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第58話 泥棒デニムを見張るため

 その夜の事―


またこの格好で阿呆の部屋に行かなければならないとは思わなかった。

私はがっくりため息をつくと、目の前の扉を恨めしそうに睨みつけた。この扉の奥にはあのクズデニムがいるのだ。憂鬱でたまらない。


「はぁ〜…」


もう一度ため息をつくと、私は扉をノックした。


コンコン


ガチャッ!


「わっ!」


ノックしたと同時に目の前の扉がいきなり開かれたので驚いてしまった。勿論扉を開けたのは馬鹿デニムである。まさかこの男扉の前で待機していたのか?だとしたら…気色悪っ!


「こんばんは。デニム様。お呼びでしょうか?」


いやいや愛想笑いをする。


「あ、ああ。待っていたぞ、メイ。まぁ、中へ入れ」


「はい。失礼致します」


嫌々部屋の中へ足を踏み入れて驚いてしまった。何と部屋の中央に置かれた楕円形の大きなテーブルセット…私の自室にあったテーブルセットではないか!しかも、アンティーク家具で一番お気に入りの!大切な!テーブルセットが!あの家具は高級ブナの木材で作られているから絶対にあのテーブルでは飲食をしてこなかったのに…何故かテーブルの上にはグラスに注がれたワインにボトル、そしてここからはよく見えないけれどもお皿の上には何やらおつまみが乗っているではないか。極めつけは大きな花瓶がのせられ、色とりどりの花々がさしてある。もしあの花瓶が倒れてテーブルの上が水浸しに鳴ったらと思うと気が気ではない。あのテーブルセットは値段が付けられない程価値が高いのに…!


おのれ、泥棒デニムめ…!先に奪ったテーブルセットだけでは飽き足らず、またしても盗みを働くとは…今すぐ蹴り飛ばしてやりたい位だ。

怒りで肩を震わせているのに何を勘違いしたのか、デニムが上機嫌で声を掛けてくる。


「そうか、やはりお前もアンティーク家具が好きなんだな?この家具をあの部屋から移動させて本当に良かった。今夜は2人であのテーブルで前祝いのワインを飲もうと思ってお前を呼んだんだ」


「…そうですか、でもデニム様。これは奥様のテーブルセットですよね?こんな勝手な事をしてよろしいのでしょうか?」


「ああ、構うことはない。もうすぐあいつとは離婚するのだから。」


「でも、この家具は奥様のものですので離婚したら返さなければなりませんよ?」


「まぁ、別に返してやってもいいけどな。こんな古びた家具、俺は少しも興味がないし。今夜はお前と高級ワインを飲もうと思ってわざわざあいつの部屋からこの家具をここに運ばせたのだから」


デニムの話を聞いて想像してしまった。私の大切な仲間たちが一体どんな気持ちでこの家具をこいつの部屋に運ばされたかと思うと…ますます怒りが積もってくる。


「まあ、そんな話はどうでもいいだろう?今夜はヴィンテージもののワインを用意したんだ。何と30年ものだぞ?」


デニムはテーブルに近づき、ワインを手に取ると瓶をなでながら言う。


30年もののヴィンテージワイン…。

私はデニムが手にしているワインをじっと見た。まぁ、折角の誘い。ご相伴に預かってもいいかもしれない。それにこのテーブルを物の価値も分からないような間抜け男に汚されないように見張っておくのも手だろう。などと自分に言い聞かせ、あまり乗り気がしない、お酒の誘いに私は乗ることにした。


でもまさかこの後に衝撃的な展開が訪れるとはこの時の私には知る由も無かった―。




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