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向日葵を探しに  作者: 日南田 ウヲ
31/46

その31

 僕達が勝彦を抱えるように飛び込んだ場所と言うのは“慈恵寺”という有名な古刹だというのはこの事件の後、大分たってから知った。

 境内には広い庭があり、四国のお遍路を模して置かれた床石を回れば満願を迎えることができるとされ、また大きな銀杏の木があり、本堂には素晴らしい千手観音が見ることができる。

 ただこの頃の僕達には仏教への教養も知識も無く、それよりも青くなって震える勝彦を一刻でも早く救いたいという気持ちで一杯だった。

 今は唯、本堂の床にタオルを引いて勝彦を寝かせ、僕達は正座をしてひたすら勝彦の身体を摩るしかなかった。

「さっき坊主の人が言っちょった医者はいつ来るんじゃ?」

 ツトムが摩りながら僕に言った。

 僕は首を振った。

「分からない。でもすぐ来るはずだよ。近くに住んでいると言っていたから」

 うーん、と顔をしかめるとツトムが唸る。

「勝彦、大丈夫か?」

 兄が弟に言う。

 勝彦はそれに微かに頷く。

「がんばれ。もうすぐ医者が来るっちゃ」

 そう言うや、勝幸はお堂の奥に見える仏像へ向かって走り出した。

 手を大きく鳴らして、仏像の前で頭を下げた。

 その様子を僕達三人が見ている。

 すると勝幸が大きな声で言った。

「南無阿弥陀仏!南無阿弥陀仏!仏様!弟を救ってください!」

 それは本堂内に響いた。

 それを聞いて、僕とツトムも一斉に立ち上がり、仏像の前に向かった。

「ガッチ、もう一度一緒に言おう」

 僕は勝幸とツトムを交互に見た。

 二人が頷く。

 三人一緒に手を大きく叩き、大きく息を吸うと大きな声で言った。

「南無阿弥陀仏!南無阿弥陀仏!仏様!」

 勝幸が叫ぶように言う。

「弟を救ってください!」

 続いてツトムと僕が大きな声で言う。

「かっちゃんを救ってください!」

 その声が堂内に響いた時、突然鐘が鳴って堂内に響いた。

 僕達三人はその音の方を振り向いた。

 丸坊主頭の人物が手に小さな鐘を持って僕達を見ていた。

「結構な心構えじゃ。仲間の無事を祈るため千手観音様に手を合わせちょったか」

 すると丸坊主頭に手を遣りながら僕達の側に来て、観音像の前で静かに手を合わせ短い経文を口にすると、視線を像に向けて再び鐘を鳴らした。

 音が堂内に響いて外に消えるまで再び手を合わせたので僕達も観音像に向かって手を合わせた。

「観音様がすぐ君等の願いを叶えてくれる。心配するな」

 すると庭の方で車の音が聞こえた。

 手を合わせたまま顔を上げると車から人が降りる音が聞こえ、その音をひたすら耳で懸命に追った。

 音は急ぎ足でこちらに向かっている。

 そう誰もが思った時、本堂に眼鏡をかけた紳士が急ぎ足で現れた。

「お義父さん、こちらですか?お電話を頂いた子供と言うのは?」

 その声に「おお!倫太郎君」と丸坊主頭が言った。

「そうじゃ。どうも蛇に噛まれてな」

 丸坊主頭が僕達を見る。

「子供達、館林先生が来てくれたからもう大丈夫やっちゃ」

 すると勝幸がその紳士の側に転ぶように走り出して言った。

「先生、先生!弟が蛇に・・背中を噛まれたっちゃ。何とか、何とか助けてください!」

 その後に続いて僕もツトムも走り出し医者の側に膝をついて頭を下げた。

「先生、かっちゃんを助けてください」

 先生は僕達の顔を見て力強く頷くと、静かに質問をした。

「誰か、噛んだ蛇を見たかい?」

 ツトムが手を上げた。

「じゃ、君。その蛇は、どれくらいの大きさでどんな色をしていたかい?」

 ツトムは立ち上がり手を自分の肩から少し広げていった。

「こんぐらいの大きさじゃったと思う。ほんで白黒の島斑の皮膚をしちょった」

 先生が頷く。

「蛇の頭を見たかい?」

「頭?」

 ツトムが目に皺を寄せた。

「そうだね。三角形をしていたかな。それともすこし丸い、そうだね・・・玉子型みたいだった?」

 ツトムは自分が掴んだ蛇の頭を思いながら手を動かしていく。

「確か・・」

 ツトムが言い出そうとすると、勝彦が言った。  

「丸かった・・・、僕、目の前で見たから」

 弱弱しい勝彦の声に皆が振り返る。

「丸かったかい?」

 先生が言った。

 それにツトムも頷く。

「うん、先生。確かに丸かった」

「よし!」

 先生はそう言うと勝彦の背を抱えて持ち上げた。

「どうじゃ?倫太郎君?」

 丸坊主頭が先生に聞いた。

「お義父さん、市内の緊急センターに連れて行きます。ただ、最初聞いていたようにマムシではないかもしれません。今の話を聞くとおそらく青大将あたりかと・・・・、でもどちらにしても緊急センターへ今から僕がこの子を連れて行きます。それですいませんが、残る子供達を僕の家へ連れて行ってくれませんか」


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