい大したことないのかもしれない。




        ◇




 レヴィアは山盛りの大皿で出される肉をそのままロースターにぶち込み、ほぼ生のまま次々と貪っていく。


 やがて、チラッと和真を見てニヤッと笑うと、


「焼いたのも一口食わせろ」


 と、和真が大切に焼いている肉に手を伸ばす。


「ここの肉はダメです! 私とミィのですからね!」


 和真は箸でロースターの一角を死守する。


「ケチ臭いのう……」


 渋い顔のレヴィア。


 そして、おもむろに大きく息を吸うと、紅蓮の炎をいきなり肉の山に吹きかけた。


 ゴォォォォ! と轟音が上がり、まるで火炎放射器を浴びたように一斉に肉の油がバチバチとはじける。


 うわぁ!


 和真は驚いて飛びのいた。




「ほれ、焼いてやったぞ。もってけ!」


 レヴィアはさも当たり前かのように、表面が焦げた肉を取って和真とミィの皿に盛っていく。二人はまだ煙の上がる肉を見て、渋い表情で顔を見合わせた。




          ◇




「お、そうだ、忘れとった。ほれ、お主のじゃ!」


 ピッチャーも五杯目となり、調子が上がってきたレヴィアは懐から黒いカードを出すと和真に渡した。


 それは精緻な模様の彫られたチタン製のクレジットカードだった。表面には和真の名前が浮彫されている。


「え? なんですかこれ?」


「うちの社員証兼、利用限度額なしのチタンカードじゃ。好きなもの何でも買っていいぞ」


 そう言ってレヴィアは美味そうにピッチャーを傾ける。


「え? 何買ってもいいんですか?」


「お金なんてただの数字じゃからな。フェラーリでもクルーザーでもフランクミューラーでも好きなもの買え」


「え? や、やったぁ!」


 一瞬にして和真は億万長者になってしまった。シングルマザーで苦労かけてきたママにも楽になってもらえる。和真はいきなりやってきたFIREな人生に何度もガッツポーズを繰り返す。


 そして、地球を創り出し、管理するということの圧倒的な意味を今更ながら実感し、全身に鳥肌が立つのを感じた。




「ただ、明細は我がチェックするからな。おネェちゃんの店とか通ったらバレるぞ!」


 くぎを刺すレヴィア。


「い、行きませんよ! そんなところ!」


「おネェちゃんと飲みたくなったら我を呼ぶんじゃぞ。奴らよりキレイじゃからな」


 レヴィアは腕を頭の後ろに回し、ポーズを決めるとウインクをした。


 しかし、美少女ではあるものの色気はない。


「レヴィアさんはちょっと若すぎですよ」


「おや? お主の愛読書に出てきてたのはもっと幼かったようじゃが……」


 意地悪な笑みを浮かべる。


「そ、そうだ! 本を返してくださいよ!」


 真剣になって叫ぶ和真。


 するとミィが、


「何の本かにゃ?」


 と、不思議そうな顔で和真を見上げる。


「何の本かにゃ?」


 レヴィアは真似をする。


 和真は真っ赤になってうつむいて言った。


「なんでも……、ないです……」




       ◇




 特上カルビをしこたま食べて、満腹になったお腹をさすりながら和真は聞いた。


「それで、テロリストはどうやって探したらいいですか?」


 焼くのが面倒くさくなったレヴィアは、生肉をつまみながら答える。


「ん? 奴らは今、拠点をメタバースに移しとるからな、メタバース内でおとり捜査じゃな」


「おとり捜査?」


「奴らにも活動資金が必要じゃ。じゃが、リアルマネーは我々がキッチリ監視しとるからこの世界ではなかなか稼げんのじゃ」


「それで、メタバース内で稼いでいるんですか?」


「そうじゃ、詐欺で仮想通貨を盗んだり、やりたい放題やっとる」


 肩をすくめるレヴィア。


「詐欺……ですか……」


「奴らも盗んだ仮想通貨はさすがに使えん。マネーロンダリングが要るんじゃ」


「マネーロンダリング……?」


「要は正当な売買行為を通して善意の第三者を装うんじゃな」


「なるほど! その売買行為を見つけ出して捕まえるってことですか?」


 和真はひざをポンと打った。


「そうじゃ、隙を見せて怪しい取引を持ち掛けて来る奴を誘うんじゃ」


「ふむ……。しかしどうやって……?」


「それを考えることもお主らの仕事じゃ」


 レヴィアは丸投げしてピッチャーをぐっと傾けた。


「……。だとしたら協力者呼んでいいですか?」


「あの……、娘か?」


 ニヤッと笑うレヴィア。


「そ、そうですけど……」


 和真は顔を赤くしながら答えた。


「あの娘、可愛いからのう……」


「か、可愛さは関係ありません! 彼女はメタバースですでに画廊も持ってるんです」


「うーん、わかった。仲良くやんなさい。その代わり絶対捕まえるんじゃぞ!」


 レヴィアは真紅の瞳をギョロリと光らせる。


「もちろん、パパの仇! 絶対取ります!」


 和真は負けずに決意のこもった目でレヴィアを見返した。




       ◇




 その晩、和真はベッドの中で、何度も突き落とされていったパパの姿を思い返していた。絶叫しながら真っ逆さまに荒波の中へと消えていったパパ。それは和真の心臓をキュゥっと締め付ける。


 世界を混乱に陥れるにっくきテロリスト、ゲルツ。白衣を着たあの男だけは絶対に許さない。この手で必ず仇を取ってやる。


 和真は布団の中でギュッとこぶしを握った。




「パパ……」


 やがて薄れていく意識の中でつぶやき、涙がツーっと枕にしみていく。


 座布団の上で丸くなっていたミィは静かに目を開けると、ベッドにピョンと飛び乗った。そして、毛布をそっと整え、和真の隣に潜り込む。


 月明かりがモスグリーンのカーテンをほんのりと照らしていた。


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