その22
先生の家は小さな庭がある一階建ての平屋造りの建物だった。
僕達は玄関を潜ると直ぐに先生が言った「ほら、こっち」という声に押されるように風呂場に入り、服を次々と脱ぐとズボン一枚になってシャワーを手足に浴びた。
服を脱ぐとき先生がツトムのシャツだけ手に取ってそれを洗濯機に入れたのを僕は見た。
僕達は全員で冷たいシャワーで頭から水を浴びて、時折冷たい水が傷口に触れると声を上げた。
「おい、ナッちゃん見ろよ」
勝幸の声が聞こえた。
「ん?」
僕はその声に額から流れる水を手で拭いながら振り返った。
「ここに石鹸があるぞ」
勝幸が石鹸を取って匂いを嗅ぐ。
「良い香りじゃ」
それを聞くや否や僕は急いでその石鹸を勝幸から奪った。
「なんね、ナッちゃん」
「駄目、駄目、これは先生のなのだから」
そう言って僕は石鹸を握りながらゆっくりと鼻を近づけた。
とても清々しい柑橘類とは違う匂いがした。あまりの良い香りに僕はうっとりとして、呆然と立ちすくんだ。
「ナッちゃん・・」
そんな僕を見て勝彦が笑った。
「頭がなんかふやけたんじゃない?」
その声と同時にツトムがシャワーの水を強くして僕の頬に当てた。
「ひぇ!冷たい!」
「頭を冷やしてやっちゃ!」
ツトムが笑いながら僕の胸や腹にシャワーを当ててくる。
僕は叫び声を上げながらシャワーを避けようと身をよじらせていると、思わず手から石鹸を落としてしまった。
石鹸は音を立てて床のタイルにあたり、真っ二つに割れてしまった。
「あー!!」
皆の声が風呂場にこだますると同時に風呂場の外で先生の声が響いた。
「ここにバスタオル置いとくからね。ほら遊んでないで、早く出て来なさい!」
僕達はそれに促されるように急いで風呂場を出て置かれた消毒液を傷口に浸ける。
僕は皆に気付かれない様に落ちて割れた石鹸の片方を手にして何もないような顔をして、最後に出た。
(先生の所に来た記念に、石鹸もらっちゃおう)
少しほくそ笑んだ時、それを勝彦に見られて僕はどきりとした。
「ナッちゃん、なんか鼻血が出てから頭がおかしいじゃない」
勝彦が僕の方を見て言った。
だから僕は真顔で
「そうかもしれない」
と、言うや否や石鹸をズボンの後ろポケットに押し込んだ。




