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月紗

 ベッドに横になって布団をかぶった私は、今激しく後悔をしていた。

「……なんでこんなことしたんだよ、急に。俺、何かしたか?」

 透司郎さんのその問いを、私は寝たフリをすることによって、なんとかやり過ごした。

「すう……すう……」

 意識的に透司郎さんに聞こえるように寝息を立て、「ごめんなさい、神薙ノ彌月沙、もう寝ちゃってます」アピールを全力でした。というのも、今更ながら自分がめちゃくちゃ恥ずかしいことをしているということに気づいたからだ。私に気遣って必死に「自分はソファでいい」と言う男の子を、無理やり一緒のベッドに誘った挙句、あまつさえ謎の文句まで浴びせるなんて……

『いい加減にするのは、透司郎さんの方です! なんでそんなに私に優しいんですか。これじゃ、神様の立場、ありません! もう黙ってついてきてください!』

 はあ……

 自分のことながら、なんであんな言い方をしてしまったんだろうと、大きなため息が出てしまう。心の中で。

 変だな、私……透司郎さんの前だと、いつもの私でいられない。いや、いつもの私なんて、もう全然わからないけど。とにかく私のわがままで透司郎さんに余計迷惑をかけてしまって、穴があったり一目散に入りたい……今はまさに、そんな気持ち。

 ごそごそ。

 背後で透司郎さんがどうやら寝返りを打つ。

 たぶん今は、私と透司郎さんで背中合わせになっている。

 なんとなく、見なくてもわかる。

 透司郎さんの気配がほんの少し遠くなって、ちょっと安心して、でもやっぱりなんか寂しくなってしまう。ああ……私本当にわがままだ。どうしてこう、うまくいかないのだろう。なにもかも。自分のことも、透司郎さんのことも。

 すう……すう……

 透司郎さんの吐息が、聞こえる。

 初めて聞く男の人の寝息は、少し大きい。

 肺活量が多いからだろうか?

 透司郎さんの寝息は、私のものより幾分大きかった。

 …………ん?

 とそこで、不意に私は気づいてしまう。

 初めて……?

 ん、初めて!? 

 あれ、もしかして私、もしかしなくても私って、男の人と一緒に寝るなんて、初めてのことなんじゃ!?

 その今更な事実に気付いて、私は俄然焦り出す。

 気付いてしまうと、途端に心臓はバクバク音を鳴らし始める。

 初めて……初めて男の人と、一緒に。

 その事実をより鮮明に認識すればするほど、体は熱く、鼓動は抑えきれないほど速さを増してくる。首筋を汗がつたり、思わず呼吸が乱れそうになる。

 でもダメだ。絶対に今、呼吸を乱してはいけない。

 今私に不審な動きがあれば、実は寝たフリをしていたということが、透司郎さんにバレてしまうっ! それだけはなんとしても避けないと!

 しかし意識しても呼吸は、むしろ意識すればするほど、私は自然な風に呼吸をできなくなってしまう。意識すればするほど私の肺は変な風に空気を取り込み、どんどん胸が苦しくなっていってしまう。それでも私は耐えた。なんとか透司郎さんに寝たフリを悟られまいと、必死に自然な寝息を演出した。

 ――けれど、

 ごそごそ

(――っ!?)

 タイミング悪くも透司郎さんが再度寝返りを打ってこっちを向いてしまい、私の心臓はもう破裂寸前だ。さっきまで遠かった透司郎さんの気配が一気に近くなって、背中全体に透司郎さんの存在を感じて、もう本当に私は自然な演技を取り繕うのも限界になってくる。

 ――それでも私は、耐えた!

 これはもう、神様としての意地だ。

 透司郎さんには今日一日、情けない姿ばかり見せている。

 これ以上情けない姿を見せてなるものか!

 たったその一念のみで、私は荒ぶる心臓をおさえつけ、全身をコントロールして自然な寝姿を保って見せた。

 それも全ては、透司郎さんのためだ。

 明日また透司郎さんが自然に接することができるように、全力で私はこの場をやり過ごす!

 …………って、んん??

 そこまで考えて、またはたと気付いてしまう。

 あれ、それって透司郎さんのためというより……自分のためじゃないか?

 透司郎さんが自然に接することができるように、じゃなく、透司郎さんに自然に接してもらいたいから、私は……

(ひゃぁッ!?)

 不意に透司郎さんの指が私の背中に触れて、思わず悲鳴を上げそうになる……のを全力で我慢した。危ない、危ない……ここで声を上げてしまおうものなら、今まで積み上げてきた努力が全て水の泡だ。我ながらよく我慢したと、自分を褒めたい。けれど……

 バク、バク!

 当の私の心臓は、もう取り返しがつかないほど、バクバクだ。

 万が一もう一度透司郎さんに触れられたら、その指から私の鼓動が伝わってしまいかねない。

 もう本当に、全ては限界寸前だ。

(神様、神様……ああどうか、神様!)

すっかり頭が混乱して、自分自身がその神様なのについ神頼みの念仏を唱えてしまう。もちろん、心の中で。けれど今この場にいる神様は、とてつもなく意地悪な神様だった。私の願いとは裏腹に、事態は完全に想定外の方向に向かう。

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