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帰郷の風  作者: 宮音 詩織
23/29

*23

 遠くに、山が見えた。青空にくっきりと浮かび上がる峰は尖っており、白いものをまだらに被っている。堂々とそびえているのだろうが、はるか遠い。ガダックが言った。

「ほう、トトカ山脈……南の果てが見えたということか」

「え、もうか?」

 ローディが思わず声を上げると、ガダックは喉の奥でくつくつと笑った。

「知らぬのか。トトカ山脈は高く、周りは平地ばかりなので、遠目でもその姿を拝むことができる。ここから見えたからと言って、近いというわけではないぞ」

 ローディは頬をひきつらせた。すぐに舌を出し、おどけた顔を作る。

「親父にゃ敵わねえな」

「なに、年の功だ。おまえもいずれ、こうなるのだよ」

 ガダックはまだ笑っている。と、その目がリズに向いた時、それが一気に失せた。ローディはガダックの反応を見て初めてリズの変化に気づき、目を向けた。

 リズは山をじっと見つめていた。ローディはリズの肩に手を置いて、軽く叩いた。リズはびくりと身を大きく震わせた。

「お山、リズのおうち、見える」

 その意味するところをローディは捉えかねた。ガダックも困惑した顔をする。リズは顔を上げ、必死に訴えた。

「リズのおうち、あっち!」

 そう言われて、ローディはやっと幼子の意図するところを察した。

「そうか、リズんところからも、山が見えてたんだ。その見え方で、家の位置がわかる。そうだな?」

 リズが頷いた。ガダックが片手を額に当てた。

「賢い子だとは思っていたが、なるほど末恐ろしいな」

 唸る彼をしり目に、ローディはけらけらと笑った。

「なあに、ガキは賢いほうがいい。変な連中に引っ掛かる心配をしなくて済むからな」

 偉いぞ、と言ってリズの頭を撫でてやると、リズはにこにこと満面の笑みを浮かべた。

「あっち、あっち!」

 指でその方向を示す。ガダックも困ったように眉根を寄せていたものの、口元は優しげにほころんでいた。

 二人は馬首をリズの示す方へ向けた。幼子の言葉を信じるならば、彼女の故郷は近い。たどり着くだけの希望も見えた。


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