その26
「新穂先生」
夜を迎えた職員室で同僚の恩田先生が声をかけて来た。
中年の小太りの婦人だが、いつもニコニコしていて愛想がとても良い。
「恩田先生、どうかされましたか?」
帰り支度で自分の荷物をバッグに入れながら新穂先生が言う。
「いえね、先生、息子から先程電話がありましてね」
新穂先生の手が止まった。
「先生、すいません、うちのクラスの子等がお宅へ遅くまでお邪魔していたのでしょう?」
頭を下げて手の平を合わせて
「全く、あの子達、テレビゲームばかりですいません」
と言った。
慌てて恩田先生が言う。
「いえ、先生違うのですよ。実は今日は誰も来なくて、息子は一日中一人だったようです。それでゲームにも飽きたようで・・・・困った息子です。それで一日家に居て外出したくなったから今晩どこか外食に連れて行ってくれないかといいましてね。もしよければ先生もどうかと?それとも今夜は黒木先生と御用事がありますかね?そろそろ例の時期も近づいてきていますし・・」
「恩田先生、いえ、そんなことは・・・、まだその件は少し先ですから・・」
そう言いながら新穂先生がきょとんとして恩田先生を見る。
「誰も来なかったのですか?うちのクラスの夏生と勝幸、それに・・黒木先生のクラスの勝彦君も」
そう言うと同時に教員室の電話が鳴った。
その電話を別の先生が取った。短く相手と話すと新穂先生の方を見て言った。
「先生、お電話です。クラスの勝幸君のお母さんからです」




