その8
ここまで一気に書くとメールの着信音が鳴った。ゴッホの画集の上に置いていた携帯を手に取ると差出人を見た。それは頼子からだった。
『兄さん、どう?小説の方は進んでる?
今日、兄さんが帰った後、検査の結果がでたけど、特に異常は無かった。
だけどまだ様子を見ないといけないみたいだから、当分、入院しないといけないみたい。
これが結構嫌なんだけどね(笑)
だから父さん、母さんには大丈夫だからと言っておいてね
じゃぁね 』
僕は読み終えると、そっと携帯を画集の上に置こうとした。
その時、再び携帯にメールの着信音が鳴った。
慌てて僕は画面を見た。
頼子だった。
(何だ?)
そこには短くこう書かれていた。
『兄さん、結局その“向日葵の少女”には会えたの?』
その一文を見て僕は苦笑とも言えぬ表情をした。
(まだ小説は書き始めたばかり、そんなに早く結末は書けないよ。まぁ楽しみにしといて)
そう心の中で呟くと、僕は物語の続きを書く為に再びキーボードを叩き始めた。しかし、不意に手を止めた。
(明日は仕事だから、あんまり夜更かしできないな。今、何時頃だろう?)
顔を上げて壁に掛かっている時計を見た。
その時、時計の秒針が音を立て動くのを僕は見た。