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第十三話 震える体、その理由

 


 道具屋には、調理器具一式と、料理に必要な物が大体揃っている。

 街の普通の主婦が入店することもよくあるほどに、品揃えが良いのだ。


 長期期間依頼のために遠征するパーティもいるから、そのためだろう。

 旅先で魔獣を調理しながら攻略することもあるため、意外と道具屋に足を運ぶ冒険者も多い。


 そして、大体頼めば、賞味期限が近いサラダ油を格安で売ってくれると、パーティの主婦的な存在だった僕は知っていた。


 だから二周目の時、あの玉座を見てから僕はこの作戦を思いついた。

 そして、僕の作戦は見事なまでに嵌まったのである。


『『『『『ギャァァァアアアアアアア!!?!?』』』』』


 ゴブリン共の絶叫が、迷宮の中を木霊した。

 炎が巻き起こってからは早かった。

 奴らはパニックを引き起こし、同士討ちを始めたのだ。


 僕はチャンスだと思い、次々と炎の弾丸を撃ち続けた。

 炎が放たれるたびに、騒動を起こすゴブリンたち。

 そして最も炎で焦がれたゴブリンたちの王は、


『ギギャァァァアアアアアアアアア!!!』


 棍棒を振り回し、火の元(子ゴブリン共)を叩くという暴挙に出た。

 おかげでキャンプファイアーのように燃える仮初の玉座以外の炎は沈下したが、

 立っていられたのは唯一、首領たる王だけであった。


『ギィィイイイ』


 ゴブリンキングは息をしている同士が誰一人いないことを察すると、少しだけ逡巡したのち――、


『バキバキバキ……ゴキゴキゴキ……』


 子供の死体を、喰らい始めた。


「――――ッ!」


 僕は動けなかった。

 奴がその牙で死体を漁り、血を撒き散らしながら吼えるその姿を、見ていることしかできなかった。


 怖かったから?

 もちろん、それもある。


 僕は怖かったのだろう。

 弱虫野郎だった今までの自分のように。

 その残虐な光景を見て、怖かったのだ。


 しかし、この震えは。

 体中を走るこの震えの根本理由は、おそらくソレではない。


 ……圧倒されたのだ。

 異常なほどの、生への執着。

 恥も外聞も捨て、生きることのみに全力を尽くす生の輝きに、敗北感すら覚えたのだ。


 そして思う。

 こいつを倒したいと。

 この化け物を殺して。

 その先にある強さを、我が物にしたいのだと。


「……ああ」


 ――そうだ。

 この震えを。

 剣を握る右手に力が入る、僕が未だかつて経験したことのないこの震えの名前を。

 物語の中でしか見たことがないこの震えの名前を。


 僕は、知っている。


「…………ははっ」


 剣を正面に構える。

 地を踏む足に力を込める。

 目を有らん限りに開く。


 ああ、知っている。

 知っているさ。

 未だかつて弱い僕が経験できなかったこの震えの名前は――、



 武者震いだ。


心情×盛り上げ回シーン。いいですよね。僕は好きですね。

次話で決戦です。

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