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遠くに、山が見えた。青空にくっきりと浮かび上がる峰は尖っており、白いものをまだらに被っている。堂々とそびえているのだろうが、はるか遠い。ガダックが言った。
「ほう、トトカ山脈……南の果てが見えたということか」
「え、もうか?」
ローディが思わず声を上げると、ガダックは喉の奥でくつくつと笑った。
「知らぬのか。トトカ山脈は高く、周りは平地ばかりなので、遠目でもその姿を拝むことができる。ここから見えたからと言って、近いというわけではないぞ」
ローディは頬をひきつらせた。すぐに舌を出し、おどけた顔を作る。
「親父にゃ敵わねえな」
「なに、年の功だ。おまえもいずれ、こうなるのだよ」
ガダックはまだ笑っている。と、その目がリズに向いた時、それが一気に失せた。ローディはガダックの反応を見て初めてリズの変化に気づき、目を向けた。
リズは山をじっと見つめていた。ローディはリズの肩に手を置いて、軽く叩いた。リズはびくりと身を大きく震わせた。
「お山、リズのおうち、見える」
その意味するところをローディは捉えかねた。ガダックも困惑した顔をする。リズは顔を上げ、必死に訴えた。
「リズのおうち、あっち!」
そう言われて、ローディはやっと幼子の意図するところを察した。
「そうか、リズんところからも、山が見えてたんだ。その見え方で、家の位置がわかる。そうだな?」
リズが頷いた。ガダックが片手を額に当てた。
「賢い子だとは思っていたが、なるほど末恐ろしいな」
唸る彼をしり目に、ローディはけらけらと笑った。
「なあに、ガキは賢いほうがいい。変な連中に引っ掛かる心配をしなくて済むからな」
偉いぞ、と言ってリズの頭を撫でてやると、リズはにこにこと満面の笑みを浮かべた。
「あっち、あっち!」
指でその方向を示す。ガダックも困ったように眉根を寄せていたものの、口元は優しげにほころんでいた。
二人は馬首をリズの示す方へ向けた。幼子の言葉を信じるならば、彼女の故郷は近い。たどり着くだけの希望も見えた。




