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威春と

 家に帰った後俺は、お腹もすっかり減っていたので、サッと冷蔵庫の有り合わせを使って適当にお昼ご飯を作り、リビングで食事を済ませた。

 それから余った時間を潰すかのように、母さんの部屋と物置部屋の整理をした。といっても、すでに春休みの間に余分な家具やベッドはあらかた片付け終えてしまったから、こまごましたものを処分して、床に掃除機をかけたぐらいだが。もちろん母さんの結婚指輪やアルバムなどの形見は、丁寧に別の部屋にしまってある。

 そんなこんなしているうちに、思いのほか時間はあっという間に過ぎていった。やることは少なかったとはいえ、母さんの部屋に掃除機をかけ終えた時、時刻はすでに五時を回っていた。

「そういえば、冷蔵庫の食材、もうほとんどなくなってたっけ……買いに行かなきゃな」

 俺は掃除機を端に避けて額を軽くぬぐうと、「よし」と作業を一段落させ、買い物に出た。

 財布だけ持って外に出ると、五時過ぎの空はすでに赤く染まり始めていた。

 四月はまだそれほど日が長くない。帰ってくる頃には夕日もすっかり沈んでいることだろう。俺はほんのちょっとだけ早歩きで、近くのスーパーへと向かった。

 本日の特売は――♪

 店内に入ると、いつも通り陽気な男性の声で特売のアナウンスが流れてくる。でもその特売が実際どれだけ安いのか、まだその感覚はあまり掴めていない。とりあえず今日と明日分ぐらい持つ食材だけ買って、俺はスーパーを出た。

 ありがとうございました――

 スーパーを出てもまだ、かろうじて夕日は出ていた。といっても夕日の丸の半分はすでに建物の陰に隠れている状態だ。もうじき、夜が来る。俺は、少し重い買い物袋を片手で持ちながら、帰り道を歩き出す。

 住宅、住宅、住宅……スーパーから家までの帰り道は、それ以外に景色がない。生まれてからもう何度も目にし続けてきた光景だ。その中で俺は、今日のお昼、時間にしてわずか数時間前に会った女の子のことを思い出す。

『透司郎さん!』

 彼女の声が、夕暮れの住宅街に思い起こされる。

 彼女は言った。

『素敵な名前ですね、透司郎さん!』

『はい、そうですよ。私がこの神薙神社の神様、神薙ノ彌月沙です。よろしくお願いします!』

 それは、自分のことを神様と言う、不思議な女の子との出会いだった。

 髪の色が右半分は普通なのに、左半分は完全に色を失ったような亜麻色をしていて、ほんの少し神秘的な雰囲気を漂わせる女の子。でもそれ以外のところはごくごく普通の人間みたいで、人と話すのが本当に久しぶりなのか、俺の他愛もない話を至極楽しそうに、そして嬉しそうに聞いてくれた女の子……彼女のあまりに明るいその笑顔は、なぜか俺にちょっと懐かしい感情を思い起こさせた。初めて見るのに、まるで昔から知っていたような、不思議な感覚を……


「――あれ、十六夜?」


 名前を呼ばれて、俺がハッと顔を上げる。するとそこにはまたまたよく見知った顔、小奈威春の姿があって、俺は「ふぅ」とひとつ息をはいてから、威春に声をかけた。

「よう、威春。部活帰りか? 早いな、今日は」

 威春が自宅の門にかけていた手を離して、俺に答える。

「今日は午前授業だけだったからね。部活も五時終わりだったの。ま、バスケ部は六時までガンガンやるみたいだったけどね。初日ぐらいゆっくりすればいいのに」

「そういうやつなんだよ、ヨダせんは。人がやってない時にやってこそ、人より上手くなれると思ってるタチなの。まあ、間違ってはいないんだろうけどさ」

 俺も威春の方に歩み寄って、答える。

「ふーん、相変わらず熱血だね。大変そう。……あんたはまだ、部活復帰しないの?」

「俺? ……そうだな、早く戻ろうとは思ってんだけど」

「別にいいけどね。ゆっくりすれば?」

「んだよ、冷てえな……」

「なんでよ。――へくちっ。うぅ、さすがに半袖はまだちょっとひえるなぁ。じゃあね、十六夜」

「お……おう」

 両手で体をすりながら、威春が自分んちの中へと入っていく。

 俺も威春が家の中に入ったのを見届けてから、ゆっくりと自分の家へと戻っていく。

 玄関に入って靴を脱ぎ、スペースは十分余ってるけど端の方に丁寧に靴を揃えて、リビングに向かう。リビングに着いたら、とりあえず買ってきた食材を冷蔵庫の中に詰め込んで、一息つく。

「ふぅ……」

 一人暮らしも随分長くなりはしたけど、正直まだ全然慣れないな。

 これに加えて役所への届けとか税金のなんとかかんとかまであるというのだから、今まで自分がどれだけ家のことを理解せずに生活してきたか、また理解しないままでも生活できていたことの有り難みが、わかってくる。今もそのあたりはアマネ先生にだいぶフォローしてもらってるのだが。

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