その30
夜の暗闇を自転車で走る姿が在った。
新穂先生の姿だった。
職員室で電話を切った後、学校に来た生徒たちの両親達から息子達が行方不明で帰って来ていないことを聞いて目の前が真っ暗になった。
何故なら昼間自分はちゃんと生徒達と会い、話をして自分の自宅から送り出したからだ。
衝撃はいくばくか分からない程だった。
両親達が帰った後、居ても立っても居られなくなり、自転車を漕いで生徒を探しに出た。
あてなど無かった。昼間出会った生徒たちの道筋を追いかけるように進んで行ったがどこにも姿が見えなかった。
(別の道を通っているかもしれない)
そう思った時、暗い道の中でぽつりと公衆電話が見えた。
勢いよく公衆電話のドアを開けると、小銭を入れて電話をかけた。
この通りのずっと先に自分の親戚が居る。もしこの通りをそのまま生徒たちが通っていればその姿を見るかもしれない。
(そうであれば、あの子等を見つけるかもしれない)
そう思うと自分は別の道を探そうと考えた。
電話の呼び出し音が鳴り響く。
それが三度なった時、受話器の向こうで親戚の声がした。
「あ、叔母さん・・実は・・・」
急くように用件を伝えると電話を切って、今来た道を戻り始めた。
(朝が来るまで生徒達を見つける)
思いを秘めて暗闇の中を険しい顔つきで進んで行く。
途中パトカーとすれ違った。警察も行方不明の少年を探すために巡回していた。焦りでいら立つ心を押さえて、先生は自問した。
(何故、あの子達は私に嘘をついたのだろう)
そう思うと自分が悲しくなった。何よりも信頼する生徒たちに嘘をつかれたことが身に堪えた。
(しかし)
顔を振った。
今は余計なことを考えないで懸命に探そう。
(無事でいてほしい)
それだけを願い、新穂先生は夜の暗闇を進んで行った。




