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新学期初日

「おーい! 透司郎〜!」

 不意に後ろの方から俺の名前を呼ぶ声がして、俺は足を止めてそちらに振り向く。

 するとそこには、一年生の頃から仲のいい左津龍河がいて、俺は笑顔で挨拶をかわす。

「おう、おはよう、龍河」

「おはよう、透司郎。久しぶりだな」

「ああ」

 間も無く龍河は俺に追いついてきて、俺たちは二人並んでいつもの通学路を歩き出す。

 四月のガードレールの隙間に、二人分の足が並んで動く。

 龍河が言う。

「あ〜あ、今日からまた学校かぁ……面倒くせえなぁ」

 俺は鼻で笑って龍河に答える。

「なんだよ、そんなこと言って、学校がなかったらなかったで『あ〜あ、学校なくてつまんねえなぁ』とか言うじゃねえかよ、お前……理不尽だなぁ」

「それはそれでいいんだよ、ばーか。だって事実じゃん。学校がなかったらそれはそれでつまんねえし、学校があったらあったで今度は面倒くさい。それはどっちとも紛れもない事実で、だから俺は間違ったことは言ってない。だろ?」

「はいはい、へりくつ」

「なんだと、この」

「いてて、やめろよ」

「ははは」

 龍河につつかれて俺が笑って抵抗すると、今度は龍河もそれでいっそう楽しそうに笑う。

 いつもの俺たちのやりとり……龍河とはいつもこんな感じだ。

 左津龍河とは、中学に入ってから知り合った。

 それまでは同じ地区に住んでいながらお互い顔も知らなかったが、中学で初めて会った俺たちはあっという間に意気投合し、仲良くなった。龍河は陽キャのイケメンを地で行く人間で、クラスメイトからの人気も高いし、見た目も格好いい。ちょっとおちゃらけてる性格も本人の人の良さもあってほとんどの人から受け入れられてるし、堂々と校則違反を犯して髪の毛を金髪にしてるのもなぜか許されてしまう、ザ・イケメンだ。実際学校内での人気もかなり高く、しょっちゅう上級生なんかからも告白を受けているし、初めて会った時は『ほんとにこんな人間存在したのか』と結構驚いたもんだ、俺も。それでもそんな人気者に対してなんのそねみ、ねたみも持たずに話せるのは、やっぱりこいつの性格が良いからなんだろう。実際『龍河』なんて名前がなんの違和感なくしっくり馴染むのもこいつぐらいのものだと思う。ほんとにすごいやつだ。

 そんな龍河は春休みの部活動の愚痴を、やっぱり性根の良さをにじませる笑顔で、楽しそうに俺に言う。

「――でさ、お前が休んでる間に四中のバスケ部と練習試合やったんだけどさぁ、これがまたひでえのよ。四中のファウル攻勢にえっちんすぐキレるしさ、挙げ句の果ては顧問のヨダせんまで『キレるな、えっちん! むかつくことがあったらそれはプレイで表現しろっ! わかったかっ!?』なんて、よっぽどヨダせんの方がブチ切れた声で怒鳴るしよぉ、しかもイス蹴りながら。信じられる? もう最悪な練習試合だったよ。マジで透司郎いないとうちの部どうにもならんて。ヨダせん含めて」

「ヨダせん、『人のフリ見て我がフリ直せ』の天才反面教師だもんなぁ。反面すりゃいいじゃん」

「なんだよ、それ。俺が反面しても仕方ねえっつの。えっちんだよ、えっちん、問題は。あとはヨダせん」

「まあな」

 龍河の愚痴を聞いても特に不快に思わないのは、やっぱり龍河が心の底ではえっちんのこともヨダせんのこともちゃんと好いているとわかるからなのだろう。

 そういう気持ちを感じる奴からの愚痴は、不思議と不快さを感じさせない。

 だから俺も龍河とは自然体で話をすることができるのかもしれないが。

 龍河がモテる一番の理由も、顔でも性格でもなくて、そういうところだと俺は思う。他人に対して素直に好意を持てるというその一点、もしかしたらそれが、人間にとって一番大事なことなのかもしれないと、龍河を見ているとしばしば感じる。

「マジでさっさと部活復帰してくれよ、透司郎。じゃないと俺、ほんと死んじゃうぜ? みんなの板挟みになって。ストレス死。圧迫死。わかる? いやよ、俺。そんな死に方……あっ」

 しかし楽しげに話していた龍河の表情が、『死に方』とまで言ったところで急にピンと固まる。

 そして『ああ……やっちまった』と言わんばかりに申し訳なさそうな表情をして、俺に言う。

「……わりい、透司郎」

 ちょっと俯いて、本気で申し訳なさそうに目を伏せる。

 そんな龍河に俺は、龍河のかわりにおちゃらけた笑顔をして返してやる。

「ばーか、気にしてねえよ。つか変に気にすんなよ。そっちの方が逆に気をつかうわ」

「……おう」

 それからも俺たちは二人並んで談笑しながら、学校までの道のりをゆっくり歩いて行った。

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