第66話 悪女の瞬間
「え?え?フェ、フェリシアッ?!お、お、お、お前何故今頃こ…ここにっ?!」
デニムは余程驚いたのか、噛みまくっている。
「里帰り中に何やら大層な書類が届いたので、戻って参りました。あら?お取込み中でしたか?」
私は素早くブレンダ嬢と視線を合わせた。
「ああ取り込み中だった!でも丁度良かった。ブレンダ嬢。紹介するよ。あそこに立っている美しい女性が俺の大切な妻フェリシア・コネリーなのだ」
デニムは必死になって私に目配せしながらブレンダ嬢に紹介する。全くどの面下げて私の事を美しい女性だとか、大切な妻だと抜かすのだろう?いや、そもそもあんなに失礼極まりない手紙に離婚届を勝手に送り付け、挙句にず~っとデニムの周りに張り付いてたこの私に気付かないとはもはや愚か者としか言いようがないだろう。
「初めまして、フェリシア・コネリーと申します」
「初めまして、ブレンダ・マーチンと申します」
私達は打ち合わせ通りの挨拶を交わした。
「ところでブレンダ様は此方で何をされているのですか?」
私はデニムを無視してブレンダ嬢に話しかけた。
「おい?フェリシア?」
デニムが焦ったように私に声を掛けるが聞こえないふりをする。
「はい、私は只今デニム様とお見合いの真っ最中なのです」
「まあ!お見合いですかっ?!」
大袈裟に驚く。
「違うっ!これは誤解だっ!」
苛立つデニム。
「はい。デニム様はお見合いの募集を掛けたのです。離婚が成立したので、この度新しい妻を探しているとの事でした。私は実は密かにデニム様を慕っておりましたのでこれはチャンスと思い、喜んでお見合いに応募させて頂き、本日デニム様からお見合いの場を設けて頂いた次第です」
「違うっ!メイドが勝手にやった事だっ!」
デニムが喚くが、無視してブレンダ嬢と会話を続ける。
「まあ、デニムからお見合いの場を設けて頂いたのですね?」
「はい、それなのにデニム様!奥様とは離婚されていなかったのですねっ?!私を騙したのですねっ?!」
おおっ!ブレンダ嬢の迫真の演技!女優顔負けだっ!
「ああ!そうですよっ!俺とフェリシアは夫婦なんですっ!」
「いいえ、もう違いますよ」
私は静かな声で言った。
「…え?」
デニムが私の顔を見て固まった。あ、顔面真っ青になっている。
「フェリシア…お、お前…今何て言った…?」
私は手にしていた封筒から1枚書類を取り出すとデニムに向けた。
「デニム様。これが何かお分かりですか?」
「何だ?それは…ああっ?!か、貸せっ!!」
デニムは立ち上がり、私の方へずかずかとやって来ると手から書類をひったくり、全身を震わせた。
「こ・こ・これは…!!」
それは私とデニムの離婚届を受理したと記載された裁判所からの通知の書類だ。実は昨日、すでに役所に記載した離婚届を提出しており、本日付で離婚が成立するように受理してもらっていたのだ。
「はい、そうです。私はこれで貴方とはもう夫婦ではありません。念願の独身に戻れたのですから、どうぞお見合いを続けて下さい。あ、でも言っておきますが…これ以上別の女性とお見合いをするのは不可能ですからね」
「ええ、そうです。デニム様はもう私以外の令嬢とお見合いは無理です」
私の後にブレンダ嬢も続ける。
「な、何だってっ?!それはどういう意味なんだっ?!」
余程頭に血が上っているからなのか、それとも根っからの阿保なのか、デニムは私とブレンダ嬢の会話で、私達が結託していることに気付いていないようだった。
「デニム様?何故もうこれ以上他の令嬢達とお見合いするのが無理なのか…教えて差し上げましょうか?」
私は腕組みをし、デニムを見た。
今、この私はデニムから見れば恐らくとんでもない悪女に見えている事だろう。
ああ、なんていい気分なんだろう。
私はにやりと笑みを浮かべた―。




