出会いの終わり
「それで、透司郎さんはどうなんですか?」
俺が一通り質問し終えると、今度は彼女の方がそんな風に俺に質問を投げかけてきた。
よっぽど久しぶりに人と話すのが嬉しいのか、その顔にはもうくっきりと『楽しくて仕方ない』と書いてあるかのようだ。そんな顔されると俺もむげにする訳にもいかず、どう接するべきかまだ手探りの状態ではあるが、とにかく言葉を返した。
「どうって……具体的には?」
「ほら、えーと、あれですよ、あれ! 透司郎さんはどこに住んでらっしゃるんですか?」
「どこって……八穂のあたりだけど」
「……八穂?」
「う〜ん、どう説明すればいいかな。……あ、そうだ。谷下霊園の近くだよ。近くつっても、十五分ぐらいは歩くけどさ」
「谷下霊園! もしかして入り口に大きな黒い石像が建ってる、あの谷下霊園ですか?」
「そうそう、それそれ。その谷下霊園だよ。へえ、そんな昔からあんだな、あの霊園」
「はい! 中はもうよく覚えてませんが、入り口のあの大きな石像だけは覚えてました!」
「確かに、やたら大きいもんな、あの石像。しかもほんとにただ大きくて高いだけの黒い石だし。なんであんなもの置いたんだか」
「墓地っぽいからじゃないですか? ふふ。……他には、他には何かありませんか、透司郎さん!」
「他にはって……」
う〜ん、相変わらず質問が曖昧すぎて返答に困る。
だが月沙も、具体的な返答を求めてそう言ってるわけではないんだろう。それは俺にもよくわかった。きっとただただ楽しいに違いない。久しぶりに、人と話すことが。だから俺は何か気の利いた話題の一つでも新たに月沙に振ってやろうと頭をひねった。けれどそこで不意に俺の腹が、
「ぐぅ〜……」
と鳴ってしまい、月沙が慌てて俺に言ってきた。
「は!? す、すみません、透司郎さん!? 無駄に長居させてしまいましたよね、ごめんなさい、私気づかなくて!」
「い、いや、そういわけじゃ……もともと昼ごはんまだ食べてなかっただけで」
「ごめんなさい、ごめんなさい! 透司郎さんっ! そうですよね! 急にこんなわけのわからない存在に話しかけられても、迷惑でしたよね!? ごめんなさい、透司郎さん。どうぞ、透司郎さんは帰ってお昼ご飯をお食べください! 私ももう、帰りますから!」
「い、いや、だから……つうか、帰るって、どこに帰るんだよ、お前」
「え……?」
俺に言われて、月沙が一瞬だけポカンとした表情を浮かべる。しかしすぐにまた「ふふ」っと笑って、月沙は言う。社の方を指差しながら。
「もちろん、社に、ですよ。あそこが私の住まいですから」
しかし指差された社の方は、月沙の笑顔とはまるで真逆に、どんよりとした雰囲気を醸し出している。それもそのはず。さっきも見た通り、月沙の指差す社はもう明らかに手入れがされてなくて、壁はぼろぼろ戸はすきまだらけなのだ。さらには月沙が開けてくれたおかげで今や社の中の方までしっかり覗けるが、中も謎の木片やら粗大ゴミやらですっかり荒れ果てた状態で、とても人が住める状態とは思えない。しかしそれでも月沙は、笑顔で言う。
「ふふ、結構住んでみれば良い場所なんですよ? 六畳一間、私だけのお城です! それに神様は食事も必要ないですし、寒さ暑さも関係ありませんからね。あれが私のベスト住まいなんです!」
「へ、へえ……そうなんだ」
「はい! ――クシュンっ。そ、それでは、透司郎さん! また願い事があったら、ぜひこの神社にいらしてくださいね!」
「お……おう」
「それでは、また!」
「ああ……」
月沙が笑顔で手を振って、社の方へと駆けていく。
それからタッタっと軽快に階段をのぼって、社の中へと入っていく。月沙が社の中に入ると、手も触れてないのに自然と社の戸がバタンと元の通りに閉まった。俺はその間ただただ呆然と月沙の後ろ姿を見やっていた。頭の中では漠然と「なんだったんだろう、今のは……」なんて考えながら。




