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向日葵を探しに  作者: 日南田 ウヲ
23/46

その23

 

 僕達はバスタオルで頭を拭きながら居間に入った。

 ツトムだけが上半身裸のままだった。

 テーブルが在ってそこに人数分の赤く熟れた西瓜が綺麗に置かれていた。

 先生はそこから少し離れたところに椅子を置いて腰を掛けて何か作業をしていた。

「皆、そこにある西瓜を食べなさい。美味しいわよ」

 先生が手を止めて僕達を見て言った。

 皆が頷いた時、僕は先生がツトムの服の破れた襟を縫っているのだと分かった。

 それにツトムも気づいたのか少し下を向いて西瓜を口にした。

 暫く無言のまま庭先から聞こえる蝉の鳴き声を耳にしながら僕達は西瓜を食べた。 

「ツトム」

 先生が動かしていた手を止めて、ゆっくりと僕達の前に先程まで着ていたツトムの服を見せた。

 破れた襟は見事に修繕されていた。

「できたわ」

 ツトムが西瓜の種を吐き出しながら、先生に頭を下げた。

「ありがとう、先生」

 それを聞いて先生は大きくにっこりと笑い、立ち上がると箪笥を開けて、白いシャツをツトムの所に持ってきてそれを手渡した。

「ツトム、お母さんの作ってくれた服はまだ乾いていないから、今日はこれを着て家に帰りなさい。お母さんの服は後日、先生がツトムの家に持っていってあげるから」

 手に取ったシャツをツトムが広げた。胸の所に大きく“教育大”とプリントがされていた。

「教育大?」

 勝幸が言う。

「そうよ、教育大。先生は東京の教育大学出身なのよ」

「東京の大学出なんじゃね。じゃ頭良いんじゃな」

 勝彦が西瓜から口を離して、僕の方を見た。

「当然だよ、かっちゃん。先生だもん。頭良いにきまってるよ」

「じゃね」

 勝彦がしみじみと上下に深々と頭を振ると、それが可笑しかったのか先生が笑い声を上げた。

 皆もそれにつられるように笑う。

「じゃ先生、これ借りっど」

「どうぞ」

 先生が笑顔で言った。

 僕はツトムが先生のシャツを着るのを見て、淡い嫉妬を感じた。

(羨ましい。新穂先生のシャツを着るなんて)

 しかし顔ではそんなことはおくびにも出さないようにして冷静にしていた。

 そんな僕を見て先生が急に言った。

「夏生、あんた隠し事しとるじゃろ」 

 先生の声に僕は思わずどきりとした。

(石鹸のこと・・・ばれた!)

 ズボンの後ろポケットに手を遣りながら、僕は先生に向き直った。

「何のこと・・?先生」

「何の事じゃない。なんでこんなところまで違う地区の夏生達が来たのか・・君達、隠し事を先生にしているでしょう?」

 先生が一人ひとりじっと見つめる。

 僕達は先生の視線を受け止めながら少しずつ頭が下がるのを感じた。

(やばいな)

 そんな感じで僕達四人は交互に視線を合わせる。

 別に黒谷まで行くことを秘密にする必要は無いが、子供の足でそこまで行くのを聞けば先生は止めるに決まっているのは皆分かっていた。

 困ったなと言う顔をして僕は勝幸を見た。こんな時、勝幸は絶妙な嘘をつくことができる。僕はそれに期待した。

 勝幸の目が一瞬外を見るように動いて直ぐに先生に向き直った。

(何か言うな)僕は心で思った。

「シシに会いに行くんじゃ」

「シシ?」

 先生が頭を捻った。それを聞いて僕は思わず口笛を吹いた。

「何ね、夏生」

 先生が僕を見る。

「何でもないです」

 そう言って僕は勝幸を見て軽くウインクした。

(それでオッケー)

 そんな合図を送る。

 答えるように勝幸がいがぐり頭を撫でながら言う。

 その時にはツトムも勝彦も僕のウインクの意味が分かって、後は勝幸が話すことに任せた。

「シシじゃ。僕らはこれから恩田の所に遊びに行くところじゃ」

「恩田先生の?」

 先生が目を丸くした。

「そうじゃ」

 勝幸が頷く。

 残りの皆も遅れて頷く。

 勝幸が頷いた恩田先生は新穂先生の同僚で僕達の隣のクラスを担当している。恩田先生の息子は僕達と同じクラスで今年の春に東京から転校してきた。その息子のことを僕達は“シシ”と言っていた。

 大都会から転校してきたクラスメイトは勝彦より太り気味で恰幅が良く、それに眉が太くて、それがどこか獅子舞の面のような面構えをしているから転校して来た初日からそのあだ名がついた。

 それよりもなによりも彼が僕達のような田舎の子供と決定的に違っている点は、唯一、彼だけがテレビゲームを持っていることだった。

 僕達はそれを知って以来、テレビゲームを目指して日々時間があれば彼の所に行き、ゲームに興じる。

 そのことは新穂先生も同僚の恩田先生から聞いていた。

 恩田先生もテレビゲームについてはあまり賛成をしていなかったが転校したばかりの息子に少しでも友達ができるのであればと、その事には少し距離を置きながら僕達子供の事を見ているようだった。

 そのシシの家はこの山川の少し先の坂敷と言う地区にある。勝幸は僕達がそのシシの家に遊びに行く途中だと言ったのだった。

 先生は勝幸の嘘に深く溜息をつくと、僕達を見て言った。

「テレビゲームばかりしないで、身体を鍛えなさい。でないと強い男になれないわよ」


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