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村の損害は大きく、復興には時間がかかるだろうと思われた。しかし、なんといっても自由を守ることができた。このことから、村人たちは大いに希望を持っていた。〈狩人〉らの死体や衣服は残らず燃やし、馬車も解体した。残された武器や略奪品などは、厳重に保管されることとなった。
老いた村長が亡くなったので、壮年の男が村を取りまとめていた。村人たちからの信頼は厚いらしい。今までも、現場の指揮をとるなどしていたのだろう。彼は、幼い子供や老女たちを、ローディらの世話にあてがった。とりあえず応急の修理が施された小屋への滞在も許される。そこへの案内は、彼が自ら買って出てくれた。
「本当ならばうら若い乙女がもてなすべきところだろうが、今は人手が惜しいものでね。済まない」
村長代理の男はそう言って苦笑した。ガダックが応じる。
「少し癒えたら、すぐに出ていくつもりだ。どうか構わずに」
きゃあ、と楽しげな声が聞こえ、大人たちの視線が揃ってそちらへ向いた。まだ働くことのできない、幼い子供たちが遊び転げている。それでも少し年長のものは、赤ん坊を背負っていた。リズもまた、自分より幼い子供の手を引いている。それを見て口元に穏やかな笑みを浮かべつつ、村長代理の男は言った。
「奴隷の生ではなく自由の死を……それがこの村の相言葉でね。おかげで、何度か〈狩人〉団を撃退したこともあったんだが」
言葉を切り、苦しげに目を細める。その視線が移動した先は、真新しい碑の並ぶ墓地だった。
「今回は、南でも悪名高いギムベイン……正直、全滅を覚悟した」
立ち止まり、ローディに向く。
「まったく、奇跡としか言いようがない。居合わせてくれたことに感謝だ」
「まあ、こっちも因縁があったからな」
ローディは苦々しい表情を浮かべた。居心地悪そうに、ガダックに目を向ける。老人は至極落ち着いていた。ローディの視線を受けると、ゆっくりと頷きを返す。その眼差しは、胸を張っていろ、と語りかけてきていた。ローディは肩をすくめた。
村長代理は小屋を手で示した。
「こちらは、いつまでいてもらっても構わない。村の恩人だ。それに」
リズに目をやる。
「あの子も、馴染んだようだし」
ローディは返答に悩んだ。確かに今、リズは心底楽しげに遊んでいる。村の子供たちに混ざり、声を上げてはしゃいでいる。古布を丸めて作った球を蹴りあっているらしい。小さな手が、もっと小さな手を握って、遊ぶのを手伝っている。同じ南の民であるためか、違和感なく溶けこんでいる。
迷うローディを助けるかのように、ガダックが答えた。
「これでも手負いの身ゆえ、癒えるまでは厚意に甘えたい」
村長代理は、そうか、とだけ応じ、それ以上は言葉を重ねようとしなかった。仕事があるから、と挨拶をして去る。とたん、村人たちが指示を求めて彼の元へ集まった。
「指導者を求めるのが、人間というものか」
ガダックは息を吐いた。ローディは、覇気のない声を返した。
「そうだな。だから、人間の糞だけ集めたみてえな領主どもも、いなくならねえんだろうよ」
ローディの北もガダックの西も、いや、どこへいっても、領主に恵まれた土地などなかった。だが、誰もその場から引きずり降ろされることはなく、権力の椅子に座っている。それがまるでお伽噺の中のことのように遠く思われて、ローディは重い息を吐いた。彼の見知った指導者といえば、今までに立ち寄った町や村の領主、あるいは〈狩人〉や〈白鳥の嘴〉の幹部たちである。
「……あの女も」
思考が逸れ、呟きがこぼれた。が、髪を乱すように頭を掻いて、切り替える。
小屋の中には、古びたベッドが二つと食卓だけがあった。調理場などはなかったが、それは村人たちが用意してくれるためだろう。棚が一つだけあり、着替えなどが用意されていた。ローディは荷をベッドのそばに置くと、武装を解いた。体が一気に軽くなったような気がした。もう一つのベッドのそばで、ガダックが同じように着替え、解放感に満ちた、大きな息を吐いていた。
二人がくつろいでいると、扉を叩く音がした。ガダックが誰何する。
「お世話を仰せつかりました。少しは薬の知識もありますで、お役に立つかと」
しわがれた声。ガダックが立とうとしたのをローディは手で制し、扉を開けた。目の前にいたのは、腰のひどく曲がった老女だった。先の襲撃で生き残ったのが不思議なくらいだ。手に提げたかごには、手当ての道具らしきものが入っている。
「ああ、頼む」
ローディは身を引き、彼女を中に入れた。
「まずは親父の脚だ」
「おまえの肩のほうが大事だろう」
ガダックが強い声を出すが、ローディは譲らなかった。ガダックの前に椅子を動かして老女を座らせる。ガダックは、ふ、と微笑んだ。
「まったく、聞き分けのない息子だ」
ローディは鼻先を指でひっかきつつ、ベッドに横になった。頬のあたりが妙にくすぐったかった。




